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白の魔王の物語  作者: まる
53/61

51話 覚悟を決める時が来たようです

「赤髑髏を退治してくれたお礼だよ! さあ、遠慮せずに食べとくれ」


 にこにこと馴れた手つきで給仕をしてくれるおかみさん。それはいいんだけど……。もうテーブルの上には、はみ出さんばかりに料理が並んでいるんですが。

 止まる気配の無い料理の運搬に、流石にウィナードさんが困惑した顔をした。


「おかみさん、さすがにこの量は……」

「何言ってんだい。若いんだから沢山食べないともたないよ! それでなくても過酷な仕事をしてんだから、体力を付けないとね!! ほら、このお皿のやつもうちょっとしか残ってないんだから、食べちゃいな」


 残り少ない料理の皿を目ざとく見つけたおかみさんは、有無も言わさずルークさんの取り皿に流し込んだ。必死に料理を食べていたルークさんは、追加された料理に目を白黒させている。


「ストップ! 流石に持って来すぎ! こんなに食べきれないって。ジュジュだって困っちゃうわよ」

「え? わたしですか?」

「そう! ジュジュ、食べ残し出来ないタイプでしょ? こんなにあって食べきれる?」


 うっ、確かにこれはきつい……。

 鈴さんの質問に答えられずにいると、おかみさんは少し残念そうな顔をしながらも「そうかい?」とテーブルをまじまじと見つめた。


「……確かに、ちょいと多かったかもしれないねぇ。あんた! もう料理は十分だよ。デザートは出来てるかい?」

「デザートもあるわけ? ま、いっか。甘い物は別腹よね」


 呆れた様子を見せながらも、鈴さんがわたしに笑いかけた。うん、確かにそれは同意できます。


 ……それにしても、ジオさんは大丈夫かな。

 ジオさんは、あの後少し考えこんだ様子を見せて、静かにお店を出て行った。まさか、警備隊に向かったんじゃ……と不安になったけど、追いかける事は出来なかった。


「どうした、ジュジュ。手が止まってるぞ」


 聞き覚えのある声にはっと顔を上げると、デザートをもった旦那さんがこちらを見下ろしていた。


「旦那さん!」

「また事件に巻き込まれたんだってな。まあ、俺の料理で元気を出せ」

「あ、ありがとうございます! そう言えば、この料理初めて見るんですけど、新作ですか?」

「ん? ああ、それはハイルの考案した料理だ。どうしてもジュジュに食わせたいって言ってな」

「親父さん!」


 旦那さんが言うと、台所の方から声が飛んできた。

 ハイルさんが上半身を乗り出して、真っ赤な顔をしている。

 懐かしい姿に、思わず笑みが浮かんでしまう。


「ハイルさん。お久しぶりです」

「よ、よお、ジュジュ。元気そうだな」

「あ、ずるい兄貴! 俺もジュジュに会いたい!」

「ジュジュー!」


 ハイルさんを押しのけるようにしてロニーさんが顔を出し、その脇からジョセフさんが手を振って来た。

 なんか、懐かしいな。


「ねえ、あんた達もこっちに来ない?」


 ふいに鈴さんがハイルさん達に声をかけた。

 突然のお誘いに、ハイルさん達は目を丸くしている。


「え? でも」

「いいわよね? ウィー」

「ああ。食べきれないし、どうぞ」


 勇者様の優しい笑顔を見て、ハイルさん達は戸惑った様に旦那さんを見た。旦那さんが肩をすくめて、一つ頷く。


「そ、それじゃ、お言葉に甘えて」


 許可が下りると、ハイルさん達はいそいそと台所から出てきた。

 人数が増えて、さっきよりも騒がしい食卓になる。男の人三人が増えると、あれだけ溢れていた料理もどんどん減っていった。


 そして。


「ロニー! あんた、結構いける口ね! ハイル、あんた兄弟子でしょぉー? だらしないわね~」

「ね、姐さん、勘弁して下さい……」

「兄貴、だらしないなぁ~」

「ロニー……お前、覚えておけよ」

「ジョセフも一口くらい付き合いなさいよ!」

「いや、俺は飲めなくって……」

「飲んでみなきゃ分からないでしょ!」

「いや! ホントに無理なんです! 一口でぶっ倒れちゃうんで!」

「鈴! お前絡み過ぎだ!」

「何よー! ウィーが付き合い悪いのがいけないんでしょ!」


 やっぱりこうなるんですね……。


 お酒が入ると、もう鈴さんの独壇場だ。楽しいけど、中に入るのは遠慮したい状況になっている。遠巻きに見ていると。


「ジュジュ」


 隣からそっと声をかけられ、驚いて振り向く。


「ジオさん? え? いつからいたんですか?」

「今来たところ。ちょっといいか?」

「えっと……」


 黙って行くわけにはいかないよね……でもなぁ。

 ウィナードさんは鈴さんと言い合っているし、ルークさんはその仲介に忙しそうだ。お腹がいっぱいになったのか、クーファはテーブルの上でいびきをかいているし。旦那さんとおかみさんは台所に引っ込んでしまっている。視線を移すと、端の方で静かにお酒を飲んでいるジェイクさんと目が合った。

 他に声をかけられそうな人もいないし、ジェイクさんに声をかけていこう。

 他の人の邪魔にならないように、そっと移動する。


「すいません、ジェイクさん。少し、出てきますね」

「……五分で帰って来い」

「はい」


 許可が下りた事にほっとしつつ、ジオさんと一緒にお店を出た。

 日が落ちかけている事に、外に出てから気が付く。空は半分茜色に染まって、不思議な色合いになっていた。涼しい風が頬を撫でる。


「楽しんでいたのに、連れ出しちゃって悪かったな」


 後ろからジオさんが声をかけてくる。

 振り向くと、ジオさんは真剣な表情でこっちを見ていた。


「あれから考えたんだ。あんたが、俺が投降するのを良しとしないんなら、俺は警備隊には行かない」

「……本当ですか?」

「ああ」


 はっきり答えたジオさんに、ほっとして全身の力が抜けそうになった。


「良かった……ありがとうございます」

「お礼を言うのはこっちだって! ホント、変な奴だな」

「変って!」


 ジオさんの言い草に怒ったように言い返しながらも、心の中は軽くなっていた。

 ジオさんが投降していたら、わたしも罪悪感を背負っていたと思う。だって、わたしはジオさんを恨んでいないんだから。むしろ感謝をしているし、それに出来る事ならもっと仲良くなりたいと思う。

 ……よし、このままお願いしてみよう!


「あの、ジオさん」

「ん?」

「わたしと……と、友達になってくれませんか?」

「……は?」


 きょとんとしたジオさんに、一気に顔が熱くなった。

 いや、だって! こんなこと頼むの初めてだし! 今まで友達と呼べる人なんて雷翔くらいしかいなくて! 雷翔だって、雷翔の方から遊びに行こうって声をかけてくれていたし!


「い、嫌ならいいんです! 友達が欲しかっただけなので! ごめんなさい!!」

「いや、謝らなくてもいいけど……ホント、変な子な」

「変でいいです!」


 もう、もう、穴が欲しい! 入りたい!!

 恥ずかしさで脳みそが沸騰しそうになっていると、ジオさんが突然噴き出した。


「分かったよ! それじゃ、エレーナも紹介する。あいつもあんたとなら仲良くなれそうだし」

「エレーナ……妹さん? 見つかったんですか!?」

「ああ。運送用の船の中で、誘拐されていた女達と一緒に保護された。今はとりあえず警備隊が保護して、明日家に戻れるそうだ」

「そっか……良かった」


 運送用って事は、まだ売られたりしていなかったんだよね? 売られていたらもっと酷い目に遭っていただろうし……早く見つかって本当に良かった。

 思わず涙ぐんでいると、ジオさんがぽんと頭に手を乗せてきた。


「あんたには本当に感謝してる。ありがとう」

「ジオさんが、一生懸命探していたからだと思います」

「……ホント、あんたにゃ敵わねぇな」


 ジオさんは笑うと、すっと手を下ろした。


「あの後、あんたに出来ることが何かって考えたんだ。で、一つだけ、俺に出来る事があるのに気が付いた」


 ? 何の話だろう?

 きょとんとしていると、ジオさんは優しく笑った。


「俺、退治屋だって話しただろ? 退治屋にも一応元締めが居て、そこから退治屋同士情報をやり取りできるようになってんだ。だから、さっき元締めの所に行って、ライカの情報がないか調べてきた。そしたら、ライカの方からすでに情報というか、依頼が入ってきてたんだ。内容は“ジュジュという女の子を探している。紫がかった銀色の髪に、紫の目が目印”。これ、あんたの事だろ」

「…………」


 ……どうしよう。声が出ない。


 やっぱり、雷翔は生きてた。わたしを、探してくれてた。

 固まっているわたしを、ジオさんが笑った。


「良かったな! もうすぐ会えるぞ。さっき、俺の方からライカに情報を流してくれって伝えてきたから」


 雷翔に会える。


「あ、ありがとう……ジオさん! ありがとうございました!!」

「だから、お礼を言うのは俺の方なの! これくらい当然だって。それじゃ、俺エレーナのとこに、ちょっと顔出しに行ってくるから」


 あ、そっか。わたしにこの事を伝えてくれるために、妹さんに会うの我慢してくれてたんだ……。


「ありがとう!」


 去っていくジオさんの背中に声をかけると、彼は後ろを向いたままひらひらと手を振って、やがて見えなくなった。

 そのままぼーっとしていると、「おい」と隣から声をかけられた。

 少し不機嫌そうなジェイクさんがこちらを見下ろしている。


「ジェイクさん」

「五分経った」

「……はい、すみません」


 謝ると、ジェイクさんはさっさとお店の中に戻って行った。中からウィナードさん達の声が聞こえてくる。

 きっと、明日にはここを発つ事になる、と思う。そうしたら、雷翔に会う事が出来なくなる。


“ジュジュ”は、ウィナードさん達の事が大好きだ。親切にしてくれるウィナードさん。お姉さんのような鈴さん。体調や気持ちをいつも気にかけてくれるルークさん。懐いてくれているクーファ。何を考えているか分からないけど、助けに駆けつけてくれたジェイクさん。

 本当は今のままがもっと続いて欲しい。こんなに暖かくて居心地がいい場所は、今まで無かった。でも。


「“わたし”は……」


 もう、時間は無い。

 覚悟を決めなくちゃ。


「わたしは」


 魔族なんだ。

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