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白の魔王の物語  作者: まる
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47話 予想外のお迎えでした

 扉の奥から、誰かの話し声が聞こえてきた。

 何とか話を聞こうとするけど、なんとなく焦った様子しか伝わってこない。


「とにかく! 娘を見つけろ!!」


 急に怒鳴り声が響いた。


 この声――あの男!

 ぞわっと鳥肌が立つ。


「あの娘さえ隠し通せばいい。それまでは知らぬ存ぜぬで押し通せ! いいな!!」


 あの娘……って、わたしのことだよね?


「今の会話って……」

「あんたを探しに勇者が来たんだろ。でも、まずいな……ここにいるっている証拠は何もないし、しらを切られたら引くしかない」

「ええっ!?」


 思わず声を上げた瞬間、ジオさんは焦った顔をした。

 はっ、ま、まずい!

 口に手を当てるけれど、遅かった。

 ガチャッ、とドアの取っ手が回る。鍵がかかっていると分かると、ガチガチッ、と何度か激しく取っ手が動いた。


「誰かいるのか?」


 ! この声、ゲイル!?

 隣でジオさんが小さく舌打ちした。


「棚の影に隠れておけ」


 ここにいれば足手まといなのは目に見えている。言われた通りに、棚の影に移動して小さくうずくまった。

 ……この状況、前にもあった気がする。あれは――そうだ。雷翔と一緒にいて魔物に襲われた時。


 あの時も、今も、わたしは何も変われてない。指示に従って動くしか。


 ジオさんはわたしが隠れたのを見てから、扉を開けた。


「俺だ」

「ん? どうしてお前がここに? なんで鍵をかけてたんだ」

「ああ……ちょっと備品を失敬しててな」

「ははっ、真面目そうな顔して、結構あざとい奴だな。そういや、俺も煙草を切らしてたんだ。ちょっと失敬するか」


 ま、まずい。こっちに来る!

 傍に来るゲイルの気配を感じる。

 足音がすぐ傍まで来て、止まった。煙草が置いてあるのは、どうやらわたしの隠れている所のすぐ横の棚だったらしい。


 う、うわああ! ゲイルの顔が見えるんですが!!


 ゲイルはわたしにまだ気が付いていないみたいだ。ごそごそと棚を探りながら、「ああ、そうそう」とジオさんに話しかけた。


「昨日捕まえた女がいただろ? あの珍しい色の」

「ああ、勇者の連れの女だな」

「頭、あの女をわざと逃がして追いかけて楽しんでいたらしいんだけどな」

「……悪趣味だな」

「ははっ、まあな。で、タイミング悪く勇者の連れが女を探しにここに来ちまったらしい。頭がすぐに娘を見つけろって騒いでたぞ」

「分かった。煙草は見つけたか? さっさと探しに行くぞ」

「そんなに急がなくても大丈夫だって。どうせ押し入る事なんて出来ないんだし……」


 言いかけたゲイルの目が、ふとこちらを見た。


 ―――!!


「お、前!」

「っ!!」


 反射的に立ち上がり、ゲイルに向かう。

 ぶつかっていって、そのまま逃げれば――!


「っと。ははっ、見ぃつけた」


 う、そでしょぉぉ!?

 最善だと思った考えは浅はかだったらしい。ちょっとでも怯ませる事ができると思ったけれど、ゲイルとわたしでは体格差がありすぎた。

 いとも簡単に、あっさりと抱きとめられてしまった。


「は、放して!」

「まさか、こんなとこに隠れているとはなぁ。ん? ジオ、お前こいつに気が付かなかったのか?」


 ゲイルが言い終わるか終わらないかの前に、シュッという風を切る音がした。

 その瞬間、ゲイルの拘束が剥がれて、尻餅をついてしまう。


「っぶねぇ! おい! ジオてめぇ」


 睨みつけるゲイルに、ジオさんは無言のまま短剣を構えた。

 一気に空気が変わる。


「何考えてるか分からねぇ奴だと思ってたが……てめぇ、警備隊か?」

「……エレーナは、どこにいる?」

「ああ?」

「エレーナ=ファリアスだ。一か月前、お前らが馬車から連れ去った子だ!」

「ああ、攫ってきた娘のことか? 攫うまでが俺の仕事だ。それから先は知らねぇよ。そんなことの為に、わざわざ乗り込んできたのか?」

「そんなこと……? ふざけるな!!」


 ジオさんがゲイルに飛びかかった。

 いつの間にか右手に握っていた剣で、ゲイルがジオさんの短剣を防ぐ。ギン、という鈍い音が響いた。


「俺の妹を何処にやった! さっさと答えろ!!」

「妹? ああ、わざわざ妹を探しに来たのか。ははっ、まだ生きているといいな?」

「お前……っ! 殺す!」

「ははっ、出来るもんならな! 逆に殺してやるよ。妹に会えるかもしれねぇぞ、お兄ちゃん」


 二人の間に殺意が膨れ上がるのが分かった。

 その空気が、心臓を突き刺してくる。見たくないのに、体も視線も動かない。

 二人がそれぞれの武器を構えて、振りかぶった。その時だ。


 ッガン!!


「!!」


 突然扉が激しく歪んで、勢いよく開いた。

 開いた勢いのまま、バン、と壁にぶつかる。

 戦闘態勢に入っていた二人は手を止めて、扉に目を向けた。わたしもそっちに目が釘付けだ。

 なぜなら、その扉の先には。


「ジェ、ジェイクさん……」


 恐ろしく無表情の帝王様が。

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