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白の魔王の物語  作者: まる
42/61

41話 謎が解明されました。って、どういうことですか!!

 一人だけ訳が分からず置いてけぼりの様な気持ちになっている間に、領主様の所に行く時間が迫っていたらしい。ウィナードさん達は慌てた様子で出かけてしまい、本当の意味でも置いて行かれてしまった。


「ジュージュ、ドウスル? 出カケルカ?」


 肩の上からクーファがわたしを覗き込んでくる。

 アンさんもにっこり笑ってわたしを見た。


「感謝祭は11時からですけど、もうお店は色々と出ていますよ。なんなら、案内致しましょうか?」

「え、でも……お仕事は?」

「大丈夫です。感謝祭は自由時間を頂けるんです。ねえ奥様?」


 アンさんに、にこにこと笑顔を向けられた奥さんは呆れた様な顔をした。


「自由時間まではまだ早いけれどね。でも、まあいいでしょう。彼女の案内をして差し上げて」

「はぁい! じゃ、ジュジュ様行きましょう!」


 元気よく返事をすると、アンさんはわたしの手を引っ張った。

 玄関を出て、門を出る。すると、全く違った街並みが広がっていた。

 昨日も活気のある町だったけれど、今はそのよりも数段にぎやかだ。ぱっと見ただけでも、色々な人が行き交っている。着ている服装もバラバラで、顔つきも違って見える。見た事のない生き物に荷車を引かせている人もいれば、家族連れらしき人もいる。


「うわぁ」


 思わずぽかんと見とれてしまったわたしに、アンさんがにこにこと笑った。


「ね、すごいでしょう? 色んな国から沢山の人がメイジェスに来て下さるんです。まずは、広場の方に行きましょう!」


 そう言うと、アンさんはわたしの手を握って歩き出した。

 人ごみの中は酷く歩きにくい。わたしは慌ててアンさんの手を握り返した。そうでもしないと、すぐにはぐれてしまいそうだ。この人ごみだ。はぐれてしまっては、屋敷に帰る事もままならなそうだ。

 馴れたようにすいすい進むアンさんに比べ、わたしは歩く度に人や物にぶつかって「すみません!」を連呼していた。ようやく人ごみを潜り抜けると、アンさんが足を止めてわたしの方を向いた。


「ここが広場です」


 顔を上げると、そこは円形の場所が広がっていた。真ん中には噴水があり、遠くの方に舞台らしきものが見える。舞台の上には誰の姿も無いけれど、綺麗に飾り付けられている。


「開場は11時からですから、あと30分はありますね。どうしましょうか、少しお店を見て回りましょうか?」

「そうですね……」


 お店を見て回るのはとても魅力的だけれど、手持ちはあの給料袋だけだ。あれだって、最終的にウィナードさん達に渡そうと思っているお金だし……買う気も無いのに、お店を見るのも心苦しい。

 うーん、どうしよう?


「あれ? 君」

「え?」


 聞き覚えのある声。

 振り向くと、声をかけてきた男の人は「やっぱり」と笑った。

 あ、この人は。


「馬車で一緒だった……」

「そう、よく覚えてたな」


 メイジェスに来るまで同行していた旅人さんは、別れた時と変わらない笑顔を浮かべていた。

 覚えていたって……数日前別れたばかりだけれどね。

 それでも、また知っている人に会えた事は嬉しかった。思わずにこにこしていると、彼はアンさんを見て、おや、というような顔をした。


「あんた、勇者様は?」


 わたしの周りを見回して、ウィナードさん達の姿を探す。


「ウィナードさん達は、別のお仕事で出かけているんです。その間に、こちらのアンさんっていう方が町を案内してくれていて。それから、クーファも一緒に着いてきてくれています」


 紹介すると、アンさんは「はじめまして」と頭を下げた。クーファは、胸を張ってすました様子。ウィナードさん達に護衛を頼まれた事が嬉しいんだろうな。


「えっと、それで旅人さんはここで何を?」

「旅人……? ああ! 俺のことか。そういや、まだ名乗って無かったよな。俺はジオルグっていうんだ。ジオでいい。あんたは、確かジュジュとか呼ばれてたよな? 改めてよろしくな」


 差し伸ばされた大きな手を握ると、とても固くてごつごつしていた。

 そんなわたし達の様子を横で見ていたアンさんが、「ゴホン!」と大きな咳をした。


「ジオさんは、メイジェスの感謝祭は初めてですか?」

「ん? ああ、話には聞いてたけど実際に来るのはこれが初めてだ」

「話には聞いていた、ということは、伝統も御存じでしょう?」

「え? ……おお! そっか! いや、悪い悪い」


 ジオさんはアンさんの言葉に首を傾げてから、わたしを見て何かに気が付いた様だった。さっと握っていた手を引っ込めた。


「いやぁ、全然気付かなかった。お詫びに何かおごってやるよ」

「ジオさん! ですから、そういうことは……」

「あんたも一緒なら問題ないだろ?」

「……まあ、そうですね」


 しぶしぶ頷くアンさん。

 そのやり取りが、どういう意味だかさっぱり分からないわたしは、完全に蚊帳の外だ。でもいい加減、このスッキリしない感じをなんとかしたい!


「あの、ジオさん!」

「ん? どうした?」

「伝統ってなんですか?」


 わたしの質問に、ジオさんも、ついでにアンさんも目を丸くした。


「えーと……おまえ、何も知らずにそれつけてたの?」


 それ、と言って差されたのは左の頭。髪飾りのついている方だ。


「ジュジュ様、『対の飾り』を知らなかったんですか?」


 ついのかざり?

 首を傾げるわたしに、アンさんは「まあ!」と声を上げて両頬を押さえた。


「意味を伝えずに渡されたんですね! 強引というか、何というか……でも、そういうのも堪りません! ドキドキします!!」


 どうしよう。アンさんの言っている事がますます意味不明だ。

 助けを求める様にジオさんを見上げると、彼は苦笑いを浮かべた。


「なんつーか、まあ……あれだ。感謝祭ってのは、色んな人との出会いの場だから、恋人のいない奴らが相手を探す場にもなってんだよ。それを示す手掛かりが『対の飾り』ってわけだ。『対の飾り』を右につけている奴は「今は恋人がいません」って印。左につけている奴は「今は恋人がいます」っていう印」


 …………な。

 な ん で す か そ れ !!

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