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白の魔王の物語  作者: まる
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36話 どうやら彼は、わたしのことを空気か簡易枕だと思っているようです

 ジェイクさんはわたしの手を掴んだままスタスタと歩いていく。

 方向的に、屋敷の外に向かっている、のかな?

 というか、どうしてわたしを連れていく必要があるんだろう? あのお嬢様から逃げたいなら、一人でどっかに雲隠れする方法だってあるし、むしろそっちの方が楽なはずだ。

 彼の目的が分からなすぎる……怖い。


「あの、どこに行くんですか?」


 せめて行き先だけでも分かれば、少しは不安が消えるかもしれない。

 不快にさせないように気を付けながら尋ねると、ぴたっと足を止めた。


「……さあ?」

「……え?」


 予想の斜め上の答えが返ってきました。

 ぽかんとしていると、ジェイクさんは少し首を傾げて考え込んでから、今度はゆっくりと歩き出した。


「とりあえず、ここからは離れる。あの女が来たら面倒くさい。……どこに行けば良い?」

「え……いや……わたしに聞かれても。ジェイクさんは行きたいところないんですか?」

「行きたいも何も、この町に何があるのかわからん」

「メイジェスに来るの、初めてなんですか?」

「さあ」

「…………」


 どうしよう、会話がちぐはぐすぎる。

 次に何を言って良いのかもわかりません! 空気! 空気が重い!!

 頭の中でぐるぐると話す言葉を探していると、グキュウ、という音が耳元に響いた。


「え? あ、クーファ?」


 音の元をたどると、肩に乗っているクーファがしょぼんとした顔でこっちを見た。


「……腹、ヘッタ」

「あ、おなかの音だったんだ」


 そういえば、朝ご飯食べ損ねてた。

 さっきから静かだったのは、おなかがすいてるからだったんだね。


「まずは飯にするか」


 ひとり言のように呟いて、ジェイクさんがさっきより少し早い速度で歩き出した。




 商人の町と言われるだけあって、歩いているだけでいろんなお店が目に入ってくる。

 ジェイクさんがふらりと立ち寄ったお店で、パンと飲みものを買う。ついでに、クーファの生肉も。

 そのあと、ジェイクさんはまたわたしの手を掴んで歩き出した。


 今度は人の多い通りを離れて、静かな方へ歩いていく。建物より木が多くなってきて、そのうち開けた広場の様な場所に出た。


「ここならいいだろ」


 ひとり言のように呟くと、ジェイクさんはわたしの手を離して、近くの木の根元に座りこんだ。

 ちょっと悩んでから、少し離れて彼の隣に座り込む。

 正直怖いけど、食べ物持ってるし。とりあえず、これは一緒に食べなきゃでしょ。


「あの、これどうぞ」


 わたしが買ったわけじゃないですけど。

 持っていた袋から、買って来たパンと飲み物を出して彼に手渡す。ジェイクさんは黙って受け取って飲み物に口を付けた。


「ジュージュ! ゴ飯、ゴ飯」


 肩から地面に飛びおりて、クーファがキラキラした目をこちらにむけてきた。

 あ、ちょっと、よだれが落ちそう。


「はい、クーファ」

「アリガト!」


 クーファは嬉しそうに包みを受け取ると、手と口を使ってビリビリと包みを破いて中のお肉を食べ始めた。

 わたしも、いただきますと呟いてパンを一口かじる。

 パンの中には、お肉と野菜が入っていた。あ、チーズも入ってる。

 うー、おいしい! これ、中に他の物を入れてもおいしいかも。


「ジュージュ、美味シイナ!」

「うん。外で食べるのも美味しいね」


 口の周りを赤く染めながら笑顔のクーファはちょっと怖いけど。こんなに穏やかに食事をするのは久しぶりだ。


 よく小言をもらう事があるおばば様との食事は心が休まらなかったし、白亜様と向かい合いながら食べていた時は無言の空気と緊張から味がほとんど分からなかったし、ウィナードさん達と食べる時はどこか気を張っていた様な気がする。


 ジェイクさんは何を考えているか分からないし、時々浮かべるあのにやりという笑みが怖いけど、今こうしている時はあまり気にならない。鈴さんは、「厄介な相手に目を付けられた」とか言ってたけど、それも気のせいだったんだろう。

 うん、そうだよ。ジェイクさんがわたしに関心を持つとか、冷静に考えればあり得ないことだよね。今もわたしが隣に居る事とかどうでも良さそうだし。空気みたいに見えてないんだろう。


「フー、食ベタ。オ腹イッパイ」


 クーファがくああ、とあくびをして、くるんと丸まった。


「あはは、クーファ。そんな食べてすぐに寝たら、太っちゃうよ~」


 軽く揺するけど、身動ぎするだけで目を開ける気配がない。

 あー、そういえば、昨日ウィナードさんに護衛を頼まれてから、なんだかすごく張り切ってたもんなぁ。夜の時点から、「俺ガ守ルカラナ!」とわたしのベッドの周りをうろうろしてたし。眠る時も、警戒したようにきょろきょろしてたっけ。


「寝たのか?」


 ふいに声をかけられて、ビクッとしてしまう。

 振り向くと、ジェイクさんの青い目がこっちを見ていた。


「あ、はい。昨日から護衛をするって張り切ってたんで、疲れちゃったのかな」

「これで護衛か。頼もしいな」


 にやっと笑う。

 あ、なんかちょっと馬鹿にしてません?


「ウィナードさんに頼まれたから、張り切ってたんです。ずっと頑張り通しじゃ疲れるのは仕方ないですよ」

「ふん……」


 ジェイクさんは少し笑ったかと思うと、突然わたしの方に倒れてきた。

 え?

 え?

 え、え―――――??


「寝る」

「え、ちょ、ジェイクさん!?」


 一言言い残して、ジェイクさんから寝息が聞こえてきた。早っ!

 いや、寝るのは別に良いんですよ。良いんです。


 でも、なんでわたしの膝の上に頭があるんですか!

 そして起きないし!!


「ああ……」


 膝から頭を落とす……なんて言う自殺行為、わたしにはできません。

 ああ、なんで。

 なんでこうなるの!?

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