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白の魔王の物語  作者: まる
36/61

35話 多ければいいわけじゃないものってあるんですね。食事とか、護衛とか。

ブックマークありがとうございます。

本当に励みになります。お付き合い頂けると嬉しいです。

 支度を済ませて鈴さんとクーファと一緒に食堂へ行くと、すでにウィナードさんとルークさんが席についていた。


「ウィー! ルー!」


 クーファの明るい声に食事の手を止めて、二人とも笑顔を浮かべた。


「おはよう、鈴。ジュジュ」

「鈴さ、ジュジュ。おはようさんだべ」

「おはよー。早いわね」

「おはようございます。あれ……?」


 席に着こうとして、目の前に並ぶ食事の違和感に気が付く。

 昨日まで所狭しと並べられていた料理が、今回は随分とシンプルな物に変わっていた。バスケットに入れられたパンに、サラダが盛られたお皿。目玉焼きとソーセージが乗ったお皿に、フルーツの盛り合わせ。


 首をひねっていると、アンさんがコーヒーを持って来た。


「おはようございます、鈴様。ジュジュ様」

「おはよう。ねえ、これどうしたの? 昨日までの豪遊状態から一般家庭に変わってるけど」


 同じく食事の様子の違いに気が付いた鈴さんが言うと、ウィナードさんが笑った。


「食べきれない量に困ってた事に気が付いてくれたみたいで、ここの奥さんが彼女に食事の事を相談してくれたらしいんだ。それで、今回から料理の内容を彼女が考えてくれたんだって」


 彼女、と呼ばれたアンさんが、頬を赤らめながらうなずいた。


「足りなければおかわりがありますし、足りないものがあれば大抵のものは用意できますので、おっしゃってください」

「助かるよ。ありがとう」


 ウィナードさんに微笑まれたアンさんの顔が、一気に真っ赤になる。激しく首を振ると、用があったら呼んで下さいと言い残して、逃げるように食堂を出ていってしまった。


「相変わらず、罪な男ねぇ」


 頬杖をつきながら鈴さんがつぶやく。

 これは、アンさんの事だろうなぁ。雷翔やおばばさまに鈍いと言われるわたしでも、アンさんがウィナードさんに魅力を感じているのが分かるくらいだし。

 でも、当の本人は何も気が付いていないようで、鈴さんのつぶやきに首を傾げただけだ。


「え? 何の話だ?」

「別にぃ? それよりさ、今日はこれからどうするの?」

「朝食が終わったら、領主の所だな」

「あの高飛車お嬢様の護衛ね。あーやる気出ないわ」

「まあまあ、困ってる人を助けるのも、おら達の役目だべ」

「そうだけどさぁ。今日は一緒に居られないから、ジュジュはここにいてね」

「はい。お仕事頑張ってくださいね」


 頷くと、鈴さんはわたしの顔をじっと見てから、がしっと頭に抱きついてきた。

 あ、あ、当たってます! 何か当たってます、鈴さん!!


「あー! 癒し!! 癒される!! 同じお嬢様なのに、なんでこうも違うの?」

「す、鈴さん」

「……朝から、何してるんだ?」


 背後から、突然の声。

 こ、この妙に艶のある声は……あの方ですよね。

 力の緩んだ鈴さんの腕の中で頭を動かして後ろを見る。


「ジェイ。珍しいわね、あんたが自分で起きてくるなんて」

「お、おはようございます」


 ジェイクさんは、ぼんやりした目でわたし達を見下ろすと、何を思ったかわたしの手を掴んだ。

 突然の事に、わたしも、隣の鈴さんもきょとんとする。


「え?」

「借りるぞ」


 鈴さんに一言告げて、そのまま歩き出すジェイクさん。

 って、わたしも?


「ちょ、ちょっとジェイ! ジュジュをどこに連れていくのよ」


 唖然としていた鈴さんが、慌てて椅子から立ち上がり、ジェイクさんの前に回り込んできた。


「あたしたちは、あのお嬢様の護衛をしに行かなくちゃいけないのよ?」

「あの女は面倒くさい。ここに押し掛けてくるかもしれないから、俺は今日一日別の場所に行く」

「そりゃ、あの子あんたにべた惚れだし面倒なのは分かるわよ。でも、あんたも勇者一行なんだから協力しなさいよ」

「だから、こいつの護衛をすればいいんだろ?」

「は?」

「あの女より、こいつを連れ回した方が楽だ」


 いやいや、連れ回すって!

 当たり前のようにこっちが困惑することを言ってのけたジェイクさんは、話は終わりと言わんばかりに鈴さんを横切って歩き出した。


「待テ!」


 緑色の何かが、ジェイクさんの頭にへばりついた。

 ククク、クーファ!? そんな、命知らずな!!


 青くなったわたしをよそに、クーファはジェイクさんの頭の上で背中のとげとげを逆立てながら喚きはじめる。


「ジュジュ、護衛スルノ、オレ! オレ、頼マレタ!」


 ああ、そういえば。

 昨日ウィナードさんに、今日の護衛を頼まれていたっけ。


「ジュジュ守ル、オレ! オレノ仕事、取ルナ!!」


 頭にガンガン響く声でわめくクーファを、ジェイクさんがむんずを掴んだ。


「うるさい」

「ジュジュ、守ルノ、オレ!」

「なら、お前も来い。ただし、その喚き声を上げるな」


 ジェイクさんは持っていたクーファをわたしの方に放り投げた。


「わ! クーファ、大丈夫?」


 慌てて抱き止めると、クーファはきょとんとした顔をしていた。一度首を傾げてから、大人しくわたしの肩に上ってくる。


「ジェイク」


 ふいにかけられた声。

 ジェイクさんは動きを止めて、ゆっくりとウィナードさんを見た。

 ウィナードさんは、まっすぐにジェイクさんを見ている。いつか見た顔だ。あれは、確か……そうだ。わたしを一緒に連れていくかどうか決めた時の顔だ。


「ジュジュは保護対象だ。もしジュジュに何かあったら……分かってるな?」

「ああ」

「……なら、いい。クーファ。悪いけど、ジェイクと一緒にジュジュの護衛を頼んだ」

「え? ちょっと、ウィー! 正気!?」

「ああ。ジェイクは言いだしたら聞かないからな、仕方ないだろ。それに、クーファもいるし」


 穏やかな雰囲気に戻ったウィナードさんに、鈴さんは毒気を抜かれたような顔をして、ため息をついた。


「……分かったわ。ジュジュ! 人気のない場所に連れて行かれそうになったり、何かされそうになったら、近くにあるものを使って殴っていいからね! 靴とか石とか」

「石って! 危ないですよ!!」

「何言ってんの! 自分の身は自分で守るのよ!! 耳元で大声上げても良いし、噛みつくとか、目潰しとか、何でもいいから全力で逃げなさいよ?」

「え、ええー……」


 鈴さん、ジェイクさんをどんな目で見てたんですか?

 っていうか、そんな危険人物と行動するの、本気で怖いんですけど!


「大丈夫だべ、クーファもついてるだ。クーファ、ジュジュを頼んだべ」

「任セトケ!」


 昨日の夜も同じようなやり取りがあったことが思い起こされる。

 でも、何でだろう。

 昨日より護衛してくれる人が増えたのに、不安が増えたんですが……!!

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