34話 お嬢様がやってきました
ウィナードさん達が戻って来たのは、クーファに次の話をせがまれている時だった。
前と同じように、トントンというノックの音と、「ジュジュ、開けてもいいかな」というウィナードさんの声。
助かった! もうそろそろ良いドラゴンの話はネタ切れだ。
「ごめんね、クーファ。また今度ね! 今開けますから!」
そそくさと扉を開けに行くと、ウィナードさん達と……。
「あら、普通の子じゃない」
中心に立っている、一人の女の子。わたしと同じくらいの歳かな?
緩やかに波打っている金髪に、青い瞳。きりっとつり上がった眉と目で、冷めたようにわたしを見ている。
「あの……はじめまして」
取りあえずぺこりと頭を下げて挨拶をすると、ふんっと鼻を鳴らされた。
「この子が護衛対象ですの? どう見たって貴族には見えないじゃない。レイン様はわたくしの護衛より、この子の護衛を優先するんですの?」
睨みつけてくる彼女に対し、ウィナードさんは小さくため息をついた。
「優先するとかしないとかの話ではないと申し上げたはずです。我々にはすでに護衛をしている者がいるので、あなたの護衛を並行して行う事になりますと伝えたでしょう?」
「レイン様、わたくしはメイジェスを治める領主の娘ですわ。このどこの誰かも分からないような娘の護衛と、わたくしの護衛、それを同等に扱うんですの?」
ああ、この人が狙われているっている領主の娘さんか!
確かに、宝石の入った銀色の髪留めとか着ているドレスとか、高級そうなものを身につけているもんなぁ。
ぼーっとしながら見ていると、彼女がこっちを見た。
「あなた! レイン様に護衛されている子でしょう?」
「え? は、はい」
「あなた、今は別に襲われる心配はないのでしょう?」
「えーっと……そうですね」
「なら、護衛の必要はないのじゃなくて?」
「え? あの」
「わたくしは明日の感謝祭に誘拐されそうなの。狙われているわたくしを護衛する方が大切でしょう?」
「そうですね……」
「そうでしょう? それなら、勇者様に頼らずにいられるわね?」
「あの……」
「いられるわよね?」
「……はい」
勢いに完全に飲まれて、思わず頷いてしまう。
すると、彼女はウィナードさんににっこりと笑顔を向けた。
「ほら、この方もそう言っておりますわ。保護した方をわざわざ王都まで送り届けるなんて、レイン様はお優しすぎますわ!」
「エメリア様」
困惑した様子のウィナードさんをよそに、彼女……エメリアさんはジェイクさんに近付いた。
「これで心おきなくわたくしの護衛につけますわね、ジェイク様! 感謝祭では、わたくしのエスコートもお願い致しますわ」
ジェイクさんの腕を抱えて、甘えるような声を出す。
なるほど……ジェイクさんを気に入ったんですね。
当のジェイクさんはと言うと、
「うざい」
って、ええ―――!!
ざっくり言い捨てて、どこかへ行ってしまった。
「ああん、待って下さいな! ジェイク様!!」
呆然としているわたしの肩を鈴さんが抱いた。
「ごめんね、ジュジュ。変な事に巻き込んで」
「いえ。あの、彼女は?」
「ああ。例の警護を頼まれた領主の娘よ。帝王様の事を気に入ったみたいで、傍について護衛して欲しいとか言いだしてね。多分面倒臭かったんでしょうけど、他に護衛する相手が居るからってジェイクが断ったのよ。んで、ジュジュのことを聞き出して、ここに乗りこんで来たってわけ」
「ああ……なるほど」
「正直振り切っちゃいたかったんだけどね~。あんなんでも一応貴族のお嬢様だし? 護衛もするって言っちゃってたし? あたしらがここにいる事も知ってたし? ああ、面倒くさい」
はあーと大きなため息をつく鈴さん。
隣では困った様にルークさんが微笑んで、鈴さんの肩をぽんぽん叩いた。
「んだども、あの人が狙われてるってことは事実だべ」
「そうだけどさぁ……。でも、これでジュジュの警護は後回しってことよね。まあ、感謝祭までの事だけど」
「何にもなければそれに越した事はないよ。でも」
鈴さんに向けられていたウィナードさんの視線がこちらに移る。
「ジュジュ。君が護衛対象だって事は変わらないからな? 明日と感謝祭当日は一緒についていられないから、ここで大人しくしてろよ?」
「あ、はい。わかりました」
「え? ちょ、ちょっと待ってよ!」
わたしとウィナードさんのやり取りに、鈴さんが慌てて割って入った。
「メイジェスの感謝祭の日に一人で留守番? 窓から眺めてろって言うの? 折角この町にいるんだもん。お祭りに行くくらいさせてあげなさいよ」
「いや……でも、一人で行くのは」
「大丈夫よ。さっきのお嬢様の言葉じゃないけど、誰かに狙われているわけでもないんだし。それに護衛ならクーファがいるじゃない」
「そうか。クーファがいたな。クーファ、明日からジュジュの護衛を頼めるか?」
「勿論! 任セロ!!」
わたしの肩の上で、クーファが胸を張った。




