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白の魔王の物語  作者: まる
35/61

34話 お嬢様がやってきました

 ウィナードさん達が戻って来たのは、クーファに次の話をせがまれている時だった。


 前と同じように、トントンというノックの音と、「ジュジュ、開けてもいいかな」というウィナードさんの声。

 助かった! もうそろそろ良いドラゴンの話はネタ切れだ。


「ごめんね、クーファ。また今度ね! 今開けますから!」


 そそくさと扉を開けに行くと、ウィナードさん達と……。


「あら、普通の子じゃない」


 中心に立っている、一人の女の子。わたしと同じくらいの歳かな?

 緩やかに波打っている金髪に、青い瞳。きりっとつり上がった眉と目で、冷めたようにわたしを見ている。


「あの……はじめまして」


 取りあえずぺこりと頭を下げて挨拶をすると、ふんっと鼻を鳴らされた。


「この子が護衛対象ですの? どう見たって貴族には見えないじゃない。レイン様はわたくしの護衛より、この子の護衛を優先するんですの?」


 睨みつけてくる彼女に対し、ウィナードさんは小さくため息をついた。


「優先するとかしないとかの話ではないと申し上げたはずです。我々にはすでに護衛をしている者がいるので、あなたの護衛を並行して行う事になりますと伝えたでしょう?」

「レイン様、わたくしはメイジェスを治める領主の娘ですわ。このどこの誰かも分からないような娘の護衛と、わたくしの護衛、それを同等に扱うんですの?」


 ああ、この人が狙われているっている領主の娘さんか!

 確かに、宝石の入った銀色の髪留めとか着ているドレスとか、高級そうなものを身につけているもんなぁ。


 ぼーっとしながら見ていると、彼女がこっちを見た。


「あなた! レイン様に護衛されている子でしょう?」

「え? は、はい」

「あなた、今は別に襲われる心配はないのでしょう?」

「えーっと……そうですね」

「なら、護衛の必要はないのじゃなくて?」

「え? あの」

「わたくしは明日の感謝祭に誘拐されそうなの。狙われているわたくしを護衛する方が大切でしょう?」

「そうですね……」

「そうでしょう? それなら、勇者様に頼らずにいられるわね?」

「あの……」

「いられるわよね?」

「……はい」


 勢いに完全に飲まれて、思わず頷いてしまう。

 すると、彼女はウィナードさんににっこりと笑顔を向けた。


「ほら、この方もそう言っておりますわ。保護した方をわざわざ王都まで送り届けるなんて、レイン様はお優しすぎますわ!」

「エメリア様」


 困惑した様子のウィナードさんをよそに、彼女……エメリアさんはジェイクさんに近付いた。


「これで心おきなくわたくしの護衛につけますわね、ジェイク様! 感謝祭では、わたくしのエスコートもお願い致しますわ」


 ジェイクさんの腕を抱えて、甘えるような声を出す。

 なるほど……ジェイクさんを気に入ったんですね。

 当のジェイクさんはと言うと、


「うざい」


 って、ええ―――!!


 ざっくり言い捨てて、どこかへ行ってしまった。


「ああん、待って下さいな! ジェイク様!!」


 呆然としているわたしの肩を鈴さんが抱いた。


「ごめんね、ジュジュ。変な事に巻き込んで」

「いえ。あの、彼女は?」

「ああ。例の警護を頼まれた領主の娘よ。帝王様の事を気に入ったみたいで、傍について護衛して欲しいとか言いだしてね。多分面倒臭かったんでしょうけど、他に護衛する相手が居るからってジェイクが断ったのよ。んで、ジュジュのことを聞き出して、ここに乗りこんで来たってわけ」

「ああ……なるほど」

「正直振り切っちゃいたかったんだけどね~。あんなんでも一応貴族のお嬢様だし? 護衛もするって言っちゃってたし? あたしらがここにいる事も知ってたし? ああ、面倒くさい」


 はあーと大きなため息をつく鈴さん。

 隣では困った様にルークさんが微笑んで、鈴さんの肩をぽんぽん叩いた。


「んだども、あの人が狙われてるってことは事実だべ」

「そうだけどさぁ……。でも、これでジュジュの警護は後回しってことよね。まあ、感謝祭までの事だけど」

「何にもなければそれに越した事はないよ。でも」


 鈴さんに向けられていたウィナードさんの視線がこちらに移る。


「ジュジュ。君が護衛対象だって事は変わらないからな? 明日と感謝祭当日は一緒についていられないから、ここで大人しくしてろよ?」

「あ、はい。わかりました」

「え? ちょ、ちょっと待ってよ!」


 わたしとウィナードさんのやり取りに、鈴さんが慌てて割って入った。


「メイジェスの感謝祭の日に一人で留守番? 窓から眺めてろって言うの? 折角この町にいるんだもん。お祭りに行くくらいさせてあげなさいよ」

「いや……でも、一人で行くのは」

「大丈夫よ。さっきのお嬢様の言葉じゃないけど、誰かに狙われているわけでもないんだし。それに護衛ならクーファがいるじゃない」

「そうか。クーファがいたな。クーファ、明日からジュジュの護衛を頼めるか?」

「勿論! 任セロ!!」


 わたしの肩の上で、クーファが胸を張った。

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