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白の魔王の物語  作者: まる
33/61

32話 何故か興味を持たれたようです・・・

 翌朝。

 朝食とは思えないような豪華な食卓につきながら、この屋敷の主人のルミエールさんが話を切り出した。


「昨日お話した件ですが、ジョルジュ様にはレイン様方の訪問を伝えておきました。勇者様方に警護して頂けると聞き、ジョルジュ様もエメリア様も大層お喜びになられておりましたよ。わたしの家の馬車をご用意致しましたので、準備が整い次第声をかけてください」


 パンにバターを塗りながら、ウィナードさんはルミエールさんに微笑んだ。


「お話を通して頂き有難う御座います。仲間と話をしてから向かいたいと思いますので、後ほどお声を掛けさせて頂きますね」


 クーファにお肉を切り分けながら、ウィナードさん達のやり取りを見る。

 うーん、なんだか馴れている様な対応だなぁ、ウィナードさん。

 まあ、舞台裏の彼らを知っているわたしからすると、爽やかな彼の微笑みが完璧な愛想笑いだと分かるんだけどね……。

 ちらりと他の人に目を向けると、鈴さんはやれやれというような表情でウィナードさんを見ていた。ルークさんはフォークとナイフが苦手なようで、必死にお皿の上のお肉と格闘している。そのルークさんの隣では、食べたく無さ気な感じで、お皿の上の料理をフォークで突いているジェイクさん。

 こちらも馴れている様な感じで、ウィナードさんのやり取りには、もはや興味がない様子だ。


 それ以降はルミエールさんと奥さんが、ウィナードさんをひたすら質問攻めにする時間だった。

 わたしは勿論、その全部に耳を傾けましたよ! おかげで、ウィナードさんの事が少し詳しくなりました。両親はハーライン(王都からずっと北にある小さな町らしい)に住んでいるとか、兄弟が一人いてギルドニア国の騎士団に配属しているとか、恋人はいないとか、魚より肉が好きだとか。

 ……勇者攻略に必要かとか必要じゃないとかはどうでもいいんだ! とにかくどんな情報でも無いより有った方がいいに決まってる!!


 話を聞きながらご飯を食べていると、隣の席の鈴さんがすっと立ち上がった。


「ジュジュ、あたしそろそろ部屋に行くけど、まだ食べる?」

「え? あ、えっと」


 突然声をかけられ焦ってしまう。

 見ると、わたしの前にあるお皿にはまだ大量の料理が残っていた。話を聞くのに真剣で食べる方に集中出来てなかったせいだ。いや、元々量が尋常じゃないほど多かったってのもあるけど。


「ええと、もうお腹はいっぱいなんですけど……」


 意識すると、結構お腹が苦しくなっているのに気が付く。でも、この料理どうするの……?

 ちらりと奥さんの方に目を向けると、相変わらずダンスパーティーに行く様な恰好の奥さんはにっこり笑った。


「残してもいいわよ? 片付けるから」


 片付けるって……捨てるってことですよね? 無理無理無理! そんなもったいない事、絶っっっ対無理!

 反発するようにフォークを握って、サラダを口に運ぶ。

 鈴さんが心配そうな顔で、わたしの肩に手を置いた。


「ジュジュ、無理しないで。具合悪くなっちゃうわよ」

「ひえ、だいほうぶでふ」


 思わず口に詰めすぎたせいで、両頬一杯にサラダが……か、噛めない。

 ゆっくり咀嚼していると、隣に誰かがすっと立った。

 目を上げると、アンさんが箱を持って立っていた。わたしに向かってにっこりと笑う。


「ジュジュ様。入れ物持ってきたので、残したものはこれに詰めませんか?」


 なんて素敵な申し出!

 口にまだ物が入っていてしゃべれない変わりに、激しく首を縦に振った。わたしの気持ちを察してくれたアンさんは、持ってきた箱に残った料理をを詰めていく。


「ありがとうございます! 自分でやりますので!」


 サラダを飲み込んで、アンさんから箱を受け取る。


「本当に、食べ物を粗末にしない子ね」


 少し呆れた様な顔で鈴さんが言う。

 いや、だって、ねえ。身についている習慣はそう簡単に消せないですよ。

 とりあえず、褒め言葉として受け取っておこう。




 豪勢な朝食を食べてからは、鈴さんとクーファと一緒に使わせてもらっている部屋に戻った。

 食べ物を詰め込んだ入れ物を鞄に詰め込み、無理をしすぎたおなかを落ち着かせながらベッドに腰をおろしていると、トントン、とノックの音が響いた。


「鈴、ジュジュ。俺達だけど開けても大丈夫か?」


 ウィナードさんの声に、鈴さんは「はーい」と返事を返した。

 開けられた扉の先には、出かける準備を整えたウィナードさん達の姿。勿論鈴さんも同じく準備が整っている。


「鈴、もう準備は出来てるか?」

「うん、バッチリよ。後は行くだけね。さっさと終わらせましょ」


 いつも通りのやり取りに、何となく安心感を持つ。

 突然降って沸いた依頼に意気消沈気味だったけれど、やると決まったら気持ちは切り替わったみたいだ。ウィナードさん達の顔に少し浮かんでいた暗い表情はもう見えない。

 クーファを肩に乗せて彼らの様子を見ていると、ぱちっとジェイクさんと目が合った。ジェイクさんはじっと無表情でこちらを見ている。


 え、え。な、何ですか?


「お前、準備は?」


 え? わたしですか。


 突然のジェイクさんの発言に、ウィナードさん達は少し驚いた顔をしてジェイクさんを見た。彼の視線を追って、わたしの方に視線が集中する。


「あの、わたしは勇者様の仲間ではないので……お留守番しています」


 わたしの答えに、ジェイクさんは口元に手を当てて何かを考え始めた。


「ジュジュは保護対象だって言っただろ。依頼に巻き込んで何かあったらどうするんだ」


 ウィナードさんが後押しするように言う。すると、ジェイクさんが口元に当てた手を外した。


「それなら、俺も残る」


 ……え。ええ――――っ!?


「……はぁ? 何言ってるんだお前!」


 いち早く我に返ったウィナードさんが突っ込む。けれど、ジェイクさんは素知らぬ顔だ。


「元々行く気はなかったしな。部屋で寝ていた方がよっぽど良い」

「って、あんたまさかまたジュジュに何かする気じゃないでしょうね!」


 ジェイクさんを睨んで、鈴さんがわたしをぎゅっと抱きしめる。

 うわ、またこの感じ! これ鈴さんとわたしの差を感じて結構へこむんですけど……!


「言ったはずよ。ジュジュは保護対象! あんたの玩具じゃないのよ!」

「保護対象なら、放置するのも問題だろ」

「お前を放置する方がよっぽど問題だ! ジェイク、お前の仕事はなんだ? 自分の仕事くらいきちんとこなせ!!」


 ジェイクさんを叱りつけると、ウィナードさんはジェイクさんの襟首を掴んで出て行った。

 二人の姿が見えなくなると、鈴さんはわたしを開放して、じっと見つめてきた。


「ジュジュ……厄介なのに目を付けられたかも」


 それって……言わずもがな、ですよね。


「んだども、ジェイが人に興味を持ったのも初めてでねぇか?」

「だからよ! だから余計に危険なの! いい? 何かあったら全力で逃げるのよ。念の為にクーファを置いておくから。クーファ、ちゃんとジュジュを守るのよ!」

「任シトケ!」


 クーファが肩の上から自信に満ちた声で答える。


「頼んだわよ」


 神妙な面持ちで頷くと、鈴さんはルークさんを促して出て行った。


「ジュージュ、安心シロ。オレガ守ッテヤルカラナ!」

「うん……ありがとう」


 やる気満々な様子のクーファに、わたしは力なく笑顔を浮かべるしかなかった。

 なんか……魔族以上に厄介な人に目をつけられたかもしれない……。

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