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白の魔王の物語  作者: まる
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31話 やっぱり、彼の事はよく分かりません

 感謝祭、というのは、メイジェスで最も大きな祭典なのだそうだ。


 なんでも、メイジェスという町が生まれた記念日で、領主さんが主催するパーティーが町ぐるみで行われるらしい。ちなみに、その感謝祭が行われるのは三日後。

 感謝祭は夜まで行われるから、何事も無かった場合でもメイジェスを出発するのは四日後になる、ということだ。


「本当にすまない。早く君の家族を見つけてあげたいんだけど……」


 しょんぼりしているウィナードさんに、首を振る。


「わたしのことは気にしないでください。それより、領主さんの娘さん……エメリアさんでしたか? その方の事を守ってあげて下さい!」


 正直なところ、わたしの方は本当に気にしないでくれた方が有り難かったりする。

 だって、情報を集めるにしろ対応策を考えるにしろ、わたしには自由に動ける時間が必要なのだ。それに王都行きは遅れれば遅れた分正体がばれずに済むし!

 つい強い口調になってしまったわたしに、ウィナードさんは少し驚いた顔をしてから目を細めた。


 う、わ。な、何ですか。その優しい微笑み!


「あ、あの?」

「君は本当に優しいな。ありがとう」

「ええ?」


 何の事でしょうか!?

 答えを待ってみたけれど、それ以上の説明はなかった。わたしから鈴さんへと視線が移動してしまう。


「それじゃ、そろそろ戻るな。明日、領主の所に行って話をするから」

「何時?」

「十時に行くとここの主人に伝えている。多分領主の方にも話は通ってるだろ」

「了解。んじゃまた明日。あ、これも連れて行ってよ」


 そう言って鈴さんが投げた視線の先には、寝入っているジェイクさんが。鈴さん、これって……。


「分かってるよ。おい、起きろ!」


 ウィナードさんがベシッとジェイクさんの頭を叩く。

 ジェイクさんは叩かれた頭に手をやりながら、気だるげに起き上がった。

 うん、なんというかね! もう寝起きのジェイクさんってものすっごく色っぽいというか、艶っぽい! 直視できないです!!


「痛いな……」


 声もね!

 なんかもう、ぞわぞわして鳥肌立つんですけど!

 思わず一歩ジェイクさんの位置から離れたけど、他の人は慣れっこなのか平気そうな顔をしている。ウィナードさんに至ってはちょっと怒ってるし。


「ここは鈴とジュジュに当てられた部屋だろ! さっさと戻るぞ!!」


 怒鳴る様な声にもひるむことなく、ジェイクさんは大きなあくびをして立ち上がった。

 来い! と引っ張られながら、部屋を出ていくジェイクさんと目が合う。


 にやり。


「っ!」


 投げかけられた笑みに、思わず鈴さんの影に隠れる。

 そんなわたしににやりとした笑みを浮かべたまま、ジェイクさんはウィナードさん達と出て行った。


 い、いやー! あの笑みは何!? 何だったの!? 怖すぎる!!


 あからさまに挙動不審になっているわたしに、鈴さんが心配そうな顔をした。


「ジュジュ、本当に何もされてない?」

「え? あ、はい! ほんとに抱えられてただけですから」

「そう……それならいいんだけど。ま、あんまりあいつとは関わらない方がいいわよ。正直、碌でもないやつだから」


 直球ですね! 碌でもないって!

 でも、その鈴さんの言葉で疑問が湧いてくる。


 ジェイクさんが勇者一行にいる理由(わけ)だ。


 今まで……たった一週間かそこらだけど。一緒にいた時間の中で、ジェイクさんは明らかに「勇者一行」から浮いているように見えた。ジェイクさん自身もウィナードさん達の輪の中に入ろうとはしていない様だったし、ウィナードさん達はジェイクさんを気にしている様子だった。気にしている、というより……監視している、というような感じだ。


 なんとなく――黒煙の島での魔族とわたしの関係に似ている気がする。


「あ、あの……ジェイクさんって、どうしてウィナードさんの仲間なんですか?」


 わたしの質問に、着替えようとしていた鈴さんの手が止まった。


「どうしてって……うーん、説明が難しいわね」

「そんなに複雑なんですか?」

「いや、そうでもないけど。まあ、簡単に言えば国王命令よね。勇者としての責務を全うする為の保険と言うか、お目付役と言うか。むしろ駄目な感じだけどね~」


 あはは、と笑って、鈴さんは着替え始めた。

 いや……それ、笑い事かなぁ?

 そういえば、ジェイクさん自身も「お偉方に言われて~」とか言ってたっけ。つまりはウィナードさんを見張るのがジェイクさんの務め、なのかな? 勇者なのに、見張られてるって……無理矢理メイジェスまでの護衛をさせられたり、勝手に仕事を押し付けられたり、なんかウィナードさんがどんどん不憫に思えてきた。


「勇者って、大変なんですね」


 思わず呟くと、鈴さんが少し目を丸くして、嬉しそうに微笑んだ。


「ジュジュは良い子ね。そういう風に「勇者」を労ってくれる人がもっといてくれたらいいのになぁ」

「なんか、便利屋さんみたいですもんね……」


 わたしの言葉に鈴さんが大きなため息をつく。


「うまいこと言うわね。勇者ってだけで都合良く考える奴らが多いのに、ウィーは生真面目でお人好しだから余計に苦労を背負っちゃうのよね。今回の件も、さっさと片が付けばいいんだけど」

「そうですね……」


 さっさと片が付くと時間がなくなってしまうから、こちらとしては少し引き延ばされた方が有り難い。


 ……でも。


 なんとなーく、面倒な事になりそうな予感がずっと続いていたりする。

 どちらになっても嫌な気がして、物凄く曖昧な返事をしてしまった。

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