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白の魔王の物語  作者: まる
27/61

26話 やっぱり勇者様は強いです

戦闘シーンが苦手です……。

 メイジェスまでは、街道をひたすら歩くだけの道のりだ。


 とは言え、わたしにとっては遠くに見える緑の山や、街道の脇道に並んでいる青々とした葉を茂らせている木々、色も形も様々な草花、全てが真新しくて新鮮に見える。青い空も澄んだ空気も、全てが気持ち良い。


「良い天気よねぇ」


 澄んだ風を吸いこむと、ふいに鈴さんが声をかけてきた。肩に乗っていたクーファが、ひょいとわたしの肩に飛んでくる。

 わたしがやったように、大きく息を吸いこんだ。

 可愛いなぁ。

 思わず微笑んだ時だ。


「もう、どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないの!」


 背後でなんだか聞きなれた声が。

 鈴さんが、嫌そうな顔で声のした方を見る。

 やっぱり、というかなんというか。

 例の奥さんですね、はい。


「足が痛くて仕方ないわ! あなた、何とかして!!」

「無理を言うな。もう少し我慢しなさい」


 地面に座りこむ奥さんを諌める旦那さん。


「全く、文句があるなら馬車で戻ればよかったのにな」


 旅人さんが、呆れた顔をしながら呟く。

 鈴さんが肩をすくめた。


「同感。でもま、しょうがないわよ。勇者に警護してもらうだなんてそうそう出来る経験じゃないし、良い広告になるでしょ」


 なるほど。商人にとって、話題があることは商売にも有利なのか。勇者に守ってもらった商品、とでも言えば興味をひかれる人が出てくるかもしれない。


「ま、とにかくこの護衛の仕事を終わらせないとね」

「んだ。早く王都に行かねぇと。きっとジュジュの家族も心配してるべ」


 うっ。


「あ、ありがとうございます」

「そうか。そう言えば君、記憶がないんだったっけ。心配無いよ。君ならすぐに身元が分かるだろうし」


 え? え? どういうこと??

 軽く言われた旅人さんの言葉にドキッとする。な、なんか、嫌な予感が……。


「あの、それってどういうことですか?」

「だって、目の色とか髪の色とかかなり変わってるだろ? 俺、結構いろんな国を巡ったけど、そんな色の人には会った事無いからさ。肌の白さとか、髪の色合いとかから察するに北の方の出身っぽいけど……」

「なるほど! ありがとうございます!!」


 やばいやばい! なんかやばい気がする!!


 紫がかった銀髪と、紫の瞳。人間にはない色だと教えられたこれは、黒煙の島にいた頃に、唯一わたしが『魔族』である証に感じられたものだ。けれどそれが今度は邪魔になるなんて……。


 わたしの正体は誰にも明かしちゃいけない。特にウィナードさんたちには。でも、それも時間の問題に感じてきた。

 王都に着くまでの間に、なんとかしなくちゃ。


 でも、どうすればいい? 勇者を倒す方法を考えないと。


「きゃあぁぁ!!」


突然の絶叫に、はっと我に返る。

顔を上げると、街道の真ん中に見覚えのある獣がいた。あれは、雷翔を襲った……。

 魔物は三匹。こちらを見て低いうなり声を上げている。


「ウルフか。鈴!」

「りょーかい! ジュジュ、こっち。お二人さんも怪我したくなかったらこっちに来て!」


 名前を呼ばれただけで何をするのか分かったのか、鈴さんはてきぱきとわたしと夫婦と旅人さん、それにルークさんを自分達の背後に立たせた。

 ウィナードさんはじっと魔物を見据えて剣を構えている。ここからは見えないけど、見られている方は威圧感を感じているんだろう。体を低くして、警戒したまま動こうとしない。


「オッケー。いいわよ」


 鈴さんが軽い口調で言い、ウィナードさんの横に立つ。

 ウィナードさんは、魔物から目を離さないままでうなずいた。


「とりあえず、追い払うぞ」

「んじゃ、ま、これでもいきますか」


 鈴さんがポケットから何かを出した。

 掌に収まっているのは、小さくて丸い……何だろあれ。

 何かを見極める前に、鈴さんが持っているそれを魔物の足元に向かって投げつけた。途端に、パン! と弾ける音がした。


 魔物もわたしも、びくっと体を竦ませる。

 な、何今の!


 驚いて鈴さんを見るけれど、彼女は涼しい顔だ。


「あ~、ダメかしら? 逃げなかったわ」


 彼女の言う通り、魔物は一匹も逃げていない。

 それどころか、ちょっと怒っているようにも見える……。

 多分、音で脅かして逃げさせようとしたんだろうけど、逆効果だったみたいだ。


「仕方ない。行くぞ」

「りょーかい」


 ウィナードさんが駆け出し、鈴さんが続く。

 魔物も三匹同時に飛びかかって来た。それを見越したように、ウィナードさんが長い剣を左から右に振り抜く。

 身をすくめた魔物に向かって、ウィナードさんの背後から鈴さんが何かを投げた。


「ギャンッ!」


 一匹が鋭い鳴き声を上げる。

 見ると、その右目に何かが刺さっている。

 その間にも、ウィナードさんの振るった剣が別の魔物の首をはねていた。


「きゃあぁぁ! いやぁ!!」

「お、落ち着きなさい! だ、大丈夫、勇者様が付いているんだ」


 抱き付いて大声で叫ぶ奥さんを、旦那さんが震える声で励ましている。

 その声が遠くに聞こえるほど、わたしは凝視してウィナードさん達を見ていた。


 強い。


 勇者が強い事は分かっていたつもりだ。けれど、目の前でその戦いぶりを見て、改めてその強さに体が震えた。


 わたしは、あの人と戦わなければいけないんだ。


「ルーク」


 背後から、落ち着いた低い声がした。

 ルークさんと一緒に振り向き、ぎょっとする。

 そこにはジェイクさんの背中と、その向こうに2匹の……。


「こっちにもいるぞ」

「そういうことは早く言うだ! リーダー! 鈴さ! 後ろにも2匹いるべ!!」

「はぁ!? ちょ、無理無理! こっちで手いっぱい!!」

「ジェイク! そっちでなんとかしろ!!」


 ウィナードさんの言葉に、ジェイクさんはやる気の無さ気な声を出した。


「面倒だな……」

「そんなこと言わねぇで、なんとかしてくんろ!」

「お、お願いします!!」


 ルークさんと一緒になって懇願する。と、ジェイクさんが視線だけをこちらに向けた。


「100クオーツ」

「え?」

「100クオーツでやってやる。どうする?」


 ジェイクさんの視線を辿ると、そこにはあの商人の旦那さん。え? それって……。


「命の金額にしちゃ格安だろ?」

「わかった! 払う! 払うから助けてくれ!!」


 にやり。

 ジェイクさんが例の鳥肌の立つ笑みを浮かべたその時、後ろの魔物の一匹が飛びかかって来た。


「後ろっ……!!」


 思わず叫ぶ。

 でも、それは必要のないことだったみたいだ。いつ抜いたのか分からないけれど、彼の左手に握られている剣が飛びかかって来た魔物をなぎ払っていた。


「散れ」


 気だるげに右手を振る。その瞬間、炎が残っていた魔物に襲いかかった。


「ギャン!」


 炎を浴びた魔物は、そのまま踵を返して走り去って行った。

 唖然とする旦那さんに、ジェイクさんがあざ笑うかのような笑みを浮かべて手を差し出す。催眠術にでもかかった様に呆然としたまま、旦那さんは財布からお金を出してジェイクさんの手に渡した。その瞬間。


「お前は何してんだ!」


 スパァン! と良い音をたててウィナードさんがジェイクさんの頭を叩いた。不機嫌そうな顔でジェイクさんがウィナードさんを見る。


「何だ?」

「なんだ、じゃない! お前は勇者一行としての意識が無いのか!?」

「金は必要だろう?」

「金なら国から必要経費としてもらってるだろ! それ以上に貰う必要がどこにある!! 本当にすみません! お返しします!!」


 ジェイクさんの手からお金を奪い、旦那さんに渡すウィナードさん。そのままペコペコ頭を下げた。

 そんなウィナードさんに、ジェイクさんはため息をつく。


「本当につまらないほど真面目な男だな」

「お前が不真面目過ぎるだけだ」


 ぎろりと睨まれ、ジェイクさんが肩をすくめる。そのまま興味を失ったかの様に、あくびをした。

 わいわい話している彼らから少し離れて、わたしは倒れている魔物を見た。

 あっという間だった。ちゃんと倒した姿を見る間もなく、魔物は全部いなくなっていた。

 道に倒れ、血を流す魔物。さっきまで生きていたのに、もうピクリとも動かない。


 ……わたしは、彼らと戦える?


 彼らの武器が自分に向いている姿を想像して、ぎゅっと目をつぶった。


 ごめん、雷翔。

 まだ、戦う勇気は出てこないよ。

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