表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白の魔王の物語  作者: まる
25/61

24話 ささやかですが、恩返しが出来ました

 ひたすら歩く、という行為に根を上げたのは案の定、例の奥さんだった。


「ああ、もう駄目! くたびれたわ」


 道の脇の石に腰かけた彼女は、もう歩く気が無さそうだ。旦那さんも「確かに疲れた」と傍に腰を下ろしてしまう。その様子に、ウィナードさんとルークさんは困った顔をし、鈴さんは肩をすくめた。旅人さんは呆れ顔。ジェイクさんは……あくびをしている。


「でも、メイジェスまではまだしばらくかかりますよ。今進めば夜までには着きますが、休んだら明日の朝になってしまう。野宿するしか無くなりますが……」


 遠慮がちにウィナードさんが声をかけると、「ええっ!?」と奥さんが悲鳴を上げた。


「野宿ですって? 私たちにそんなことをさせるおつもり?」

「なら、歩くしかないですね」

「嫌! もう足が痛いのよ。レイン様は旅慣れていらっしゃるかもしれないけれど、私たちはそんなに歩き慣れていないんですのよ? ほら、靴擦れもしているし」


 えー……どうしろって言うんだろう。


「全く、これだから金持ちってのは嫌なのよ。面倒くさいったら」


 イライラした声で鈴さんが呟く。

 うん、気持ちはなんか分かります……。振り回される勇者一行に「大変だな」と同情した目で旅人さんが感想を呟いた。

 ん? もしかして、今がチャンス? この悪い空気を消せれば、少しは役に立てるのかも! ……でも、方法が分かんないけど!

 さっきの奥さんとのやり取りを思い出すと、結局丸め込まれてしまいそうだ。元々人との関わりが希薄だし、交渉とか説得とかしたことないし。

 悩んでいると、「ジュージュ」と肩からクーファが心配そうな声をかけてきた。


「ドウシタ? ドッカ痛イカ??」

「え? いや、なんでもないよ」


 悩んでいるのが顔に出てたか。慌てて首を振ると、ルークさんが微笑んでくれた。


「ジュジュ、大丈夫だべ。ウィナードに任せておくだ」

「そうそう。ウィーに任せておけば平気よ」


 鈴さんも頷いてルークさんに同意する。

 凄い信頼感。驚きながらも、その言葉に少し安堵を覚えて、わたしもウィナードさんを見つめた。

 ウィナードさんは奥さんの文句? をひたすら聞いてから、口を開いた。


「分かりました。まずは足の様子を見ましょう。ルーク」


 呼ばれるのが分かっていたかのように、ルークさんは「了解だべ」と答え、すぐさま薬の箱を持って奥さんの足を取った。

 赤い革靴を脱がすと、確かに足首は薄く赤みがさしていた。


「確かに靴擦れをおこしていますね。旅慣れていない方が長く歩くのは大変でしょうし、このままここで休む事にしましょう。通りに面している場所だから、魔物も盗賊も出る事は稀ですし、俺達が順番に見張りにつきます。野宿は不慣れでしょうが、しっかり護衛するので安心して体を休めて下さい」


 ルークさんが手当てをしている間に、ウィナードさんは方針を結論付けた。労わってもらえた事に満足したのか、奥さんもすんなりうなずいて了承した。


「勇者って、強いだけじゃ勤まらないんですね……」


 思わず呟くと、鈴さんは目を瞬かせ、苦笑いを浮かべた。


「そうねぇ。強いだけじゃダメだとあたしも思うわ」




 悩んでいた恩返しの機会は、意外な所で見つける事が出来た。


「えーと……これ、食い物だよな?」


 困惑しきった顔で旅人さんが言う。彼の手には、お皿に載せられた……なんだろ、これ。


「卵焼きだけど?」


 当然のように答えてくれたのは、卵焼き……の製作者である鈴さんだ。でも、ごめんなさい。これ、どう見ても卵焼きに見えない……。

 わたしの手元にあるお皿にも、旅人さんと同じものが載っているんだけど……黒くて、茶色くて、焦げた臭いしかしない。

 例の夫婦は明らかに嫌そうな顔をしているし、ウィナードさんとルークさんは諦め顔。ジェイクさんは……もう食べる気がないですよね? お皿を持ってすらいない。


「鈴さん……あの……」

「うーん、どうしてかしらね。何作ってもこんな感じに仕上がっちゃうのよ」


 あ、駄目だっていう自覚はあるんですね……。


「鈴さ。料理だけはからっきしだべなぁ……」


 ため息をつきながら、ルークさんは卵焼きを突いている。ちょびちょび口に運んでは水で流し……って、もう薬の飲み方じゃないですか……。


「無理しなくていいわよ?」

「いや、食べ物があるだけましだから」


 旅人さんはパクパクと食べている。うーん、なんか苦労してそうだ。でも、やっぱり水は必要なんですね……。


「ジュジュもいいわよ。残しても」

「い、いえ。食べます」


 わたしも覚悟を決めてえいやっと一口で口に入れる。

 ……苦い!! そして何故か生臭い!!

 ごくごくと水で押し流し、はぁ、とため息が出た。


「無理しなくても良いのに」

「いえ、食べ物は貴重ですから」


 黒煙の島では、食べ物を手に入れる事自体が大変な作業だった。だから、その大切さは身にしみて分かっている。粗末に扱うなんて出来るわけがない。でも。


「鈴さん。これからわたしが料理を作ってもいいですか?」


 食べるなら焦げてない方が良い。




 鈴さんが使って良いと出してくれた材料は、思った以上に種類が豊富だった。お肉に野菜に、調味料も色々。


「これ、全部使っていいんですか?」

「ええ。王都まで行く予定だったから多めに仕入れていたんだけど、メイジェスに寄るから全部使い切っても問題ないわよ」


 わぁ! 贅沢!!

 何を作ろうかとウキウキしているわたしの横で、鈴さんが腕まくりをした。


「あたしも手伝うわ」

「えっ!?」

「大丈夫よ。切るのは得意だから。他はジュジュに任せるわ」

「す、すいません……」


 思わず失礼な反応をしてしまった事に謝ると、鈴さんはカラカラ笑って流してくれた。本当に良い人だなぁ。わたしの中でルークさんと鈴さんに対する好感度がどんどん上がっていく。

 材料を吟味して……うん。旦那さんに教えてもらった香草を使ったソテーにしよう。何度か練習しているし、旦那さんにもおかみさんにもお墨付きをもらった料理だ。

 出来る事を見つけた事と、料理が出来る事で、思わず鼻歌が出てくるほど上機嫌なわたしの手元を、鈴さんは「器用ねぇ」とじっと見ていた。


「手慣れているわね……あたしには真似できないわ」

「鈴さんも器用ですから、きっとすぐに作れるようになりますよ?」


 わたしも鈴さんの手元を見る。彼女の前にある野菜は、綺麗に均等に切り分けられている。これだけ器用なのに、どうしたらあんな卵焼きが出来るんだろう……。


「うーん。あたし、どうも料理に向いていないのよねぇ。ま、いいんだけど。あっ、ちょっと頂戴!」


 つまみ食いをする彼女は、自分の料理の腕をあまり気にしていない様子だ。でも、ウィナードさん達、あれを毎回食してきたんだろうか……。諦め顔のウィナードさんとルークさんを思い出して、少し切ない気分になる。


 その後、出された料理を食べて「うんめぇ」と涙目になったルークさんに、嬉しく思う反面、それまでの苦労を思って泣きそうになりました……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ