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白の魔王の物語  作者: まる
23/61

22話 勇者に対する反応は、こんな感じなんですね

「煩い」

「す、すみません」


 短く告げられた冷たい言葉に、反射的に謝ってしまう。

 ジェイクさんは、やっぱり白亜様に似てる気がする。冷たい雰囲気とか、この取り付く島も無い感じのしゃべり方とか!


 小さくなるわたしとは逆に、奥さんはより一層目を尖らせた。


「なんなの? あなたもこの人の仲間!?」

「さあ。同行者ではあるけどな」


 ゆっくりと立ち上がり、こちらに近付いてくる。

 背の高いジェイクさんに寄られて、奥さんは少し後ずさった。


「な、なんなの……」


 気圧されながらも言い返す奥さんを完全に視界に入れず、ジェイクさんはその先のルークさんを見た。


「ルーク。こういう奴らには一言言えば済むだろ。『俺達は勇者レインの一行だ』ってな」

「ジェイ」


 その時のルークさんの顔は、どう言えばいいんだろう。

 苦そうな、悲しそうな、責める様な、形容しがたい表情だった。


 その顔に浮かんだ表情の理由を考える間もなく、奥さんが「レイン?」と呆けた様な声を出した。


「レイン……って、ギルドニア国の勇者の?」


 旅人さんが確認するように呟く。

 その大きくも無い声が響くほど、馬車内は静まり返っていた。さっきまで騒いでいた奥さんは目を瞬かせているし、震えていた旦那さんはぽかんと口を開けている。


「これを見たら分かるか?」


 ジェイクさんが左手を上げる。

 その手首には、細い銀色のブレスレットのようなものがはめられていた。

 鎖の先にはプレートがはめられていて、なにやら紋章の様なものが描かれている。多分だけど、勇者の一行である証か何かだろう。だって、それを見た瞬間、奥さんと旦那さんは歓喜の声をあげて、旅人さんも目を丸くしていたから。


 そんな馬車の中へ飛び込んできたのはウィナードさんだ。


「みんな無事か!? とりあえず、盗賊は全員退却した……」

「レイン様!」


 言い終わる前にウィナードさんに飛び付く夫婦の二人。

 うん。なんて言うか……ウィナードさん、タイミング悪かったと思う。


 突然乗客の二人に飛び付かれたウィナードさんは、驚きながらも倒れそうになるのをなんとか堪えていた。


「な、なんですか!?」

「あなたが勇者様ですね!」


 質問の回答ではないけれど、その言葉でウィナードさんは全てを悟ったらしい。一瞬ジェイクさんを睨むように見たのは、見間違いではないと思う。


「勇者レイン様ですよね?」


 すがるように尋ねられ、ウィナードさんは大きなため息をついた。


「……ウィナード・レインです」


 勇者が目の前にいると確信して大きな歓声を上げ喜ぶ夫婦に対し、ウィナードさんは小さなため息をついていた。


 もてはやされるのが嫌いなんだろうか?

 不思議に思うわたしの横で、旅人さんが感心したように呟いていた。


「流石勇者だな……あんな短時間で盗賊を追い払うなんて」


 ……はっ! もしかしてわたし、ウィナードさんの戦い方を調査できるという最高のタイミングを逃した!?

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