22話 勇者に対する反応は、こんな感じなんですね
「煩い」
「す、すみません」
短く告げられた冷たい言葉に、反射的に謝ってしまう。
ジェイクさんは、やっぱり白亜様に似てる気がする。冷たい雰囲気とか、この取り付く島も無い感じのしゃべり方とか!
小さくなるわたしとは逆に、奥さんはより一層目を尖らせた。
「なんなの? あなたもこの人の仲間!?」
「さあ。同行者ではあるけどな」
ゆっくりと立ち上がり、こちらに近付いてくる。
背の高いジェイクさんに寄られて、奥さんは少し後ずさった。
「な、なんなの……」
気圧されながらも言い返す奥さんを完全に視界に入れず、ジェイクさんはその先のルークさんを見た。
「ルーク。こういう奴らには一言言えば済むだろ。『俺達は勇者レインの一行だ』ってな」
「ジェイ」
その時のルークさんの顔は、どう言えばいいんだろう。
苦そうな、悲しそうな、責める様な、形容しがたい表情だった。
その顔に浮かんだ表情の理由を考える間もなく、奥さんが「レイン?」と呆けた様な声を出した。
「レイン……って、ギルドニア国の勇者の?」
旅人さんが確認するように呟く。
その大きくも無い声が響くほど、馬車内は静まり返っていた。さっきまで騒いでいた奥さんは目を瞬かせているし、震えていた旦那さんはぽかんと口を開けている。
「これを見たら分かるか?」
ジェイクさんが左手を上げる。
その手首には、細い銀色のブレスレットのようなものがはめられていた。
鎖の先にはプレートがはめられていて、なにやら紋章の様なものが描かれている。多分だけど、勇者の一行である証か何かだろう。だって、それを見た瞬間、奥さんと旦那さんは歓喜の声をあげて、旅人さんも目を丸くしていたから。
そんな馬車の中へ飛び込んできたのはウィナードさんだ。
「みんな無事か!? とりあえず、盗賊は全員退却した……」
「レイン様!」
言い終わる前にウィナードさんに飛び付く夫婦の二人。
うん。なんて言うか……ウィナードさん、タイミング悪かったと思う。
突然乗客の二人に飛び付かれたウィナードさんは、驚きながらも倒れそうになるのをなんとか堪えていた。
「な、なんですか!?」
「あなたが勇者様ですね!」
質問の回答ではないけれど、その言葉でウィナードさんは全てを悟ったらしい。一瞬ジェイクさんを睨むように見たのは、見間違いではないと思う。
「勇者レイン様ですよね?」
すがるように尋ねられ、ウィナードさんは大きなため息をついた。
「……ウィナード・レインです」
勇者が目の前にいると確信して大きな歓声を上げ喜ぶ夫婦に対し、ウィナードさんは小さなため息をついていた。
もてはやされるのが嫌いなんだろうか?
不思議に思うわたしの横で、旅人さんが感心したように呟いていた。
「流石勇者だな……あんな短時間で盗賊を追い払うなんて」
……はっ! もしかしてわたし、ウィナードさんの戦い方を調査できるという最高のタイミングを逃した!?




