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白の魔王の物語  作者: まる
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21話 全面的に、指示に従います

主人公は、戦闘にも突然の状況にも弱いです。

 唖然とするわたしを尻目に、即座に動いたのはウィナードさんだった。

 反射的に、というような感じで、剣を掴み馬車を飛び降りる。軽やかな身のこなしで鈴さんが続いた。


 え、えーと、えーと。

 わ、わたしはどうすればいいですか!?


 完全に行き場を失っていると、突然誰かが手首を掴んできた。


「ひぁっ! ル、ルークさん?」

「ジュジュ、怖いかもしんねぇけど一緒に行くだ」


 思い切りひっくり返った声を気にするでもなく、初めて見る真剣な表情で告げる。いつものほんわかした雰囲気が消えたルークさんに、反射的にうなずいてしまう。

 ルークさんはわたしを椅子から引っ張り上げると、他の乗客に目を走らせた。


「おめぇさん方も来るべ!」


 馴れた感じがするのは、気のせいじゃないと思う。きっと、いつもルークさんは戦うウィナードさん達の後ろでこんな風に動いているんだろう。

 でも、そんなルークさんの指示に安心したのはわたしだけだったようだ。


「なな、なんなの? あなた一体何なの!?」


 旦那さんと抱き合っている奥さんが、涙目で悲鳴の様な声を上げた。

 つやつや輝く燕尾服に、深紅のドレス。旅というより旅行をしていた様子の夫婦にとって、盗賊に襲われるなんていう事態は、完全に想定外のことだったんだろう。完全にパニックに陥っていて、話を聞ける状態じゃなさそうだ。

 まあ、こんな状況じゃ無理も無いよね……。わたしがまだ冷静でいられるのは、先陣を切って動いてくれている相手が誰かを知っているからだ。


「外に出たら、盗賊がいるんだろ? それならここの方が安全じゃないのか?」


 そんな中、もう一人の乗客、旅人さんがルークさんに尋ねる。

 冷静な彼の様子に、そんな場合じゃないのに思わず感心してしまう。ルークさんは、彼に首を振った。


「ここだと逃げ場がねぇ。中に入られたり、火をかけられたりしたら一貫の終わりだべ。そんなら、おらの仲間の傍で守ってもらう方がずっと安全だ」


 おお、なるほど。

 確かに、こんな馬車の中じゃ逃げ場なんてない。さっきガクンと揺れてから動いている気配も無いし、多分馬が逃げてしまったか、走れなくなってしまったんだろう。

 とりあえずルークさんの言う通りに動けば大丈夫と考えていたけど、その理由を聞いてその考えが確信に変わった。

 けれど。


「そんなの、分からないじゃないの!」


 わたしの思いを打ち消すように、震えていた奥さんが突然声を上げた。


「あなたの仲間っていうけど、出ていったのは二人しかいないじゃない! 二人で何とか出来るの!? あなたも私たちを守れるの!?」


 なんだか責める様な言い方に、ルークさんは少し戸惑った顔をする。


「おらは戦えねぇけんど……」

「ほら! 二人しか戦えないのに、どうしてそんな大口を叩けるのよ!」

「あ、あの。この人達なら大丈夫だと思います」


 思わず間に入ってしまう。

 だって、助けようとしてくれてる相手を責めるなんて、なんかおかしいよね? それに、ルークさんはわたしの恩人だ。誰かに責められて欲しくない。

 そんなわたしを、奥さんはキッと睨みつけてきた。


「どうして大丈夫なんて言えるの!? 下手に戦って相手を怒らせたら、それこそ危ないじゃないの! お金を出せばいなくなるんでしょ? だったら、黙ってお金を渡せばいいじゃないの!!」

「え、えっと、それは……」


 あれ、どうしよう。なんか一理ある気がしてきた。


 完全に論破されそうになっていると、はぁ、と大きなため息がした。わたしも、奥さんも、思わずため息の元に目を向ける。


 そこには、ひどくつまらなそうに頬杖をついてこちらを見ているジェイクさんがいた。

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