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白の魔王の物語  作者: まる
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1話 状況を確認したら、最悪でした

島からスタートにして経緯を詳しく書くか悩みましたが、以前のままにしました。読み易さは考慮していますが、しばらくの間は前回のストーリーと大して内容が変わり無いかと思います…。

ブックマーク付けて下さり、ありがとうございます! 励みにして、最後までいけるように頑張ります!!

「い……おい!」


 誰か、呼んでる……?


 重たいまぶたをこじ開けると、褐色の肌に短く刈った黒い髪の、よく見知った顔が目に映った。

 つり上がり気味の赤い目が、心配そうにわたしの顔を覗き込んでいる。


「……らいか?」


 声を出すと、雷翔らいかはほっとしたような顔になった。


「よかった。気が付いたか」

「……?」


 そこは砂浜だった。

 わたしと雷翔以外、周りには誰もいないし何もない。目の前の海は、なんだか凄く澄んだ青い色をしていた。

 綺麗……って、見とれてる場合じゃないか。ええと、ここは何処でしょう。わたし、どうしたんだっけ?

 記憶を探っていると、雷翔が肘で小突いてきた。


「え? なに?」

「上」

「上?」


 雷翔の指差す方向を追ってひょいと顔を上げたわたしは、その先の光景に息をのんだ。


「……!?」


 なに、あれ!


 高くて、青い空。雲は白くて、まぶしい光……あれが太陽?


「この空って事は、うまく大陸に渡れたみたいだな。……どうかしたか? ぼーっとして」

「だ、だって! わたし、こんな空を見たの初めてだよ!!」

「ああ、そうか。お前は一回も島から出たことなかったよな」

「そうだよ! うわー、島の空とこっちの空、本当に全然違うんだ」


 雷翔に聞くまで、わたしは空が黒いものだとばかり思っていた。島じゃ黒い雲が覆っている空が普通だったから。

 そのせいで一日中暗くて寒くて、洗濯には毎回苦労させられた。しかも一年の半分くらいは雨が降るし、たまには雪も降る。

 島のことを思い出すと、あの寒さもよみがえってきた。本や話の中でしか聞いた事のなかった太陽。あれがあるだけでこんなに暖かさが違うものなんだ……。


「ほら、あれ見ろよ」

「え?」


 突然雷翔がどこか遠くを指差した。海の方だ。


 そうか、海がこんなに綺麗に青く見えたのは、空が青いせいだったんだ。

 納得しながら雷翔の指を追っていくと、遠くの方に黒いものが見えた。


「あれは?」

「島だ。黒煙の島」

「あれが……」


 あれが、わたしの住んでいた島……。


 こうしてみると、なんだか不思議だ。

 黒い雲が広がっている空が普通だと思っていたけど、こっちから見ると黒い雲があるのはあの島の所だけで、まるで島に雲がまとわりついているみたいだ。

 黒煙の島っていうのはこっちの人がつけた名前らしいけど、確かにこうしてみると煙のように見える。


 ……あれ? 島があそこにあるってことは、ここは島の外だよね。なんでわたしここにいるんだろう。なぜか全身濡れてるし。


 見ると、雷翔もずぶぬれだった。上着を脱いで、ぎゅっと絞っている。


「それにしても飛翼ひよく族の奴ら……。ふざけたことしやがって」


 あ、そうだ。


 いらついた雷翔の言葉でやっと記憶がつながった。島を出てすぐに飛翼族の人に襲われたんだ。それで、船が壊れて。


 襲撃にあった後の記憶がない。きっとすぐに気を失っちゃったんだろう。だとしたら、雷翔が一人で戦ってくれたはずだ。


「ねえ、大丈夫だった? 怪我とかしてない?」

「してねぇよ。ほとんど戦ってねぇし」

「え……でも」


 襲ってきた時の、彼らの剣幕は覚えている。

 あの勢いで船を壊しに来ただけだとは思えないけど……確かに雷翔の体には古い傷の痕しか見当たらない。

 それに、左腕。肩から指の先にわたって覆う様に巻かれた包帯は緩んだ様子すらない。確かに戦ったわけじゃなさそうだ。


「船を壊したら戻っていった。どういうつもりかは分かんねぇけどな。で、ここまでそれほど距離はなかったから、後は泳いできた」

「泳いで!?」

「ああ、荷物は全滅」


 なんて顔をしかめているけど、泳いでここまで来ただけでも相当凄い。

 船が襲われた時は、まだ大陸が遠くに見えていた時だ。それにわたしを抱えて、でしょ?


「雷翔、ごめんね。ありがとう」

「なんでお前が謝るんだ?」


 パン! と上着を広げていた雷翔は、きょとんとしてわたしを見下ろした。


「だって……飛翼族の人が狙ったのってわたしでしょ? それなのに、雷翔まで巻きこんじゃって、こんな目に遭わせちゃうなんて」


 ああ、本当に情けない。


 ため息をつくと、ぽんと頭に手が置かれた。そのままぐいぐいと左右に振る。

 ……撫でているつもりだろうけど、頭の中で脳みそが揺れてる様な感じがしてちょっと気持ち悪い。


「らしくねーな。何しょぼくれてんだよ」

「だって、さすがに……殺されそうになるなんて、初めて」


 言葉にすると、ますます気分が沈んできた。

 わたしだって島の人に好かれていたとは思わない。けど、あんな風に殺気立って追われるのは、怖くて……それより悲しかった。


「ま、確かにあれは計算外だったな。あそこまで堂々と襲ってくるとは思ってなかった」

「でも、仕方ないよ。わたしが選ばれるなんて……誰だって不満に思う。どうしてわたしなんかが選ばれちゃったのかなぁ」

「選ばれたものは仕方ないだろ。こうなったら、ちゃんと試練を終えて王位を継承するしかないさ。誰にも文句が言えないように」

「試練……」


「そう。魔王になるための、勇者を倒すっていう試練だ」


 ああ……なんて無謀な挑戦なんだろう。

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