11話 クーファの恩返し
少し短め。
これから本編に入っていきます。…たぶん。
ああーどうしよう!
さっきからそれしか考えてない。でもでも本当にどうしよう!
まさか、いきなり勇者と遭遇するとは予想外の展開だ。予想外過ぎてどうしていいのやら! というか、わたし魔王候補のくせして勇者に助けられたんだよね? ないない! あり得なさすぎだって!! こんな事が白亜様にバレでもしたら、あの絶対零度の視線で見下ろされて、それ以降はああ考えたくもない!!
ルークさんに安静にするように言われているけど、正直ベッドの上をゴロゴロと転がりまわりたい気分だ。だってだって、数日後にはその勇者と一緒に出かけるんでしょ? 危険極まりなさすぎだってばー!
「ジュージュ!」
バンッと扉が開いて、緑色の物体が飛んできた。デジャヴ? と思う間もなく、ドラゴンはお腹の上に着地を決め、
「ギュッ!」
「ぐえっ」
な、なんで着地に失敗するの……! お腹の上で転んだクーファの顎が思いきりみぞおちに入った。さっき食べたミルク粥っていう料理が喉元まで戻ってきたよ……!!
「ジュージュ、平気カ!?」
「は、はは……へいき……」
慌てて聞いてくるクーファに笑顔を浮かべるけど、たぶん顔は引きつってる。脂汗も浮かんでるかも。クーファは気まずそうな顔をしながら、わたしの胸辺りまでやってくるとぺたりと座りこんだ。丁度顔を突き合わせる位置だ。
「どうしたの? ウィナードさん達と一緒に行ったんじゃなかったの?」
赤髑髏の事件の経過報告があるとかで、ウィナードさん達は宿を出ていった。クーファも一緒にくっついて行ったはずだけど……。
その質問には答えず、しょんぼりした様子でクーファがつぶやいた。
「ジュージュ。ゴメンナ」
「大丈夫。お腹に怪我はしてないから、ちょっとくらいぶつかったりしても平気だよ」
わたしの怪我は肩と腕と足、それと筋肉痛だけだ。それもルークさんの薬のおかげでだいぶ楽になっている。
クーファは静かに首を振った。
「ソウジャナイ。オレ、頼ミ、叶エラレナカッタ」
え? 頼み? 何だっけ。
「恩返シ、出来ナカッタ。ゴメンナ」
「え? してもらったじゃない。クーファがウィナードさん達を呼んできてくれなかったら、死んじゃってたもん。しかも王都まで送ってくれるっていうし、こっちのほうが恩返ししなくちゃいけないくらいだよ」
笑いながら言うわたしに、そうじゃないとまた首を振る。小さな耳がたれ、背中のタテガミも心なしか萎びているみたいだ。
「ライカ」
「――……!」
クーファの口から零れたのは、わたしの親友の名前だった。
どうして。
どうしてクーファが雷翔の名前を知っているの?
「……それ……その名前」
声が震える。心臓がバクバク脈打っているのが耳まで響く気がした。
クーファは相変わらずしょぼんと俯き加減だ。
「ジュージュ。アノ時、頼ンダ。ライカノ無事、知リタイッテ。怪我シテタラ、治シテアゲタイッテ」
そう。あの時、確かにそう思った。でも意識が薄れてて、曖昧で。わたし、クーファにそんな事を頼んだんだ……。
「オレ、ウィー達呼ンデカラ、山行ッタ」
ドキドキする。
雷翔は。雷翔はどうなっていたの?
「ズット探シタケド、誰モイナカッタ」
「誰も……? ……死体も、なかったの?」
クーファがうなずく。
……ああ!
「死ンデル魔物ハイタ、ソレ以外ハ、何モ」
「クーファ!」
胸の上のドラゴンを抱きしめる。目の端から涙が零れていくのが分かった。
確証はない。だけど、生きているかもしれない。ううん、きっと生きてる。あの雷翔がそう簡単に死ぬわけない。分かっていたことじゃない。
急に抱きしめられてびっくりしたのか、クーファは丸い目をますます丸くしてわたしを見上げた。
「ジュージュ、ドウシタ。泣イテルカ? オ腹、痛カッタカ? ゴメンナ!」
「ううん、違うの。ありがと。ありがと、クーファ」
おろおろするドラゴンに、わたしはしばらくありがとうを言い続けていた。