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白の魔王の物語  作者: まる
11/61

10話 彼らの正体・・・って勘弁して下さい!

そろそろ変更していこうと思ってます。・・・たぶん・・・

 俯いていると、傍で話を聞いていたおかみさんが肩に手を置いてきた。顔を上げると、慈しみで出来た笑顔が。あああ、また罪悪感が!


「大丈夫だよ。記憶が戻らなくたってさ、赤髑髏の被害者だって事はおおよその見当がついてるんだ。すぐに身元が分かるよ」


 分かられると困るんです。なんて言えるわけもない。


「そ、そうですね……。あの、ところでさっきから話に出てきているんですけど、赤髑髏って何ですか?」

「ああ、あんた、忘れちまってるんだったね。赤髑髏っていうのは、数カ月前くらいから国を騒がしている賊の名前だよ。狙うのは若い娘ばかりでね、攫っては売り飛ばし、貴族の娘を誘拐しては身代金を要求する。身代金を用意した所で帰ってきた娘はいないし……本っ当に最低な悪党どもだよ!」


 話しているうちにおかみさんの怒りが頂点を超えたらしい。ダンッ! と拳をテーブルに叩きつけた。ちょ、テーブルがミシッて鳴りましたけど……!


「でも、もう脅えなくていいんだ。ウィナード達が討伐に来てくれたからね」


 今脅えたのは赤髑髏に対してではないのだけれど、同意を示してうなずく。彼女には逆らっちゃいけない、と本能が告げている。


「えっと……ウィナードさん達は、その赤髑髏を捕まえに来たんですか?」


 確認するように見ると、肯定するようにウィナードさんはにっこりと笑った。


「まあね。と言っても、今はまだ被害が多い地域を巡回しているばかりで、まだ何の手がかりも掴めてない状態なんだけど」

「そうなのよねぇ。何か手掛かりだけでもあればいいんだけど、アジトの位置はおろか、どのくらいの規模の集団なのかさえ分かってないんだもの。……ねえ、何か覚えている事ってないかしら?」

「鈴」


 わたしに投げかけた質問を打ち消す様に、少し厳しい声でウィナードさんが鈴さんの名前を呼んだ。……そういえば、わたしはその被害者って事になっているんでしたね。

 わたしに気を遣ったウィナードさんに、鈴さんはバツの悪そうな顔をして肩をすくめてみせた。


「ごめん、つい。ジュジュも気にしないで。あたしたちにかかれば、手掛かりなんてなくったって盗賊団の一つや二つ速攻で壊滅しちゃえるわよ! それに、あたしたちは国から直々に討伐を頼まれてるの。被害者を守るのだって当然の責任なんだから、助けられて当たり前くらいに思ってて」


 パチンとウインクをして、鈴さんはジョッキを持ち上げた。そのまま半分以上あったビールを水の様にごくごくと飲み干してしまう。にっこり笑う顔からはアルコールの気配は一ミリも感じられないけど……すみません、それ何杯目ですか?


「す、凄いですね」

「そうよぉー凄いのよー。だから、ジュジュの事だってすぐに家へ帰してあげるわ。王都に行けば行方不明者のリストも見せてもらえるし、それを探せば一発よ」

「そ、それは」


 まずい。行方不明者のリストにジュジュなんて名前は絶対に載ってない。

動揺するわたしをよそに、鈴さんは明るく笑う。


「遠慮する事無いわよ。もし分かんなくたって国に保護してもらえるし。どちらにしろ王都に行かなきゃ話しになんないわ。被害者の救助だって仕事の一環! それにクーの命の恩人でもある子をほっとけないわよ。ねえウィー?」

「ああ。でも、王都までは結構遠いからなぁ。ルーク、彼女はまだそんなに動かせないだろ?」

「今の状態じゃ、長距離の移動は控えた方がいいだ。少なくとも三日ぐらいは経過を見といたほうがいいべ」


 か、勝手に話が進んでいく……。

 わたしの前では、クーファが声を張り上げていた。


「ジュージュ、一緒ニ行クカ! 行クノカ?」


 太いしっぽが左右に大きく揺れる。喜んでる……んだろうなぁ。三人を順番に見る目は、期待に溢れてキラキラしている。

 そんな状況下で、一人だけ自分のペースを崩さすにつまらなそうな顔でお酒を飲んでいたジェイクさんが、ぽつりと呟いた。


「必要ない」


 低いけれどよく通る声は、全員を一気に黙らせた。


「使い道がなさそうだし……邪魔くさい」


 沈黙が流れる。


「何だいそれは!」


 店中に響き渡ったのはおかみさんの声だった。すぐ傍にいたわたしの耳に突き刺さる様な大きな声。鼓膜がビリビリふるえた。


「使い道って、人を道具の様に言うんじゃないよ! しかもこんな酷い目に遭っている子を。よくそんな風に言えるもんだね!!」

「お、おばちゃん。落ち着いて」

「落ち着けるもんか! ウィナード! なんでこんな奴を仲間にしてるんだい!?」


 おかみさんに指を突きつけられるジェイクさんは、面倒そうな顔をしてまともに取り合う気はなさそうだ。それが余計におかみさんの苛立ちを増幅させたらしく、今度はウィナードさんにまで当たり始めてしまった。こ、ここは、わたしが何とかすべきですよね? 一応、話の中心人物だし!

 勇気を奮い起して立ち上がる。


「あ、あのっ」


 頑張ったわりに、出た声は上擦っていた。かっこ悪! それでも、全員口を噤んでわたしに視線を向けてくれた。


「看病までしてもらって、そこまで皆さんに迷惑をかけるわけにはいきません。後は、自分でなんとかします」


 必死に意思を伝えた。しんと静まりかえった後、ウィナードさんが口を開いた。その顔は真剣……あれ、なんか、怒ってません?


「なんとかって、どうするんだ?」

「どうって……」

「怪我が治って、それから? どこへ行くんだ? 住む場所は? 食べる物は?」

「それは……」

「君には何もないんだ。金も記憶も。どう考えても、自分でなんとかできるという状態じゃない」

「…………」


 ウィナードさんの言葉は正しかった。

 記憶はあるとしても、知識はない。お金もないし、行くあてもない。自分がどれだけ心許無い状況にいるのか、はっきり言われてからそれが分かった。

 視線を手元に落として、自分の服装に目が行く。ボロボロのドレスじゃなくて、無地で着心地の良い服。これもウィナードさん達が用意してくれたものなんだろう。わたしは、彼らの手助けなしじゃ生き延びる事さえ出来なかった。

 ウィナードさんが静かに立ち上がり、黙るしかないわたしの肩に手を置いた。視線を合わせる様にしゃがみこむ。


「ごめん。でも、自分の状況をちゃんと分かって欲しかったんだ」

「……いえ。わたしも、ちゃんと理解してなかったんだと思います」


 本当にそうだ。

 わたしは誰にも頼れない状態で、何も持たずに放り出された。この状況で生き抜くにはまずちゃんとそれを理解する必要があった。それなのに、怖くて。

 目を、背けていたんだ。


「ジェイク」


 立ち上がったウィナードさんに呼ばれ、ジェイクさんが顔を上げた。

 左手で頬杖をついているジェイクさんをウィナードさんが見下ろす。今まで見た事のない、厳しい視線だった。


「俺達には困っている人を助ける責任がある。彼女は王都へ連れて行く。いいな」


 ジェイクさんはじっとウィナードさんを見上げていたけれど、すぐに興味を失った様に視線を外した。


「了解」


 ため息の様なかすかな声。

 その声を聞いた瞬間、思わず安堵の息を吐いてしまった。でも、あれ? わたしなんで一緒に行く事にほっとしているんだろう。相手は人間なのに……。

 心の中で自問していると、ウィナードさんが笑いかけて来た。その顔にはさっきの怖い雰囲気は残ってない。


「そういうことだから。身元が分かるまで俺達が君を保護する。一人で抱えないで、頼ってくれていいからな?」

「そうそう。記憶を失くして心細いかもしれないけどさ、ここにいる間はあたしの事も頼って良いんだからね」


 おかみさんがわたしの肩を抱き寄せた。大きくて温かい体が安心感を与えてくれる。

 ――ああ、そうか。

 わたしは不安だったんだ。一人でいる事が。一人だという事実が、凄く。

 涙が出そうになる。わたしってこんなに泣き虫だったっけ?


「あれ。おめえさん、首から何下げてるだ?」


 涙を堪えていると、突然ルークさんが声をかけて来た。

 首から?

 ルークさんの視線を追って、胸元に目をやる。いつのまに服からはみ出ていたのか、しるしが飛び出していた。銀のチェーンには金の枠にはめこまれている――……。


「……でかい宝石だな」

「そうそう! これの事も言おうと思ってたのよ! 見た事無い石だし、サイズ的にも国宝級のものでしょ?」

「確かに、これだけの宝石を持ってるって事は貴族には間違いないみたいだな。それも手掛かりになるだろうし、これならきっとすぐに身元が分かるんじゃないか?」

「綺麗ダナ。空ノ色ダ」


 空の色。


 クーファの声が耳に響く。そう、クーファは何も間違っちゃいない。金の枠にはめ込まれた宝石は……青い。

 いつかの白亜様の不機嫌そうな顔が脳裏に浮かんだ。


『これはしるしと言って、魔王の証になる品だ。勇者の血を与えれば、宝石が赤く輝き力を得る。又、勇者を探す手掛かりにもなる品だ。勇者が傍に現れた時この宝石は』


 青くなる。


 さっきの騒動のせいか、店の中にはわたしたち以外誰も残っていない。しるしを見つめたまま固まるわたしに、おかみさんが優しく声をかけて来た。


「ウィナード達は有名な討伐隊なんだよ。なんせ国王直々に選出した勇者の一行なんだからね! 若干一名の問題児はいるけど、これほど頼りになる道連れはいないだろ? 良かったね」



 ……全然良くないです!

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