通勤をしたい
「通勤したい」
「はぁ?」
瀬戸博はうな垂れる。PCの前で仕事である2次元を描くことに一時放棄していた。単なるスランプに近い。
報告と納品を待っている工藤友は唐突の独り言に何が言いたいか分からなかった。確かに、この会社は泊まりが多い。労働基準は果てしなく最悪に近いが、ほとんどが高校から知り合いで運営されており仲はとても良いのだ。
「友ちゃーん。もう朝だよー。普通、僕達は通勤をしている時刻なんだよ」
「だから何が言いたいの?」
「僕はね!!2次元にしか興味はない!!そう断言しているけれど!!やっぱり、通勤途中の電車の乗り換え時の階段の下!!そこから見る女子高生やOLには興奮してくるんだよ!!パンツがっ」
ドゴオオォッ
「いだぁっ!?ペンタブレットで殴らないでよ!」
「お前は通勤すんな!!覗きで捕まってな!」
「ちぇー……」
「さっさと仕事をしなさい!あたしより酉さんに来て欲しいの!?」
「大人の魅力的には酉さんが……いやでも、やっぱり友ちゃんが一番気楽です」
などと楽しげかつ気持ち悪い会話をしつつも、瀬戸のスランプが直るわけではない。
瀬戸の腕は確かであるが、いかんせんムラが酷く扱いづらい男である。2次元に関しては天下無双(特に女)とも言える力量であるのだがな。
「でも、あんたが3次元に目覚めるなんて不思議ね。いつも2次元こそが神とか言っているくせに」
「不思議じゃない!だって男だもん!友ちゃんや安西は僕に触れてくれないんだもん!」
「だって、あんたがキモイんだよ」
「僕は20を超えていても小学生サイズの可愛い体型だよ!顔だって悪くないと思っているよ!!ぬいぐるみを抱く感じで僕を抱いて良いんだよ!」
「心から全てが気持ち悪い」
「グサァッ!」
雑談をしている余裕は日程的にないのだが。どうしてもメンバーは瀬戸を信じている。
「今寒いじゃん?女子高生が穿いている黒タイツだけじゃまだ寒そうだから、僕が足に張り付いてスリスリして温めた方がいいと感じるんだ。友ちゃんにもしようか?」
「キモッ!発想がとにかくキモイ!」
「そんな妄想を抱いていないと!!通勤が辛いじゃないか!これから仕事かーって……溜め息交じりで行くよりも、女子高生の閲覧会や触れ合いと思えば小刻みなスキップするでしょ!?女子高生がどうしてスカートなのか、簡潔な理由の一つは通勤する社蓄な男共のモチベーションアップなんだよ!!」
「お前等みたいな変態のために女子高生がいるわけじゃないから!!そんな奴は電車に刎ねられろ!!」
「あーもう!!女子高生に僕が抱きつきたい!!僕、結婚と子育ては嫌いだけど!女と女の子は大好きなんだよ!!」
「本音言いやがった!」
瀬戸の騒ぎかつ、仕事放棄に頭を悩ます会社。工藤は仕方なく奥の手を使った。
「じゃあ、報酬を出してあげる。安西と林崎、酉さん、の秘蔵写真をあげるから。2時間で仕上げてよ」
「ひ、秘蔵写真!?」
「3人のレアなコスプレ写真。だから、元気出して仕事してよ」
「……友ちゃんのは?」
「あ、あたしはその上手くは………いえ、写真係だったから。言っておくけど、エロくはないわよ!参考にでもしたら程度!」
工藤は携帯で撮った画像を確認してみる。以前のバレンタインの企画であるが、女子4人で男性社員達にプレゼントするためのチョコレート作り風景を確認した。
見慣れた私服やスーツ姿ではなく、エプロン姿の4人はある意味コスプレでもある。
どんな中身か伝えなくても、
「それでも3人のレアなコスプレ写真か!!どれだけエロイんだろ!?」
「………だから、エロくないって」
勝手に妄想してくれる瀬戸だから許せる手段でもある。
ちなみに報酬を上げた時、女子が写っていれば大抵喜んでくれる。それは4人共、可愛いってことかな?