宿を見つけて
……踏み出したのはいいんだけど。
ここは何処!?
関所から少し歩いただけなのに、早くも右も左も分かんなくなっちゃった……。
『ど、どうしようお兄ちゃん!!』
『そういうときには身を隠すんだ』
『なんで隠れなきゃいけないのよ! ああ、本当にどうしよう……』
早いとこ宿を見つけないと、今日は野宿になっちゃう……。こんな街中で寝てたら、絶対変な男に拐われるに決まってるよ。そこからの監禁プレイなんて私は絶対にごめんだからね!
『そんな事を考えてる美羽に嬉しい話。お前の視界の右上にあるもの、なーんだ?』 『え、右上?』
お兄ちゃんに言われた通り視界の右上に目をやると──
──《旅人達の止まり木 ハルトーバの宿》 この道を徒歩1分。
そう書かれた看板が。
ぬぉう!? 天国への扉を私は見つけたぁっ!!
『あ、ありがとうお兄ちゃん!』
『困った時にはお互い様だろ? さ、急ごうぜ!』
『うんっ!!』
お兄ちゃんに返事して駆け出すと、一分も経たずにその宿にたどり着いた。まぁ、徒歩一分の所を走れば当たり前だけど。
出入り口の扉の上には、さっき見た看板と同じ《旅人達の止まり木 ハルトーバの宿》の文字が。
よかった、今日は眠れる場所がある! こんなに嬉しい事はないよ!
早速扉を開けて中に入ると、一階は待合所兼酒場見たいで、老若男女大勢の人がそれぞれの時間を過ごしていた。
ジョッキに注がれたビールを一気に煽る男の人、トランプゲームに興じる若い人の集団、乙女トークを交わす女の人。本当に様々な人で溢れてる。
だけど、今は早くチェックインしなきゃ。
案内板を見ると酒場のカウンターと宿の受付は共通みたい。早速行きましょう!
人混みを掻き分けて駆け足で走り、ようやくカウンターにたどり着いた。
「「一泊一人分朝食付き、お願いします(マース)」」
──あれ?
なんか今誰かと声が重なったような。
隣をまさかと思い隣を見ると、そこには猫耳金髪の女の子がキョトンとした眼でこちらを見つめていた。
「あー、すいません。実は本日、部屋があと一つしか空いておらず……」
少し驚いた素振りで、受付の人がそう告げた。
「What!? こーゆータイミングでヘヤがアいてナいなんて、なんてbad timing! Hay you、コンカイはワタシにユズりなさい!」
「そっちこそ、私に譲りなさいよ!」
女の子は何故か英語混じりの訛りが強い喋り方で異議を申し立てて来るけど、そうはいかない! 私だってやるときにはやるんだから!
『おい、美羽』
『何、お兄ちゃん? 今良いところなんだから、邪魔しないで!』
『だが断る」
『え、ええっ!?』
半ば強引に美羽と身体の主導権を入れ換えると、俺は金髪猫耳萌え少女に向き直る。
「Jast a moment Please? ちょっと思い当たった事があるんだが……」
「Well……。ベツにいいですケド?」
金髪猫耳萌え少女から了承を得た所で、今度は受付に問い掛ける。
「もしかして、今空いてる部屋って二人部屋だったりします?」
「あ、はい。左様でございます」
よし、狙い通り。
二人の喧嘩の原因は、どちらか一方しか部屋に入れないと思っていること。
なら、その先入観を壊せばこの件は穏便に片付く。
「ナンなんですカ? フタリベヤだからってどうゆー……」
「すいません、ちょっと穏便に済ませようと思って」
何が言いたいのか分からない、といった表情の金髪猫耳萌え少女と、脳内で頭に「?」マークを三つ程浮かべている妹。
ならば諭してやろうではないか。
「今日は私と一緒に泊まりませんか?」
猫耳は至高にして究極(断言)。