VS 謎の女(少女っぽいが)
「えっ、ちょっ!? なになになにっ!?」
突然の事にパニクって女の人と反対方向に逃げると、行く手にはさっき登った木が。
逃げられない。
そう直観で感じ取り後ろを振り向くと、女の人が片方のカタールを振りかざしていた。
後ろに逃げられないならしゃがめばいいじゃない!
そう考えるより先に身体が動き私が屈んだ直後、髪を掠めてカタールが振り抜かれた。
「…………………………」
「…………………………」
──ズズン!
しばらく沈黙が続いたかと思うと、地響きと共に後ろから大きな音が。
振り向くと、私の背後の木が見事に切断され地面に倒れていた。
な、なんちゅう切れ味……!
「さぁ。この木のようになりたくなければ、さっさと荷物全部渡しなさい」
女の人は私を見下ろし、カタールを首元に突き付けてきた。
どうしよう、この状況。
荷物を渡せば、少なくとも命は助かる。
しかしそうなると今後の生活が大変になるよね……。
逆に渡さなかったら、私もこの木と同じ運命をたどることに……。
うぅ……っ。やっぱり命ある方がいいよね。
よし、荷物渡そ──。
『ちょっと待て、美羽』
『な、なにお兄ちゃん……?』
突然お兄ちゃんが話し掛けて来たので、私は耳を傾ける。
『お前、あいつが俺達を生かすと思うか?』
『え、なんで?』
『俺達はあいつの顔を見ている。あいつが逃げた後で俺達が警察や兵士にその事を言えば、指名手配書なんかが貼られてすぐ捕まる。そんなこと予想出来てないと思うか?』
うーん、確かに。でも荷物渡せば見逃してくれるみたいだし……。
『よく思い出せ美羽。あいつはお前になんて言った?』
え? えっと確か……。
──さぁ。この木のようになりたくなければ、さっさと荷物全部渡しなさい。
こう言ってたよね?
『あいつは、荷物を渡せば見逃すとは一言も言ってない』
『あ…………』
『つまり、荷物渡そうが渡すまいがあっちは俺達を殺す気満々なんだよ』
えっ、じゃあどうするの!? や、やっぱり逃げる?
『いや、俺にいい手がある。その為に美羽、身体代わってくれ』
『え? う、うん……』
美羽の了承を確認すると、俺は目の前のスクリーンに飛び込む。
飛び込んだ刹那、身体の主導権が美羽と入れ替わる。
四肢の末端まで神経が接続された瞬間、足を振り上げ相手のカタールをはたき落とす。
「な……っ!?」
相手が怯んだ隙に二馬身程距離を離し、リュックサックから短剣を取り出す。
「さて、形勢逆転ってとこかな?」
「あら……言ってくれるじゃない!」
あっさり俺の挑発に乗った相手は、はたき落とされたカタールを拾うことなく、もう片方のカタールを突き出して突進してくる。
日没も近い時間帯。長期戦になって日が落ちれば、ほとんどあちらが有利になるのは目に見えている。
あちらは少なくとも自分達よりはこの森に慣れている。暗闇から不意討ちを喰らえば一貫の終わりだ。
ならば、勝負は一瞬で決める。
相手が近づいてくるのに合わせ俺も駆け出し、懐に飛び込む。
「──もらった!」
相手のカタールの斬撃の軌道を見切り、俺は短剣の斬撃を相手の身体ではなく、「ある場所」に加えた。
「……な…………っ!?」
そのまま、両者硬直状態が続いた。
互いに1ミリも動かず、組み合ったまま無音の時が流れた。
──そして。
ぶちん。
静寂を打ち破った音と共に、相手のビキニアーマーがずり落ちた。
「ごちそうさま」
「……い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
相手は俺をはね除け後退ると、片手で胸を隠しこちらを睨み付けてきた。
だが残念。お前の胸の全て、この眼に焼き付けた。
けしからん、実にけしからん。我ら兄妹の秘宝にしなければ。
「ちょ…………どうしてくれるのよぉ!! こんなんじゃ町にも出られないじゃない!」
「いや、あんた可愛いからいっぱい男言い寄ってきて彼氏出来るかもよ?」
「陵辱されるのが関の山よっ!! バカバカバカァッ!!」
そこまで言うと、相手は地面に刺さっていた片方のカタールを引き抜き、ビキニアーマーを拾うことなく町の方角に去っていった。
このあと、ビキニアーマーは二ノ宮兄妹が大事に戦利品としていただきました。