異世界生活の第一歩
異世界生活スタートです!!
そよ風で目が覚めた。
寝転がったまま辺りを見回すと、そこはどこかの森の中だった。
耳をすませば、鳥の鳴き声や木々のざわめきが聞こえてくる。
ここが、ガリアルドの言っていた異世界らしい。
『おーい、お兄ちゃーん』
「その声、美羽か!? どこから──ってこれ俺の声か!?」
突如脳内に響く妹の声に驚いて声を上げると、自分が発した声に違和感があった。どこか温もりを感じる、何年も聞き慣れた声。
妹の声だ。
ガリアルドは言った、「身体は妹をベースにする」と。だとしたら自分の出した声が美羽の物でも何処もおかしい所はない。驚いて損した。
『今私、さっきみたいな真っ白い空間に浮かんでるの。多分、お兄ちゃんの頭の中』
「なるほど。俺が見ている光景は見えるか?」
『うん。目の前にスクリーンみたいなのがあって、そこに森が映ってる。音もちゃんと聴こえるよ』
となると、少なくともこの身体の視覚と聴覚は美羽と共用らしい。他の感覚は後で試してみることにしよう。
取り合えず身体の状況を確認しようと起き上がると、履いているスカートが風に靡いた。
ちらりと見えたが白だった。
『な、なに見てるのよ! お兄ちゃんの変態っ!』
「別にいいだろ? 俺達の身体なんだし、自分のパンツを見ようが見まいが自由だ」
『お兄ちゃんは元男でしょ!! 変態行為を自重してよ!』
「だが断る」
『もう、お兄ちゃんったら! 私と代わって!!」
「へ? っておおぅ!?』
その途端、意識が脳内に引きずり込まれる感覚を覚え、未来の世界が変わった。
辺り一面が白一色。そして目の前にはスクリーン。
そして、身体が転生前に戻っている。
「やったぁ! 入れ替わり大成功!」
『お、おい! どういう事だよこれ!?』
『身体の主導権がお兄ちゃんから私に移ったの。私のパンツ見た罰として、しばらくは主導権は譲らないから』
『何……だと……!? 美羽、今すぐ主導権を返せ! お兄ちゃん命令だ!』
「やだもーん。お兄ちゃんのその命令はまだ聞けませーん」
『お兄ちゃんの言うことを聞きなさい!』
お兄ちゃんめ、ざまぁ。私のパンツを見た罪は重いんだから。
さて、ちょっと顔とか身体とか見たいけど……どこかに川とかないかな?
そう思って辺りを見回しても、見えるのは生い茂る草木だけ。川なんて影も形もありません。
「ふふ。調子いいみたいね、その身体」
え、何今の声。
「後ろ後ろ」
「後ろ……?」
その声のいう通りに振り向くと、そこにいたのはガリアルドだった。
ガリアルドはにっこりと微笑むと、ゆっくりこっちに近付いてきた。
「別に支障はないかな、その身体」
「うん、大丈夫! あ、今は美羽の方だよ」
『俺にとってこの瞬間は苦痛以外の何物でもないんだがな』
『その苦痛がお兄ちゃんへの罰よ。どう、女の子の身体を堪能出来ない悔しさは?』
『許さんぞ美羽! 後でじわりじわりとなぶってやる!』
「あはは、頭の中のお兄さんとも仲良くやってるようだね」
「もちろん! だってお兄ちゃんと私は仲良しだもーん!」
『美羽、きぃぃぃぃさぁぁぁぁぁぁぁぁぁまぁぁぁぁぁぁっ!!』
「あ、今の姿見たかったんだよね。はい、どうぞ」
そう言うとガリアルドはどこからか大きな鏡を取り出した。これ多分、試着室にあるようなやつより大きいよ。
じゃあ早速身体を見ますか!
そんな気持ちで鏡の前に立つと、普段とほとんど変わらない姿の私が映り出された。
変わっているのは、身長と髪と──おっぱい。
これでかいよ! 小さく見積もっても絶対Eはあるって!
両手で揉んでみると、しっかりと肉の感覚が伝わってくる。
祝、貧乳脱出!
身長も数センチ大きくなってるし、髪もセミロングだったのが腰まで届くロングに。
はっきりいって超美人!
『畜生……美羽が揉んでるのに俺には感触が伝わらん……』
『お兄ちゃん、ざまぁ』
むにむにむにむに。
『こぉんのやろぉぉぉぉぉぉっ!!』
あー、頭の中が超うるさい。
「そうそう。これ、この世界がどんなものかっていう説明が付いたガイドマップね。それとこの世界の洋服」
指を鳴らす度に出てくる物をガリアルドは次々と渡してくる。
今言ったガイドマップに洋服、この世界の通貨、武器と思われる短剣、方位磁針、その他エトセトラ。
最期に小さめのリュックサックを取り出すと、突然ガリアルドの身体が光り始めた。
「僕がサポート出来るのはここまで。あとはお兄さんと頑張ってこの世界を楽しんでね」
「ありがとう、ガリアルド!」
私がそう言った時には、もうガリアルドの姿は掻き消えていた。
これで、この世界で頼れるのは自分とお兄ちゃんだけ。
新しい人生が始まったという事を自覚すると、何だか心が晴れ晴れする。
「さてと、じゃあ早速着替えってきゃあっ!?』
『ふっふっふ……。美羽、着替えなどお前の手を煩わせるまでもない! 俺が着替える!」
『ちょっと! 勝手に入れ替わらないでよ!』
『最初に相手の意思を無視して入れ替わったのはどこのどいつだったかな?』
『ぐぬぬ……』
どうやら図星を突かれているようだ。着替えるならば今しかないだろう。
早速、妹の制服を脱ぎ捨ててその肌を堪能する。
『い、いやぁ!? み、みないでよぉ!!』
「おお。お前の胸、AからEにレベルアップしてんじゃないか。どれどれ……」
むにむにふにふに。
『どこ触ってんのよバカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?』
脳内のうるさい妹は無視して、大きく育った胸を揉んで揉んで揉みまくる。この行為で胸が更に大きくなってくれれば尚いい。
「もしかしてお前の胸が大きくなったのは俺が合体したからじゃないのかなー? だったら俺に感謝しないといけないんじゃないかなー?」
『む、胸揉んでるくらいなら早く着替えてよぉ!』
「あれー? せっかく貧乳脱出できた原因であるお兄ちゃんにありがとうの言葉もないのかなー?」
『わ、分かった分かったぁ! パンツの件は不問に帰すから、揉むのをやめてぇっ!!』
「了解」
じっくり堪能し終わった所で、ようやく着替えを開始する。
下着一丁の状態になってから、ガリアルドが渡してくれた洋服を着込んでいく。
見た目的にはよくある異世界のそれで、薄手の布が風通しが大変よい。林の中で地味に暑かったから尚更だ。
そしてそんなこんなで着替え終わると、スカートを翻してガリアルドの渡してくれたアイテムをリュックサックに詰め込んでいく。
「──よし、これで準備完了かな」
『で、これからどうするの、お兄ちゃん?』
「うーん……。まずは、森を出ようか」
そう言って未来と美羽は歩き出した。