第7話:花咲く大地
更新速度をあげるのは難しいです
徐々に自分が書きたいと思える物語に仕上げていくつもりです
この世界『ジュールヴェンヌ』にも人々の生活リズムを支える時計という機械が存在している。
準交易都市レバトンには大きな時計がある。
北西区画にある伯爵の館に建てられていて、高さ20メートルほどの石造りの細長い時計台だ。その時計の針が午後七時を告げる時間になるとこの町には教会の鐘の音が大きく鳴り響き、日中に働き家への帰路につく人とこれから働きに出る人とが道を行き交う。
騎士団に務めるカーライルさんが帰宅するのは大体夜の8時で、この時間になると町の入り口である三箇所の門が閉じられ、門番を統括しているというカーライルさんも仕事場を離れる。
レバトン騎士団の仕事は主に領内の安全確保にあり、モンスターの討伐や街道の整備、そして同じく警邏活動、そして殆ど行われることがないということだけど“盗賊”の討伐も仕事の一つなのだそうだ。
僕は定時通りに帰宅したカーライルさんに今日の自分の醜態を伝え、これからの自分に必要な事を学ぶためにはどうすればいいのか意見を聞いてみることにした。
「ハッハッハッ!
ギルドの受付嬢の話を聞いただけで探索に乗り出すなんて、マモルは本当に素人なのだな。町の外で活動する場合はモンスターの情報を事前に調べておくのは常識だ。まぁ大抵の情報は子供の時分から色々なところで耳にして知っているものなのだがな、今朝確かめなかった私も悪いがこれからは気をつけるのだぞ」
「はい、今日のことを教訓としないと近いうちに死んじゃうと思うので気をつけます」
「それと装備も買っておくほうがいいな。普段着で西の森へ探索に出かけたそうだが最初は冗談かと思ったぞ。最低でも革鎧や小ぶりでも盾の一つでも持っていかねば、この先マモルが一人で活動していいくつもりであるのならば、いざという時必ず後悔する結果を招くことになる。
明日ルミーナと一緒に必要になる物を贖ってくるといいぞ。こう見えても彼女は戦士のジョブを持っているからな、まぁあまり鍛錬しているわけではないが巨人族の嗜みとして目利きくらいはできるはずだ。
そうだろう、ルミーナ?」
「ええ、レベル10の非力な戦士ですがマモル殿の装備の見立てをさせていただきます」
「それは助かります、よろしくお願いします!」
「うむ遠慮する必要はないからな、マモルには大きな借りがあるゆえ何でも言ってくれ。それじゃあそろそろ夕飯を戴きたのだがよいかな?」
「あらあら、支度の方は出来てますのですぐにお出ししますね」
「あ、すいません。カーライルさんはお仕事で疲れてるのに長々と話してしまって……」
疲れているであろうカーライルさんとともにダイニングに移動し、『料理人』のジョブを持っているルミーナさんの得意料理のチキンシチューを美味しく頂いた。
『料理人』には食材を自分の思い通りに切断する『スライス』、食材の鮮度を確かめられる『フードスタッフ』、調理中の食材の変化を色で確かめられるという(?)『クック』などがあるそうで、ルミーナさんはトリプル料理人なので一流レストランでも働けるくらいの能力があるそうだ。
ちなみに、王都ではダブルの料理人が超高級料理店を経営していて、時には王城で特別な催しが行われる際には招聘されたりするらしい。
後から聞いたところではルミーナさんは『料理人・戦士・裁縫師』のみっつのジョブを持っているそうだ。
「今日も美味しかったぞルミーナ。それとマモル、明日は仕事があるので一緒に行くことは出来ないが、明後日は午後から空いている。城から下がってきたら、私が城下にある図書館に案内させてもらおうと思う」
「図書館ですか?」
「レバトンの様に歴史のある町には、大なり小なり図書館を建てて住民の教育の役立てるよう国が法律を定めていてな、この町の東北地区にも立派な図書館が建てられているのだ。
そこに行けばこの大陸の歴史や、モンスターの情報にマモルが必要としているテイマーについて知ることができると思うぞ」
「それは是非行ってみたいです。テイマー持ちの人は少ないと聞いていたのでどうやって情報を集めたらいいのか悩んでいたんです。その図書館に行けば何とかなりそうですね」
「えぇそうですよ、図書館にはいろいろな本があってね、私も料理のレシピを調べるためによく利用しているんですよ。
はい、マギ茶をどうぞ」
食事が終わり後片付けをしていたルミーナさんが例の青いお茶をお盆に乗せて話に加わった。
「おっ、すまんな。
それで図書館だがルミーナの言うとおり、料理のレシピに始まりモンスターの情報が分類ごとにまとめられた図鑑や、春の大陸群の大まかな地図、そして歴史についての膨大な資料、当然ながらジョブについての研究がまとめられたものや単にジョブの名前や概要が書かれた辞典などもある。
入館にはすこしばかりの料金が取られるが、住民は無料で入れるようになっているのだ」
「明日買い物が終わって時間が有れば図書館に寄ってみるのはどうかしら、マモル殿はどのようなものをお買いになるかお決めになっていらっしゃるんですか?」
「そうですねぇ、とりあえず装備を充実させることを念頭にしていましたのでこれと言って考えてはいませんでしたが、先ずは防具それから回復薬や状態異常になった時のために治療薬、あとは細々した生活用品も揃えたいですね」
「つまりモンスターを相手にして生活していくために必要なもののほとんどすべてということだな。
……マモルがこれまでどのような生活をしてきたのか細かいところまで聞くつもりはないが、些か腑に落ちない部分があるのも事実、しかし我が家にいる限りは自分の家にいるつもりで生活しもらって構わんと思っている。ラヴィちゃんのことを私はそれだけ感謝しているのだ」
「いえこちらの方こそ感謝しています。今はまだ言えないこともありますけど……」
「マモル殿……いえマモルさん、いいんですよ。
こうして気持ちのよいお客様を我が家にお迎え出来ただけで私達には遠慮して頂く必要はありませんし、旦那様が申し上げたとおり気が済むまでこの家にいてください」
ふと視線を上げると、テーブルを挟んで向かいに座るバーバリン夫妻が温かい視線を僕に向けてくれていた。
まだ一日だけの間柄でしかないのにこうして接してくれるお二人に、僕には返す言葉を見つけることが出来なかった。
「よし、酒でも飲もうか。ルミーナ、この間キューセルから仕入れた酒があっただろう。アレを棚から出してくれ」
「あらあら、明日もお勤めがあるんですから控えめにおねがいしますね」
その夜のお酒は僕にはすこし強い物だったが、素敵な夜を彩るには十二分に素晴らしいものだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
一夜明けてカーライルさんは仕事へ行き、午前10時頃に僕はルミーナさんに案内されて南東地区を目指して表通りを歩いていた。
「うわぁ、賑やかですねぇ」
大通りは道幅が20メートルほど有り、両端が歩道で中央を馬車や大八車が通っている。
ちなみに馬車を引いているのはいろいろな種類のモンスターであって、テイマーがテイムしたものをモンスターショップが買取り販売しているモノだそうだ。
「マモルさんがレバトンに到着なさったのは夜の鐘の少し前だったでしょう。その時間は表通りを通る人が一番少なくなる時間で、朝の鐘がなる午前七時と正午の間になる今の時間帯は、一番人通りが多い時間になるんですよ。
港についた荷物をお店に運ぶ人足の人ですとか、北部地域の各町村に荷物を運ぶ荷車もあってすごい人出ですよね」
「それと町中でモンスターを連れてる人がいますけど、契約獣を町中で召喚することは許されてるんですか?」
「ええもちろんですよ。人間にとってモンスターは無くてはならない存在なので、ご覧になったとおり馬車などを牽いてくれる『キャバロ』、農耕に便利な『ランドワーム』、人間に空を飛ばせてくれる飛行モンスターたちなど、数え上げればキリがないくらい私達の生活に浸透していますよ」
10万の人口を抱える準交易都市レバトンにはこれと言って見るべき場所はないそうで娯楽もなければ祭りなどの催しも無いらしく、住人の楽しみといえば町を散策して知り合いと話しをするくらいだそうだ。
というわけでルミーナさんと一緒に歩いていると何人もの人が話し掛けてくるので、案内されたお店に着いたのは家を出てから2時間も経っていた。普通なら30分かからないらしい……
「ふぅ、やっと着きましたね。ここが私の知り合いのお店で『カリアン防具店』ですよ」
「カリアンという人がやっているお店ですか?」
「えぇ、店主はアイリーン・カリアンというんですけど。彼女はヒューマン族の女性で、お店では専属のドワーフ族の職人を何人も雇っていて北部地域では最大手の防具商なんですよ。
彼女と私は互いが小さい頃からの知り合いで仲良くさせてもらっているんです、でも忙しい人だからお店にいるかはわかりませんけどね」
カリアン防具店は南東地区の南大通り側にある大店で、昨日出かける前に訪れたギルドの近くにあった。
やはり防具という商品を扱っているからか、他の建物と同じ大理石のような建材で建てられているのに重厚さを感じさせる。歴史ある商家というのも頷ける、今も高そうな服を着た人が五人ほどのお供を引き連れて店の扉から中へと入っていった。
「あら、あの方は確か……先代の?」
「ルミーナさんどうかしましたか、お店に入らないんですか?」
僕が急かすとルミーナさんは頷き店の扉を開け中へと入った。
「いらっしゃいまし、カリアン防具店へようこそおいでくださいました。本日はどのような防具をお求めでございますか?」
お店に入って来た僕達に気付いた若い店員が声を掛けてきた。
店内の様子は外観から感じられる重厚感とは違い、照明とでも言うのかLEDの様な白色の明かりを発する何かが天井から吊るされていて、それらの明かりに照らされた防具が整然と並べられた様子は地球の洋服のお店とあまり違わなかった。
「こんにちわ、私の名前はルミーナと言うのだけれど今日はアイリーンはこちらにいるかしら?」
「……主のアイリーンでしたらこちらにおりますが、どのようなご用件でしょうか?」
「私は彼女のお友達なのよ、今日は私のお客さんをこちらにお連れしたんだけれど彼女がいるようなら紹介したいと、」
「これはバーバリン夫人、ようこそいらっしゃいましたのぅ」
こちらに気付いたのか若い店員の横から、丸いメガネを掛けた子供くらいの身長で黒髪黒目に口ひげを生やした老人が僕たちの前までやって来て頭を下げた。
「あら、よかったわモフモンさんがいたのね」
「はいはい、モフモンはこの店の表を任されておりますからいつでも店に居りますですよ。
こちらのお客様は私がお相手させて頂くから、君はもういいですよ。
それでバーバリン夫人、本日は屋敷の方ではなくこちらに見えられたのはまたどのようなご用件でございますかな?」
モフモンとルミーナさんに呼ばれた小柄な男性は若い店員に声を掛けて下がらせ、こちらに向き直ってしゃがれた声で言った。
「今日はお客さんをお連れしたのよ。それでできたらアイリーンにも紹介したかったのだけど……」
「申し訳ありませんが主はただ今他のお客様の応対中でしてな、とは言え幼馴染であるルミーナ様がいらしたのにそのままお帰ししては後から叱られてしまいますゆえ、ささ、どうぞ奥でお茶でも飲みながらお待ちくださいまし」
「そうね、挨拶くらいしていきたいしね。あっそうだわモフモンさん。こちらは当家に滞在して頂いているヒューマン族のマモルさんよ。
マモルさん、この人はこのお店の接客を任されているホビット族のモフモンさん」
「あ、初めまして。僕はマモル・サカタと申します」
ホビット族とか普通に紹介されて驚いたけどファンタジーだもんね。町中で獣耳のお婆さんとか背中に翼のある子どもが空き地で駆けまわっていたり、顔が熊にしか見えない親子連れなんかもいたから今更驚きませんよ。
ちゃんとお辞儀して挨拶をした。
「ご丁寧にどうも、『カリアン防具店』に勤めておりますモフモンでございますぞ。ルミーナ様とは幼い頃からのお付き合いでございましてな、バーバリン家と当家は家族同様のお付き合いをさせていただいております。
一先ず奥の個室へご案内致しますでな、こちらへついて来てくだされ」
店の奥には幾つかの部屋があり、その中の一つに僕たちは案内された。南側を向いた部屋の窓からは小さいながらも整えられた庭を見ることが出来た。
異世界の植生は地球とそれほど違うわけではないようだが窓の向こうの庭にはどう見ても『桜』なのだが花が青かったり、小ぶりで可憐なんだけど半透明なスズランがあったりと、どこか奇妙な感じだ。
「ルミーナさん、春の大陸(異世界についてのまとめ書きに記載)に季節ってあるんですか?」
「え、季節?そうねぇ、春の大陸群は基本的には一年中温暖だけど、ほんの少し寒くなったりほんの少し暖かくなったりするくらいで、季節として考えられてはいないですね。
他の大陸群でも夏の大陸は暑くて冬の大陸は雪が降るそうですし、そういう意味ではあまり特色がないように見える春の大陸だけれど、こちらの庭を見てみるとわかるでしょう?」
「……庭ですか」
「春の大陸では『耳で楽しみ 目で喜ぶ 鼻で楽しみ 舌で喜ぶ』こういう風に春の楽しみ方が表されるの。
この豊かな自然が春の大陸の特徴であり、大陸の住民の誇りなんですよ」
このほんのひとときの安らぎが、とても価値のあるものに思えた瞬間でした。




