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第4話

こんなところで、どうでしょう?

 僕達は異世界で初めて人間の生活する町『準交易都市レバトン』に到着した。

 

 川沿いに森を抜け最初に見えたのはうっすらと汚れの目立つ白い城壁だ。

 北の大地を二千年守ってきた『白き北壁』と謳われる扇の勾配が美しくも堅牢な作り。

 高さが10メートル以上あって北の大地を訪れた人は皆が圧倒されるそうで、さらに北を除く三方に設けられた城門には漆黒に塗られた鋼鉄の扉が町への歓迎を厳かに物語っているように感じた。

 レバトンは城壁が四方を囲んでいるのだが『ユーロン川』に面した北側の城壁の一部が切り取られたように開かれており、そこはこの町と港湾都市キューセルとをつなぐ川港として整備されていて土地の人はここを第4の門と呼んでいる。



「どうだマモル、レバトンに着いたぞ。

 これから私の家に向かおう、ラヴィのお礼をさせてもらいたいし、魔力欠乏を起こしているお前を放っておく訳にはいかないからな」


「もうだいぶ楽になりましたけど、よければ色々と聞きたいこともあるのでお邪魔させていただきます」


「うむ、妻のルミーナの料理は絶品ゆえ楽しみにしていろよ」


 レバトンの東側に面する城門では門番にギルドカードを身分証明として提示し、滞在目的や滞在期間を聞かれるなど現代で言う入管手続きが行われていた。この町の騎士団の副団長を務めているカーライルさんが一緒にいるとは言っても、やっぱり僕もギルドカードを提示してから門をくぐった。

 あとで聞いたんだけど、門番をしていた人は『番兵』というジョブを持っている人たちで顔を覚えるスキルを有しており指名手配されている犯罪者や頻繁に出入りする人間などを記憶し、怪しい人を見抜いたりするんだそうだ。

 この世界では職業に適したジョブを持つ人間でなければ就くことが出来ない仕事が多く、ジョブを中心にして人間の生活が営まれていることを改めて認識することになった。



 城門を抜け10分ほど歩くとレバトンの中心部に着いた。

 街中には僕にとっては普通の人間である『ヒューマン族』や、

 ツノや耳、しっぽ、体毛などに動物の特徴がある『獣人族』、

 エルフやドワーフ、ホビット、フェアリーなどがいる『精霊人族』、

 背中に翼を持つ『有翼人族』、

 など、正にファンタジーな面々が闊歩していてワクワクした。上記の他にも様々な人種の“人間”がこの世界では生活しているんだろうな。 



 この町はそれぞれの城門をつないだ道で4区画に分けられているんだけど、身分や職業に応じて住み分けが行われているだそうだ。

 僕達が今向かっているのは北西の区画で、そこは領主の館や練兵所などがあってその周りに騎士団や文官の家が集まっている。その中の一軒がカーライルさんのお家というわけだ。


「お~い、帰ったぞ!」


 カーライルさんの家はそれほど大きなものではないが鉄の柵で周りが囲まれていて、同じく鉄が格子状に組まれた門が設えられている西洋風のものだった。

 周りを見渡してみると近所の家は殆どが同じ作りで、不案内な人がどこかを訪れようとしてもまず目的地に着くのは難しいだろう。


「おかえりなさいませ、旦那様」


 門を開けて声をかけるとギシギシと扉が開き、大柄な一人の女性が僕達を出迎えた。


「ルミーナ、只今帰ったぞ。

 こちらは東の森で出会ったテイマーのマモルという。些か世話になってな屋敷に招かせてもらったのだ」


「まぁ、お客様でしたか。

 マモル殿というのですね、私はカーライル・バーバリンの妻でルミーナと申します」


 そう言って僕にお辞儀をした女性はカーライルさんと同族の巨人族と思われる。だって夫婦二人して身長が3メートルくらいあるのだ。

 町中で色々な種族の人達を見てかなり驚いていた僕だけど、驚きの連続でなんだか落ち着かない。

 ルミーナさんは三十代くらいで出るところの出た魅惑的な巨人だ。


「どうもはじめまして、テイマーをしているヒューマン族のマモルと申します。少しの間お世話になります」


「堅苦しいことのない家ですから、どうぞ遠慮なくお過ごしくださいね」


 この大柄なご婦人は、その大きな体が与える印象とは違い柔和な笑顔の優しそうな人だ。




◇◆◇◆◇◆◇◆



 騎士と一言に言ってもこのバーバリン家はレバトン家に召し抱えられているので、マール王家に仕える直臣とは違い領地があるわけではなくレバトン家から給金を貰い領内に家を貸し与えられている身分ということで、一応は貴族階級らしいのだが決して裕福な暮らしをしているわけではない。

 僕が今いるこの家も石造りの平屋建てで、部屋数もあまり多くない。

 しかし巨人族が住むだけあって廊下の幅やドアの高さ、家具のサイズなどが普通の倍はある。

 

「魔力欠乏気味とのことですから、こちらのマギ茶をお飲みになって一息ついてくださいな」


 居間に通され普通の人間サイズの椅子を用意してもらって席に着くと、ルミーナさんが青い色をしたなんとも怪しげなお茶(?)を出してくれた。


「少し苦いですけど魔力回復にはこれを飲んで一晩ゆっくりするのが一番ですよ」


「あ、ありがとうございます。いただきますね」


 青い……お茶かな?

 色については考えないことにして、慣れてみると癖になりそうな味だった。


「それで、旦那様。

 ……その右手にはめていらっしゃるモンスターリングはなんなのでしょうか?」


 急に話を振られたカーライルさんはビクッと巨体を震わせたが、別にやましいことはないと思うけど。


「ああ……、これはマモルにテイムしてもらった物なのだよ」


「ではモンスターリングなのですね?」


 剣呑な空気になってきたような。


「……そうだ、私がいつものように森のなかでラパンと戯れている時に偶然彼が行きあわせてな、それで頼んでテイムしてもらったのだ。このラヴィちゃんをな」


「ラヴィちゃん……ですか、つまりあなたは騎士でありながらラパンを愛でるという性癖を偶然マモル殿に目撃され、しかもテイマーであったのをこれ幸いと私に断りもなく契約したというのですね」


「これ幸いなどとは思っていないぞ!

 そ、それにラヴィを召喚するのも家の中だけにするつもりだ。外に指輪をつけていくこともないから、誰かにバレることもないだろう?」


「実際今もつけていますし、どうせ町の中でも付けたままだったのでしょう。それにマモル殿にいくらお支払いになったのですか?

 うちにはテイマ―の方へお支払いするような金子(きんす)はありませんでしょう」


 僕のせいでは無い気がするけど、客の前で夫婦喧嘩をしなくてもいいんじゃないかな。


「え~と、奥さん。お金のことでしたら、僕はカーライルさんに森で色々と助けてもらったのでそれでチャラってことでいいんですよ。それにこうしてこちらにお宅に招いていただけてますし」


「どうなのですか、あなた?」


 キッ、と効果音が付きそうな目で旦那さんを睨んでる。


「そ、そうだ、マモルはこの町を訪れるのは初めてなのだそうな、だから私が色々と教えてやれると思ってな。ついでにお礼と言っては何だが我が家を宿の代わりにでもしてもらおうとこうして招いたのだよ」


「そうですか、わかりました。

 お泊まりいただくのでしたら、私の『料理人』のジョブを発揮させていただくことしましょう」


「マモルにもお前の料理に期待していろと言っていたのだよ、バーバリン家自慢のルミーナ特製料理の数々を頼む。

 夕食の時間までマモルには客間で少し休んでてもらうからな」


 実際僕は慣れない長時間の移動で疲れきっていた。


「申し訳ないんですが、お言葉に甘えて休ませてもらいます。奥さんお茶ありがとうございました」


「構いませんよ、マモル殿は我が家のお客人ですもの。疲れていらっしゃるなら狭い部屋ですがお使いください、あなたはご案内して差し上げてくださいね。私はキッチンで夕食の支度が有りますので」


「……うむ任された」


 

 カーライルさんに案内された部屋には普通の人間サイズのテーブルセットとベット、そして装飾のないキャビネットがある。質素な作りだけど、いつでも来客を迎えられるようにとルミーナさんが掃除しているのかな?


「夕食の時間になったら呼びに来るゆえ、この部屋でゆっくりしてくれ」


「何から何までお世話になります」


「いや、礼を言うのは私のほうだ。とりあえずしっかりと休め」


 そう言ってカーライルさんは部屋を出て行った。だけどラパンと契約できたことがそんなに嬉しいのかな?

 夢の中で二人の言い争う声が聞こえた気がした……。




◇◆◇◆◇◆◇◆



 バーバリン家に泊めてもらった翌朝、時間としては大体午前十時くらいに僕はカーライルさんにギルドの場所を教えてもらい一人で南門の近くまで歩いて来た。


 歴史あるレバトンの町並みは商店や家屋が城壁の積石と同じような白い石で作られていて、地面の殆どの部分も同じように石畳で覆われている。そこには幾らか黒い染みや破損なども見られるが、それがまた長い歴史を証明しているようでこの街の魅力になっている。


 ギルドがあるのは南門を抜けてすぐの場所にあり、その周りには宿屋や大きな商店が建っていた。木製の扉を開き中を窺うと30人くらいの雑多な種族の男女がそこにはいた。

 動物の特徴が顔の作りや体毛に現れている『獣人族』

 背中に翼を持つ『有翼人』

 ドラゴンの血が流れると言われる『竜人族』

  ……などなど。


 僕はとりあえず何をどうすればよいのかわからなかったので、混雑した中を抜けカウンターがあると思われる方向へ向かった。


「すいません」


「はい、レバトンギルドへようこそ。どのようなご用件でしょうか?」


「この町のギルドに初めて来たんですが、この町で受けられる依頼について聞かせてもらえますか?」


 受付嬢さんはヒューマン族の女性で、二十代くらいのポニーテールにされた赤毛が映える褐色美人だった。


「畏まりました。それではギルドカードを出していただけますか?」


「え、ああ、わかりました」


《カードオープン》


 僕の右手に現れたカードを受け取った受付嬢さんは、僕のジョブがテイマーだということを確認したようだ。


「テイマーの方でしたか、テイマー向けの依頼書はギルドに入って右手の壁の掲示板にありますのでこちらの受付に依頼書をお持ちになってください。

 あと、現在この町には5人のテイマーしかいませんので依頼に事欠くことはないと思いますよ」


「そうですか、それじゃあ探してみますね」


 カウンターを離れ掲示板を見てみる。

 この世界の文字は基本的には一種類だけで、大抵の国では『ヴェンヌ文字』というものが使われている。

 僕はこちらの世界に来た時に神様に知識として与えられているので問題なく読めた。


「え~と、テイマーへの依頼はどこかな」



------------------------

【ご依頼:テイマー】


◎レッドスライムの指輪(モンスターリング)

 ・報酬:金貨3枚

 ・用途:観賞用

 ・依頼者:南東区 武器屋『ノースアロー店主ジジータ』


◎ブルースライムの指輪(モンスターリング)

 ・報酬:金貨3枚 

 ・用途:観賞用

 ・依頼者:北東区 廻船問屋『ノースリヴァー店主ケルトロ』


◎イエロースライムの指輪(モンスターリング)

 ・報酬:金貨5枚

 ・用途:観賞用

 ・依頼者:北東区 倉庫業『タッタリア店主アルトロ』


◎ホワイトスライムの指輪(モンスターリング)

 ・報酬:金貨10枚

 ・用途:観賞用

 ・依頼者:北西区『男爵ゾゾリア・ケーシュ』


◎ヴォルフの指輪(モンスターリング)

 ・報酬:銀貨30枚

 ・用途:愛玩(ペット)

 ・依頼者:南西区ジャックの長屋『ペトラ』


------------------------

 


 ……などなど。

 スライム多くね?なんでこんなにスライムなんて欲しがるだろう?

 あ、下の方に『テイマーの方へ』という紙が貼られてる。


【現在スライムのテイムを願う依頼が増えております。種類を問わずスライムをテイムされた方は、ギルドの方でモンスターショップに連絡を入れますので受付の方までご一報ください】


 そう言えばカーライルさんがレバトンでスライムが人気だって言ってたな。

 お金は神様にもらった金貨100枚がリュックに入っているので、クエストを受ける必要もないんだけど。

 でもテイマーのレベルをあげるためには『テイム』を成功させなくてはいけないんだよね。

 今のところ3匹のテイムに成功して、

 

 テイマーLv.1(Next 40/100)


 という状態だ。

 この数値は昨日考えたところ、ポチ(ヴォルフ)・ブーブ(グリーンスライム)の2匹で経験値を20手に入れて、スケさん(亜種ホワイトスライム)で経験値を20手に入れたんだと思う。

 ちなみに今の僕のジョブレベルで推測される魔力量は『テイム』を5回使うとぶっ倒れるらしい。

 魔力を消費するジョブを持つ人は、そのジョブのレベルが上がるに従い総魔力量が増えるそうで、魔力を消費しないジョブで例えば『戦士』などはレベルの上昇とともに身体能力が上昇するんだとか。

 あと、『戦士』はレベルが20まで上がると各種武器に特化したジョブに進化するんだってさ……。


 

「依頼をお受けにならないんですか?」


 結局今日は依頼を受けずに戦闘訓練のようなことをすることにした。できたらスライムをテイムするけどね。


「今日のところは遠慮しておきますよ。それで依頼にスライム関連のものが多かったんですけど、なにかあったんですか?」


「ええ、ここ一年ほどのことなのですが、この町のお年寄りの間でスライムが大人気なんです。大きさやツヤなんかを品評会っていう形で競い合ってるみたいなんですよね。

 参加者の方は隠居された貴族の方や商店の主だった人たちなんですけど、お年寄りって暇な時間が多いですしお金もちょっとは持っていますからね、趣味の範囲なので領主様としても取り締まることが出来ないんです。あんまりスライムが欲しいスライムが欲しいって依頼を出されるとギルドとしても困っちゃうんです」


「たかがスライムに金貨を出すくらいですもんね」


 相場はわからないけど、スライムをテイムするのはヴォルフをテイムするのに比べたら労力として見れば、凡そ半分くらいで済むんじゃないかな。

 だから、【モンスターリング:スライム】の値段を考えると銀貨10枚くらいの価値しか無いと思う。


【貨幣価値】

・白金貨1枚=金貨1000枚 

 金貨1枚=銀貨100枚 

 銀貨1枚=銅貨100枚


・金貨:10枚あれば庶民一家族が1年間楽に暮らせる

・銀貨:1枚で一般的な宿屋に一泊

・銅貨:10枚で1食分



「そのせいでテイマー持ちの方は皆スライムしかテイムしないんですよ!

 モンスターショップの人も他の街から仕入れるのはスライムが中心ですし、このギルドに集まる他の人の依頼がたまってたまって困っちゃいます!」


「そ、そうですか~。僕はいろいろな種類のモンスターをテイムしてみるつもりなんですけど、レバトン周辺のモンスターについて知らないので教えてもらえますか?」


「愚痴を言ってしまってすみません……。

 あ、それと私はヒューマン族のタニアと申します」


「僕もヒューマン族でテイマーのマモルっていいます。よろしくどうぞ」


「はい、よろしくお願いしますね。それでレバトン周辺のモンスターについてですが、マモルさんはテイマーを始めたばかりでレベルが1ということなので、まずは西門から出て『港湾都市キューセル』までの道沿いにある森を探索してみてはいかがでしょうか。

 この町とキューセルを結ぶ街道はきちんと整備されていますから迷ったりもしませんし、人の往来がありますので出てくるモンスターも少ないですけど、東側に比べれば危険性は格段に低くなります。

 出現するモンスターはヴォルフやラパンにスライムと、あまり出ないそうですけどコボルトがいます」


「コボルトとは戦ったことがないんですけど、僕一人で行っても大丈夫そうですかね?」


「え~と、マモルさんはお一人で行かれるんですよね?

 コボルトの強さを人間と比較するとコボルト1匹はヒューマン族の子供一人と言われていますから、剣を装備している男性なら3匹くらいを相手にしても問題にはならないと思いますよ」


「な~んだ、それなら大丈夫そうですね。でしたらこれから行ってみます」


「そうですか、ですけど用心を(おこた)らないようにしてくださいね。テイマーの方は貴重な存在ですのでギルドとしてもあまり危ないことをして欲しくはないので……」


「テイマー持ちの人間って少ないんですか?」


「ギルドに集まっている情報では十万人に一人とされていますね。戦士系のジョブは5人に1人、魔法系は100人に1人ですのでそれだけ希少価値のあるジョブとなります。

 モンスターの素材を集めるよりもモンスターをテイムした方がお金になりますのでパーティーを組んで活動するのが普通なんですよ、ソロで活動されるマモルさんはちょっと珍しいですね。

 それでは、お気をつけて」



 目指すは準交易都市レバトンと港湾都市キューセルを結ぶ街道沿いの森林地帯。

 今日はどんなモンスターとの出会いがあるのか楽しみだ。


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