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第2話:オッパイなスライムとそれぞれの嗜好

『拝啓 坂田守様

 この袋の中には金貨が100枚入ってます。このマール王国では金貨10枚で一家族が一年楽に暮らせるくらいの価値がありますので、生活の不安はなくなったと思います。

 そしてこれからどうしようと思っていることでしょう。

 先ずは東に進んで行けば川に突き当たります。そこを川沿いに下っていけば中規模の町に着きますので、そこでこれからのことを考えていけばいいと思いますよ。

 ちなみにその町は【マール王国・準交易都市レバトン】と言う名前です。

 人口はおよそ10万人、各種商店は揃っていますし初心者冒険者には丁度いい町だと思っています。

 最後になりましたが平穏無事な人生を送ることを期待していますよ』


 神様が去った後に残されていたのが金貨袋とこの短い手紙だ。

 手紙を閉じて足元に置かれた袋を持ち上げるとズシリと重い。

 金貨が100枚も入っていると5キロくらいはある。袋の口を開いてリュックの中に流し入れ手紙も一緒に入れておく。だけどお金はあっても水も食料も無い。神様もどうせならもう少し気を利かせてくれたらいいのに。

 しかも、町までどのくらいの距離なのかもわからないときた。

 こんなことを言ってても始まらないので、ポチと共に川を目指す。


 どうやら説明で聞いたとおりにポチ(ヴォルフ)はこちらの言うことを結構理解しているようだ。横を歩くように言えば従うし、後ろに気を付けろといえばチラチラと背後を気にしている様子も見える。

 今もモンスターに注意しろと言ったためか鼻をスンスン言わせ、耳を前へ後ろへピコピコ動かしている。

 


「ウォン!」


 しばらく歩いているとポチが声を出して僕の前へ出た。


「どうしたポチ、なにかいたのか?」


 ポチはこちらに向き直り頷くと前方の茂みに頭を動かし注意を促した。

 ジリジリと茂みの方へ近づくと、突然サッカーボールくらいの大きさの何かが僕らの前に飛び出してきた。


「こ、これは、スライムか?」

「ウォン!」


《観察眼》!!



------------------------

【ステータス】

 レベル:1(Next 5/100)

 名前:グリーンスライム

 性別:なし

 状態:健康


【スキル】

 なし

------------------------



 そのスライムは全身が緑色で、皮膚(?)の表面がポヨポヨと波打っている。

 目も口もないがこちらを見ているように感じるのは気のせいかな?

 とりあえず剣を抜きポチと一緒に近づく。

 スライムがこちらを伺っているのかどうかは分からないが、僕とポチが一歩ずつ進み剣が届くくらいにまで近づくとポチは前足で相手を小突き出した。


「ク~ン?」


 どうしよう?

 ポチがそう言ってるように感じるがそれは僕も同じ気持だ。倒していいのだろうか、と言うか倒せるのか?

 ポチの前足が触れるとポヨンポヨンと表面が揺れて、なんともそそられる質感だった。ついつい僕も手で触ってしまった。

 ひんやりとしていて、手触りはなんとも言えない柔らかさ。

 この感触はまるで、そう女性の豊かな双丘……オッパイ。

 ポチも気持ちいいのか鼻を押し付けているている。

 僕も負けじとムニュムニュと揉みしだく。

 気持ちえ~。


「決めた!!テイムしよう!!いや、するべきだ!!ポチもそう思うだろ?」


「ウォンウォン!!」


 一人と一匹のオスは完全に意思疎通している。


《テイム》!!


 結果として拍子抜けするほど簡単にテイムに成功した。ポチの時とは違ってボールの反応はゆっくりとした光の点滅だけでボールが動き回ることもなく、グリーンスライムは指輪(モンスターリング)に変わった

 モンスターリングの階級はポチと同じ『鉄』で、この子の名前は「ブーブ」とした。確かオッパイを英語でそんな風に言ったよね?

 

 召喚してからは僕が腕に抱えて、神様に教えてもらった準交易都市レバトンという町へ向けて歩いている。だってオッパイを揉みながら歩いているみたいで気持ちいいんだよ、これが。

 スライムがどういう生態系を為しているのか知らないけど、僕はこの子に戦闘させるつもりはない。何よりブーブは口も目もないので、こちらが声をかけてもただただポニョポニョ動くだけなのだ。

 惜しむらくはブーブがグリーンじゃなくて肌色だったらな~、なんて考えたりもしていた。




◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらくの間ブーブのオッパイ肌を楽しみながら森を歩いていると、ポチがまた「ウォン」と鳴いて前方に注意を向けている。

 先ほどの経験から慎重になっている僕は左腰の剣の柄に右手を添えて、左手でブーブを揉みながらポチが注意をしている方向を用心しながら窺った。


 鬱蒼とした茂みの向こう側には豚のような大きさの兎3匹が地面に横たわる一人の大柄な男性を、まるで体育館の裏で男の子をいじめているように小突いているという目を疑うような光景だった。

 とりあえず豚ウサギ3匹の中の1匹のステータスを確認する。


《観察眼》!!



------------------------

【ステータス】

 レベル:3(Next 15/300)

 名前:ラパン

 性別:♀

 状態:怒り


【スキル】

 なし

------------------------ 

   


 男性が何かをしてラパンを怒らせたせいでこの状態にあるっていうことかな。

 でも襲われてる人には逃げ出そうとしている気配も無く、チラリと見えるその顔はなんだか笑顔だった様に見えた……。


「ウォン~?」


 いつのまにか僕の横に戻ってきていたポチも困惑しているのか思案顔だ。

 さて、どうするか。

 放っておきたいっていうのが一番素直な気持ちだし、助けが必要には見えないのに声を掛けるのもどうなんだろう?

 男性の装備は頑丈そうな皮の鎧で、少し離れたところに長剣と幅広の盾が放り出されている。

 見た感じで推理すると、『なにかモンスターを狩りに来た戦士が、油断したために装備を手放してしまい、ラパンの攻撃に遭う』と言う感じの展開なのかな?若干の違和感(いわかん)は感じるけども、しかしよく見るとかなり大柄な男性だ。



 徐々に近づくにつれていじめられている男性の声が……聞こえてきた。


「もふもふぅ〜、くんかくんか……、はぁはぁ」


 ……。


「うさタンかわひぃゆぉ~~~~」


 …………。


「き、気をや……りそどゥぁ~」


 ………………。


 ポチは前足で耳を塞ぎ頭を地面につけ、心なしかブーブは震えている。僕はジリジリと後ずさる。

 あれは変態か良心的に解釈するなら動物が大好きな好人物?

 でも僕にとってはあの人は第一異世界人だしできることなら話を聞いてみたい。

 ということで声を掛けてみるか。

 

「あの~、すいません」


 僕はラパンと戯れていて(?)こちらに背を向けている男性を、真っ当な現実世界に呼び戻そうと声をかけた。


「うさタ……」 チラッ


「え~と、大丈夫ですか?モンスターに襲われているようなら手伝いますよ」


 ラパンは僕のことに気付いているんだろうけど、こちらに攻撃を仕掛けるわけでもなく男性を小突いている。


「……」チラチラッ


「ウォン?」「……?」プニプニ


 この場を占めているのは首を傾げるポチと困惑する僕、そして揉まれるブーブ。さらに男性を小突くラパン3匹、こちらに気付いているであろう身じろぎもしなくなった(くだん)の男性。

 静寂に耐えられなくなったのかラパンを手で優しく払い除け、男性はこちらに振り返った。

 この人は僕が異世界に来て初めて会った普通(僕にとっての)の人間とは違う人間だった。

 


「ウォッッほん!」パンパンッ


 男性はひとつ大きな咳払いをして、体に付いていた泥を払って立ち上がり僕達の方へと歩み寄ってきた。正直に言って変態にはできるだけ近づきたくないのだが、正気に戻ったこの人は一廉の戦士と思わせるだけの気配を漂わせていて足元に伏せていたポチも警戒しだした。ブーブは特に変化は見せないけど。

 しかも身長が高い。167センチの僕が限界まで見上げる必要が有るほどだ、凡そ3メートル近い。


「……あ、はじめまして。僕はマモルと言いましてレバトンに向かっているところです」


「ん、うむ。私は準交易都市レバトン領主、リンダ・エメノイア・レバトン伯爵が家臣にしてレバトン騎士団副団長の一人、巨人族カーライル・バーバリンと申す」


 目的地であるレバトンの領主の家臣の方だったのか。貴族って言うことになるのかな?

 まあ、だとしてもこの人の先ほどまでの行動がすごく気になるんだけど。


「巨人族……ですか。どおりで大きいはずですね、もう首が痛くなってきましたよ」


「ハッハッハ、君は見たところヒューマン族のようだが巨人族を見たのは初めてかな?」


 こっちに来てから見るもの全てが初めてです。

 

「はい。さっきもカーライルさんはもっと遠くにいるのかと錯覚したくらいですよ」


「んっ!そ、そうか、ちなみに君は先ほどの私の行動を見ていたのかね?」


「ラパンが怒りながらガシガシとあなたを小突いているのに、それを楽しんでいるのは見ていましたよ?」


 やはり人には見せたくない場面だったんだろう、僕の返事を聞いたカーライルさんは額にうっすらと汗をかきオロオロし始めた。


「せっかく誰にも見つからないようにこんな森の奥まで来たのに……ついに見つかってしまった。お終いだ、これで町の皆にも知られてしまう。そして早晩リンダ様のお耳に届くことになる。

 ……こうなっては腹を切るのみ!」


 でかい図体に関係なくこの人は生真面目というかなんと言うか、めんどくさい。


「ど、どうしたんですか?腹を切るなんて物騒なこと言わないでくださいよ。誰にも言いませんから、大の男が兎を好きだっていいじゃないですか。」


「何を申される!私は腐っても騎士である!にも関わらず、休日にはこうして森の奥まで来てラパンたちを弄くり倒すことで恍惚としてしまう様な楽しみを続けてしまう、どうにも止められんのだ。

 我ら巨人族はラパンのような軟弱なモンスターではなく、動物系モンスターと契約することを習慣とし『ファルコンイーグル』や『クレセントベア』、君が契約しているような犬系モンスターを契約している者が多いのだ。

 だが私はどうにもそれらのような見た目の怖いモンスターを好きになれんのだ。ラパンのようなつぶらな瞳、フガフガと鳴らす鼻、モフモフの毛、ピョンピョンと跳ねるその姿!!!!!

 こうした可愛らしいモンスターが好きで好きでたまらんのだぁ~!!」

 

 バッ!!ヒシッ!!


 わかったからいきなりラパンに飛びつかないでくださいよ。

 なんだか僕が悪いことをしているみたいだ。


「そ、そうですか。

 それがどの程度大変なことなのか僕にはよくわからないですけど、とりあえず落ち着いてくださいよ」


「あ、ああすまない。ラパンを目にするとついつい我を忘れてしまってな」


「でもラパンってモンスターですよね、そんな風に抱きついたりして攻撃されたりしないんですか?」


「ん、知らんのか?

 ラパンは攻撃と言ってもこのように「ゲシッ!」軽い頭突きや、「バンバンッ!」前足で叩いてくるだけでそれほど効果的な攻撃を相手に行ってくるモンスターではないのだ。

 そのせいでラパンはテイムされたとしても、契約するためにモンスターリングを購入するのは幼い子供や女人のみでな、いくら私がこの子たちを愛していたとしてもモンスターショップで購入するわけにはいかんのだ」


「確かにラパンをテイムしてもあまり役に立ちそうにないですもんね。ですけど、それならギルドのテイマーへ密かにテイムしてくれるように依頼を出せばいいんじゃないですか?」


「……そんなことができると思うか?

 私は(いやしく)も人の上に立つ責任ある立場であり、頑健にして勇猛なる巨人族の戦士でもあるのだ、それがギルドに対してラパンをテイムしてくれなどと依頼ができるか!

 一体何のためにラパンなんてモンスターを契約するのだと勘繰ってくる者が必ず出てくる。そうなっては先祖代々仕えてきた主家に対しても迷惑をかけることになりかねん!」


 人それぞれ色々なしがらみの中で折り合いをつけながら生きていかないといけないんだよ巨人さん。どっちにしろ僕には関係ないみたいだし、そろそろ邪魔者は消えることにしますよ。


「そうですか、それじゃあ僕はこの辺で失礼します。これからレバトンに行くつもりなので先を急いでいるんでした、ハハハッ……」


「む、そうか。まだ昼を過ぎた頃だと思うがな、急がれるならばこのまま進めば川に出る。そのまま下っていけばレバトンに着けるゆえ行かれるがいい。だが、この場で見たことは誰にも言ってはならんぞ。もしどこかで露見した時は町を離れようと、国を離れようと、大陸を離れようとも必ず見つけ出すゆえ……覚悟せいよ。

 ところで、君のジョブは何かな?

 見た限りでは普通の服だけで装備といえばショートソード一本だけのようだが、契約獣を連れていてもヴォルフとスライムでは激しい戦闘には向くまい?」


「ジョブですか、僕はテイマーですよ」


「そうかテイマーであったか。ならば森のなかにいるのも頷けるな、最近レバトンではスライムを契約獣にすることが流行っているという。なんでもスライムの肌触りが軟弱な貴族や商人の間で珍重されているらしいぞ。数日前の新聞にも「ホワイトスライムが品評会で優勝」という記事が出ていたし……え?

 き、君はテイマーなのか?」


 身長三メートルの巨人に僕の頭ほどもある手で肩を掴まれ、そのまま相手の目線の高さまで釣り上げられた。

 めっちゃ怖い。


「そ、そうです。私がテイマーですゥ」


 喉をつまらせながら僕が答えると、カーライルさんは僕を掴んでいた手を離してくれたんだけど、一メートル位の高さから落とされるのは結構痛い。


「す、すまん。君は確かマモルという名だったな、どうだろうか我が愛しのうさぎタンをテイムしてもらえまいか?

 もちろん料金も払うし、これからレバトンに向かうということなら町で便宜を払うこともできるのだが、どうか?」


 地面に下ろした僕に対してカーライルさんは膝をついて懇願してきた。膝をついても顔は僕と殆ど変わらない位置にあるけどね。

 これは悩むほどのことでもないと思う。お金は神様に貰っているから必要ないけど、今向かっているレバトンについて僕は何も知らないし、この国についてもこの人に色々と教えてもらうのは渡りに船ってものだろう。


「無事に成功するかはわかりませんけど、僕はかまいませんよ。だけど、騎士団副団長が契約獣としてラパンを従えているっていうのは外聞が悪いんじゃないですかね?」


「な~に、ラパンを召喚するのは家の中だけにするから大丈夫さ。それに妻には私の趣味がバレているから問題ない……」


「わかりました。それじゃあテイムしますけどどの個体にしますか?それともここにいるラパンをみんなテイムしますか?」


 いま僕達の前には3匹のラパンがいて、今もカーライルさんを前足でバシバシ叩いているのと、その後ろで性春を謳歌している2匹だ。

 後方の2匹は当然ながらオスとメスで、残りの1匹がメスのラパンになる。

 このメスのラパンが3匹の中で一番大きな体をしていて、他はレベル2なのにこいつだけはレベル3になっている。


「僕のオススメとしては目の前にいるこの子ですね、レベル3のメスになります。後ろのあいつらは放っておきましょう。恋路を邪魔する訳にはいかないですからね」


「1匹で十分だ、私の家はそれほど広くないから3匹もいられてはさすがに妻に離縁されてしまう。

 それではこの子のテイムをお願いする」


「了解です、カーライルさんは少し下がっていてください。大体テイムするためには少しはダメージを与え無いといけないんですけど、どうやらこのラパンはカーライルさんに弄ばれたせいで体力を消耗しているみたいですので、これならこのままテイムを使っても問題無さそうです」


 僕はカーライルさんとラパンとの距離が十分に離れたのを確認して、テイムボールを相手に向かって投げる。


《テイム》


 やはり僕の推測は当たっていたのかブーブの時と同じくらいあっさりとラパンは『鉄の指輪』へとその姿を変えた。


「さあカーライルさん、契約を済ませてください」


「おお~、見事に一度でテイムに成功したな。そしてこれが私のうさタンの指輪(モンスターリング)か」


 

 その後カーライルさんはラパンに『ラヴィ』と名付けた。

 安直な名前ではあるが僕がテイムしたモンスターを本当に大事そうにしているのを見るのは、とても嬉しかった。

 大事そうにしていると言っても、成長した豚ほどもあるウサギを両手で抱えてニコニコしている3メートルはあろうかという男性を見るのはなんともシュールな感じだ。

 


 「どうしても我が家でお礼をさせてくれ」と言われたので、僕は喜んで招待に預かることにした。

 このまま二人でレバトンへ向けて歩き出す。


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