表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ショート・ショート(ファンタジー)

サラマンダー

作者: 横山ヒロト

 彼の国の南方に(そび)え立つ、天を突くほどの霊峰。

 とても険しいその巨大な山には無数の凶暴な獣達が跋扈(ばっこ)していた。そして、その頂上には開闢(かいびゃく)以来、人間の進行を阻み続けてきた巨大で凶悪な怪物が君臨していたのだ。

 しかし、人間達は子を産み、その絶対数を増やし、武器を揃え、遂には巨大な戦力を抱えるまでに至った。

 そして、今日。人間達は立ち上がった。千を超える軍隊を作り上げ、霊峰へと挑む。天から見下ろせば蟻の行列程度の集団は、しかし確かに道を切り開いていった。

 道中で出くわす猛獣達を撥ね退け、少しずつ数を減らしながらも、上へ上へと昇ってゆく。

 それでも、彼等はようやく頂上付近まで上りつめた。数はかなり減っており、皆等しく疲弊していた。

 そこに待ちうけていたのは長きに渡り人間の進行を妨げてきた巨大な怪物。

 鉄を弾く固い鱗に覆われた巨躯、鎌のように鋭い爪と槍のように尖った牙が光る(あぎと)。巨大な爬虫類を思わせるその禍々しい姿は、人間達に圧倒的な恐怖を与える。

 火竜(サラマンダー)

 そう呼ばれる怪物は、大軍で押し寄せた人間達を遥か高みから見下ろすように起き上がった。

「全体突撃! 恐れるな、数の利はこちらにあるぞ!」

 隊長と思しき男が(とき)の声をあげる。

 鎧を纏い、武器を手に持った兵士達は、己を鼓舞するように声をあげ、武器を構えて次々に突進していく。

 緩慢な動きを見せていた火竜はしかし、押し寄せる敵意に反応するように、急に俊敏な動きを見せる。

 数十人の重装兵をその長い尻尾でゴミを払うように吹き飛ばし、次いで口から業火を吐き出すと、兵士達が纏う鉄の鎧など灼熱の業火の前には、まるで紙で出来た玩具に等しかった。

「隊列を崩すな! 休まず攻めるのだ!」

 隊長は一瞬にして怯んだ兵士達を怒鳴りつける。

 兵士達はどうにか克己(こっき)(しん)を燃やし、束になって向かってゆく。

 火竜は絶大な攻撃力を持っていたが、それでも数百の部隊である人兵士達は、その巨躯の懐に飛び込み、少しずつだが確実にダメージを与えていった。

 しかし、火竜は暴れ狂い、次々と兵士の数を減らしていく。

 焦る隊長はさらに大きな声を張り上げ、次から次へと兵士達を特攻させていった。

 火竜が爪や尻尾を振う度に、業火を吐く度に、兵士達は一気にその数を減らしていく。

 それでも国の希望を背負った兵士達は、戦いぬき――――――

 ついには、火竜を倒すに至った。

 生き残りをざっと見渡すと、千を超えていた巨大な部隊はもはや数えるほどしか残っていなかった。

 本当にギリギリの勝利だったのだ。

 しかし、これでこの山を切り開き、勢力拡大する事が出来る、と生き残った兵士達――何より、全てを任された隊長は歓喜に沸いた。

 早速、今まで見る事も叶わなかった霊峰の向こう側の世界を見ようと、彼等は鉛のように重い脚を動かし、(いただき)に立った。

 これで全ての苦労が報われる――と思った彼らの表情はしかし、そこで凍りついた。

 その先では無数の黒い塊がうごめいていた。

 おそらく、この火竜を恐れ、霊峰の向こう側で息を潜めていたのであろう、恐ろしき怪物達が――――――。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ