赤ずきん少女と、浦島太郎には夢がある【11】
ようやく学校内にたどり着いたセレアはシンデレラとともに土足のまま、まずはロッカールームに向かいました。
廊下にずらりとロッカーは並んでおり、一人一人の名前が付けられていました。
セレアは首を傾げました。
「こんなに物語の主人公って総出演するのかしら?」
シンデレラはぽつりと言います。
「まぁ主人公といえどもこの物語の中ではただの脇役に過ぎないから、通りすがりABCくらいなものじゃない?」
セレアはきょとんとした顔でシンデレラを見つめました。
「……私、一応主人公なんですけど」
シンデレラはお手上げして言います。
「どうかしら? あなたが主人公なら私も主人公であるべきね。同じ主人公として」
この時になってようやくセレアは何かに気づきました。
「あなたの出番多くない?」
「そうみたいね。少なくとも脇役ではないと思っているわ」
「何よ、それ──!」
「あなたのロッカーはそこよ」
ロッカーを指差して、シンデレラは言いました。
言われてセレアは足を止め、自分のロッカーへと目を向けました。
目を点にします。
「なにこれ」
ロッカーには名前の下に、二つ名が貼られていました。
――『赤の貴公女』
「ぶっ!」
セレアは思わず噴き出しました。
「なにこれ。ちょーウケるんですけどー」
言って、隣のシンデレラに意見を求めます。
「見てちょっとこれ……」
セレアは笑いを止めて真顔になりました。
「……」
シンデレラの顔が衝撃を受けたように固まっています。
「どうしたの?」
シンデレラは自分のロッカーに貼られた二つ名を読み上げました。
「……『妖艶の魔女』より」
「二つ名というより手紙の文末になってない? それ」
「あの方だわ。私の灰色の人生を変えてくれた紫のバラの人」
「誰それ」
シンデレラは急いで自分のロッカーを開けて、中身を確認しました。
そして確信へと変わります。
シンデレラは涙を流して喜びました。
「やっぱりあの人からだわ」
「いや、だから誰なの? それ」
「あれは私が幼い頃、夜中にその人は現れて、私に素敵な外の世界への道を作ってくださった人よ。正体を確かめようと玄関まで行ったのだけれど、その人は車のヘッドライトの光で顔がよく見えなくて、でも床に映った影がすごく足が長くて──」
「それ、『あしながおじさん』の話だよね? シンデレラの話じゃないよね? 魔法使い設定どこいったの?」
シンデレラは首を横に振ります。
「そんなことどうでもいいわ」
「よくないわよ。『あしながおじさん』の主人公、絶対この学校来てるから」
シンデレラはロッカーにすがりつき、頬を寄せます。
「紫のバラの人へ。新年あけましておめでとうございます。私は憧れの王子様と結婚できて今とても幸せに暮らしています」
「なにその年賀状コメント。ラストを放り捨ててきた主人公が何を言っているの?」
「あなたも自分のロッカーを開けてみたらどうなの?」
言われてセレアは自分のロッカーを開けてみることにしました。
――すると、どうでしょう!
ロッカーの中に全身白タイツの男が居るではありませんか!
「意味わかんないから!」
セレアは思いっきりロッカーの扉を閉めました。
突然背後から浦島太郎の鼻歌が聞こえてきます。
セレアは振り向きました。
「なんであんたが今頃──!」
浦島太郎はセレアの後ろを素通りし、そしてシンデレラの横に並び二人で両手を広げてポーズを決めます。
「「はい!」」
「……」
セレアの前でポーズを決めたまま、しばらく二人は固まりました。
セレアはぽつりと言います。
「……何がしたいの?」
シンデレラと浦島太郎は明るく笑って言いました。
「「新年あけましておめでとうございます!」」
セレアはぽつりと言いました。
「あけおめってこれ、もう一月七日なんですけど……」