美少女戦士赤ずきん少女と戦闘狂戦士シンデレラ。YES、二人はプリティ・スター【9】
――セレアが校門を抜けたその時でした。
「滅びろ、イケメン」
いきなり背後から、女子高生の制服に身を包んだシンデレラが長剣を振り下ろしてきました。
セレアは寸でのところでその長剣を避けました。
「っぶないわね! 何するのよ、いきなり!」
シンデレラが真顔でぽつりと言いいます。
「イケメンは滅びるべきだと思わない?」
「いや、意味わかんないから」
セレアは半笑いのまま片手を振りました。
シンデレアがセレアに言います。
「イケメンであることはけして悪いことではないの。むしろ自分磨きという努力の成果が報われているからこそ彼らは輝いているだけなのよ」
セレアはどうでもよく頬をかいて言葉を受け流しました。
「あーうん。で?」
「私は魔法で美を手に入れたわ。一夜だけでも蝶のように美しくなれたのよ。おかげで王子様は私の魅力に速攻ノックダウン」
「だから、何?」
「それなのに十二時の鐘が鳴ったあの時、どうして王子様は私の靴だけを拾って、追うのを諦めたと思う?」
「それは……まぁあれでしょ? 靴だけ残されていたからとりあえず拾っとこーみたいな」
「やめて。まるで私が靴を落としたドジっ子キャラのように聞こえるじゃない」
「落としたのは靴だけでしょ? 何が不満なの? 結局、靴を手がかりに街中駆け回ってあなたを見つけ出したわけだし──」
「見つけ出せていたら、私は今頃こんなところには居ないわ」
「ちょっと待って」
セレアは一旦話を止めました。そして額に人差し指を当てて『シンデレラ』という物語をもう一度思い返してみました。
ガラスの靴を手に王子様と城の前で記念写真を撮るシンデレラの姿まで思い返したところで、セレアは話を続けました。
「なんであんた、こんなところに居るの?」
シンデレラが落ち着いた様子で長剣を腰の鞘に納めながら言います。
「考えてごらんなさい、セレア。ガラスの靴なんて貴族女性なら誰でも持っている靴なのよ。その靴を手がかりに従者に命じて一人一人の家を探して回るって、どれだけ町に人が住んでいると思うの?」
「だから、王子様はあの時必死でシンデレラを捜したんだろうなーと思うわよ。――あれ? そう考えるとシンデレラの苦労話というよりも、むしろ王子様のプロジェクトX的な物語に見えてくるわね。
まぁドラマチックでいいじゃない。それであなたを見つけ出した時の感動が──」
「私を見つけ出せたら、の話でしょ?」
「え?」
「だって私は今、ここにいるのよ」
「ちょっとぉぉぉぉ!」
叫びツッコむセレアをよそに、シンデレラは涼しげな顔で言いました。
「今頃きっと、従者は過労で倒れているでしょうね」
「なんでそんな悪戯仕込んだの!? ラストに主人公が居ないってどんだけ!? なんで主役らしくお家に待機ができないの!?」
「もし王子様がここにいる私を見つけ出せないのなら、その時はあの夜のように再び王子様を襲撃すればいいだけの話。
――そう。二度とこの顔を忘れさせない為の、思い出の十二時に」
「怖いから! そんなインパクトのつけ方、王子様にとってすごく迷惑だから!」
「それはそうと、セレア」
シンデレラが話題を変えてきました。
セレアは警戒します。
「な、何よ」
「私も白雪姫にこの学校に来るよう呼び出されたの。それが何を意味するか、あなたにわかる?」
ピンときたセレアは真顔になりました。膨らみの少ない胸に手を当てます。
「巨乳……」
「あなたにとってはそうかもしれない。でも私は違う」
「お願い、そこはサラリと流さないで。けっこう傷つくから」
セレアは顔を手で覆って泣きました。
なぐさめることなく、シンデレラは淡々と話を続けます。
「今までの話を通して、一つだけ気付いたことがあるの」
「え? 今までの話? 伏線か何かあったかしら?」
セレアは首を傾げました。
シンデレラがフッと鼻で笑い飛ばします。
「伏線なんてどうでもいいわ。この物語はグダグダが命だから。
それよりも私が気になったことはただ一つ。白雪姫と私。初登場時、二人の王子様は共通だったってことよ。それが何を意味するか、あなたにわかるかしら?」
「それって……!」
セレアはこの物語の真相にようやく気付いてハッと口を手で覆いました。
もしやこれは、表面上ほのぼの学園編として物語を進め、その実、裏ではシンデレラVS白雪姫の愛の復讐劇が繰り広げられる。私はその脇役として──
「そういうわけで、セレア」
シンデレラがいきなり、セレアに手を差し伸べてきます。
セレアは警戒しました。
「な、何?」
「舞台はせっかくの学園編よ。一緒にイケメンを滅ぼしましょう」
「まったくもって意味がわかんないから!」