赤ずきん少女と、とびっこ競争【18】
むかーしむかしのそのむかし、ノミと、バッタと、カエルとが、誰が高く飛べるかということで自慢し合いました。
ノミは言いました。
「僕が一番高く飛べるに決まっている」
バッタは言いました。
「いやいや、僕のほうが一番高く飛べるに決まっている」
カエルも負けじと言いました。
「いいや、君たちよりも僕のほうが一番高く飛べるに決まっている」
「いや、僕だ」
「僕だよ」
「絶対僕だ」
言い出したらキリがありません。
すると、バッタが言いました。
「それなら誰が一番高く飛べるのか、とびっこ競争をしようじゃないか」
ノミは言いました。
「どうせなら、大勢の人を呼んで見てもらったほうがいい」
「あぁいいとも」
「やろうやろう」
ノミの言葉に、カエルもバッタも賛成しました。
やがてこの話は王様の耳にまで届きました。
「よし、わしも見にいくとしよう」
王様が来るようになったもんだから、さぁたいへん。
とびっこ競争はまたたく間に有名になってしまいました。
そして、とびっこ競争の当日。
広場には大勢の人たちが──
◆
シンデレラはセレアを連れ、無駄にゴージャスな扉を押し開きました。
すると、そこには──
「……あら」
「見事に誰も居ないわね」
誰も居ない体育館の風景が広がっていました。
シンデレラは言いました。
「普通、全校集会といえば体育館じゃない?」
「運動場でしょ?」
と、セレアは言いました。
「そうかしら?」
シンデレラは首を傾げて言いました。
するとフンドシ男がやってきて二人に言いました。
「どうやら他のメンバーは皆どこかでノックアウトしてしまったようだ。つまり選抜メンバーは、俺と、君たち二人、そして──」
フンドシ男は後ろを振り返りました。
アリスとマナを数に入れようとしたのですが、
「このサンドイッチすごくおいしいです。今度作り方教えてください」
「マナちゃんの編んだマフラーもすごく素敵よ」
きゃっきゃうふふの世界の中で、二人はとても幸せそうでした。
フンドシ男は振り返り、改めてシンデレラとセレアに言いました。
「どうやら彼女たちはこの選抜に興味はないようだ。そうなるとメンバーは、俺と、君たち二人ということに──」
「ちょっと待って」
セレアがフンドシ男の言葉を止めました。
「今までたくさん居たじゃない。わいわいがやがやしていたでしょ? そんなのおかしいわよ」
「そうよ。セレアの言う通りよ。他の人たちもここへ呼びなさいよ」
シンデレラもセレアの言葉に賛成でした。
フンドシ男は言いました。
「残念ながら他の人たちは居ない。みんな脱落者だ。16話で赤ずきんの少女に一掃されてしまったんだ」
「あ」
セレアは思い出しました。
「あら、じゃぁあの時……。そういうことだったのね」
シンデレラも納得しました。
フンドシ男がセレアを誉めます。
「さすがは主人公。この物語の主役を張るだけの実力はあるようだ」
「ってか、誉められても嬉しくないし。何言われようと、話がどう転ぼうと、私がこの物語の主人公なんですけど」
「ちょっと待って。それは聞き捨てならないわね」
今度はシンデレラがセレアの言葉を止めました。
シンデレラは言います。
「私こそがこの物語に相応しい主人公よ。あなたなんかにこの物語のエンディングを飾られてたまるもんですか」
その言葉にカチンときたセレアは、負けじと言い返しました。
「何を今更。この物語の主人公は私だから。これは私の物語なんだから」
シンデレラは鼻で笑います。
「お色気も萌えもない、ただのガサツでツッコミだけしかできないヒロインに誰が納得するというの? 次の第四弾は私が主人公としてやらせてもらうわ。
物語の中身はこうよ。もちろん王子様との素敵な恋物語。騎士様と王子様に同時に告白されて、その間で揺れ動く乙女心。そして、あぁ……。最後は物語をバラ色に染めるのよ」
「もしもーし。夜の十二時の魔法とガラスの靴と灰かぶりな貧乏設定どこに行ったのー? たしかあなたの物語って、王子様のプロジェクトXの話だったわよね?」
「それは私に対する嫉妬かしら? 次回第四弾はファンタジー要素もコメディー要素もぶっ飛ばして私が恋愛要素でまとめてあげるわ。
──フン。もちろんあなたは、わ・き・や・く・としての登場だけど」
「言ってくれるじゃない!」
セレアはだんだんと地団駄を踏んで怒りました。
そして言葉を続けます。
「だったらどっちが主人公に相応しいか勝負してあげようじゃないの! 今ここで!」
そんな時でした。
どこからか女の高笑いが聞こえてきます。
セレアは声主の姿を捜しました。
「この声――!? どこに居るの!?」
するとどうでしょう!
体育館の床が塔を築くかのごとく、螺旋状に上がっていくではありませんか!
「な、何!? なんなのこの仕掛け! 年末の紅白歌合戦もビックリの仕掛けなんですけど!」
「やっと出てきたわね」
シンデレラは好戦的に微笑みました。
セレアはシンデレラに言いました。
「知ってたの!?」
「もちろんよ。気付いたのよ、17話で。──いいえ。気付くべきだったのよ。あなたも私も。
この物語の裏の首謀者。壮大なる仕掛け人にして物語史上、最強最悪の脇役主人公! 例のあの子のことをね!」
「あの子って、もしかして!?」
セレアはようやく気付きました。
そして築かれた塔の頂点に、仁王立ち姿でお嬢様高笑いをする一人の少女の姿。
セレアはその人物に指を向けて叫びました。
「まさか全部あんたの仕業だったわけ!? 白雪姫!」
「おーっほっほ。おおーっほっほ」
白雪姫はとても楽しそうに高笑いをしていました。
「なんか腹立つわね」
「蹴落としてやろうかしら」
セレアとシンデレラはぼそりと呟きました。
すると白雪姫は高笑いを止めて、豊満な胸を自慢そうに揺らし、セレアとシンデレラを見下して言います。
「この私こそが、この物語に相応しい主人公なんだから。魅惑のボディー、整った顔立ち、七人の小人とのハーレム、そして王子様との目覚めのキス」
「うっ!」
「ぐっ!」
シンデレラとセレアは痛いところを突かれて、心にダメージを受けました。
白雪姫は言葉を続けます。
「あなた達にこの物語の主人公は無理なのよ。私にはそれが充分に整っている。
私こそがこの物語に相応しき主人公。第四弾の主役は私で決まりなのよ!」
シンデレラとセレアは、心に重いダメージを受けたまま苦しそうな表情で言いました。
「あ、あなた……」
「やっぱりね。最初からこれが目的だったのよ。私たちライバルをここで消すことが──」
「そうよ! あなた達二人の存在が邪魔だったの! この物語の主人公は私がやるべきなの! ヒロインとしての魅力を全て兼ねそろえた私がやるべきことなの! 私こそが、主人公として相応しい主人公よ! それなのに何よ! あなた達二人なんて私の足元にもおよばないくせに!」
セレアは苦しげにうめきながら言いました。
「こ、これって……ミステリーか何かだったかしら? たしかこの物語のジャンルは──」
「ファンタジーよ! ファンタジーのくせにサスペンス・ドラマやってんのよ! 悪い!?」
と、白雪姫はセレアに怒鳴りました。
シンデレラが言いました。
「火サスもビックリなファンタジー展開ね」
「ぐだぐだもいいとこだわ」
と、セレアは言いました。
そんな時でした。
セレアとシンデレラを庇うように、フンドシ男が前に立ちました。
フンドシ男が白雪姫に言います。
「もう止めるんだ。こんなことをして、いったい何になる?」
白雪姫は言いました。
「私の邪魔をしないで、金ちゃん! 私は──私こそがこの物語に相応しい主人公なのよ! 二人を倒して、私が次なる第四弾の主人公に──!」
フンドシ男は、持ってた“まさかり”を白雪姫めがけて投げました。
“まさかり”は全然違う方向へと飛んでいきました。
「あっぶなー」
「どこ向けて投げたの? この人」
セレアとシンデレラはそれぞれ、思い思いの感想を言いました。
フンドシ男が背中越しにセレアに言いました。
「セレア」
「え? な、何? いきなり」
「実は俺、生き別れたお前の双子の兄なんだ」
「言うタイミングおかしくない!? それ!」
セレアは違う意味で驚きました。
フンドシ男は言葉を続けます。
「俺は赤いフンドシ、そしてお前は赤いずきん。俺たちは赤いモノでつながっていたんだ」
「嫌なんですけど! そんなつながり!」
シンデレラが急にガクンとひざを落としました。
そして顔に手を当てて泣き出しました。
「ごめんなさい、セレア。あなたにそんな過去があったなんて、私全然気付かなくて──」
「え?」
するとどうでしょう。
白雪姫も顔に手を当ててシクシクと泣き出したではありませんか!
「勝てない……勝てないわ、そんな悲しい過去。私には無理よ、こんな展開」
「いや、どちらかと言えば、あなた達二人の継母と付き合う過去の方が悲しいと思うんですけど」
と、セレアは困ったように言いました。
シンデレラが立ち上がり、セレアの肩に手を置きます。
「主人公はあなたよ、セレア」
白雪姫も言います。
「あなたこそが主人公に相応しい主人公だわ」
すると、今までどこに居たのか、主人公総勢がぞろぞろと体育館の中へと入ってきました。
そして一斉にセレアに祝福の拍手を贈ります。
「え? え?」
胴上げもされました。
「な、え? ちょっ、ちょっと待……い、意味が……意味が分からないんですけど」
セレアはとても反応に困りました。
困りながら胴上げされました。
その時でした。
「あ」
フンドシ男が何かに気付きました。
「俺の投げた“まさかり”が、大事な支柱に刺さってヒビを……」
「え?」
みんなの目が点になりました。
そして──。
雷のような大きな音とともに、学園全体が倒壊したのでした。