赤ずきん少女と、アリとキリギリス【16】
しばらく廊下を歩いていた時でした。
セレアとシンデレラとフンドシ男とアリスは、廊下に座り込んで編み物をしている黒服の少女と出会いました。
セレアはその少女に声をかけました。
「あの、すみません。廊下の端に寄ってもらえませんか? あなたが邪魔でこの道通れないんですけど」
「……」
黒服の少女は一生懸命に編み物を続けていました。
セレアはもう一度、彼女に声をかけてみました。
「あのー、すみません。ここ通れないんですけどー」
「……」
ふと、彼女の頭にあった触覚らしき二本の髪がぴょこんと跳ねて、反応しました。
ようやく彼女がセレアへと顔を向けます。
彼女はニコリと笑ってセレアに言いました。
「はい? 何かご用ですか?」
セレアはもう一度、さきほどの言葉を言いました。
「あの、ここに座られたら通れないんですけど。廊下の端でやってもらえますか?」
「編み物って大変なんですよね。もうすぐ冬が来るので、その備えをしておかなければ、いざ冬が来てしまった時に大変なことになるんです。その時に慌ててしまっては手遅れなんです。だから私はこの夏の間に急いで編み物をしなければなりません」
「あの、人の話聞いていますか?」
「あー忙しい忙しい。頑張らなくちゃ」
「あの!」
「セレア」
シンデレラがセレアを止めました。
「彼女は忙しいみたいだから、別の道を探してみたら?」
「いや、たしかにそーだけどぉ。言ってることは分かるんだけどぉ」
セレアはちょっと納得いきませんでした。
シンデレラがフンドシ男に尋ねます。
「この道以外に他に通る道はないの?」
フンドシ男は答えました。
「無い」
その言葉を受けて、シンデレラはセレアに言いました。
「無いんですって」
「聞こえたわよ! なんでこっちに振ってくるの!? 私にどうしてほしいわけ!?」
セレアは怒って地団駄を踏みました。
すると、アリスが口にくわえていたパンを手に取りました。
そのまま黒服の少女のところへと歩み寄り、手にあったパンをその少女に差し出しました。
「これ、良かったら食べてください」
少女はパンを受け取り、にこりと笑いました。
「ありがとうございます」
黒服の少女が仲間になりました。
「ちょっ! 何なの、この展開! 懐かしいんですけど!(第二弾参照)」
セレアは第二弾のお話を思い出しました。
思い出したところで何も変わりませんでした。
黒服の少女がセレアにご挨拶します。
「私は蟻人間の“アンツ”と申します。“マナ”って気軽に呼んでください」
「名前と愛称が一致していないんですけどー」
するとそこに、キリギリスの着ぐるみを来た男が現れました。
手持ちのギターを得意げに鳴らします。
「よぉ、蟻のマナちゃん。まーだそんな地味ぃーな編み物をコツコツとやっているのかい?」
黒服の少女――マナなのかアンツなのかよく分からない子
「マナちゃんって言ってあげて」
セレアはお空を見上げて言いました。
シンデレラがセレアに尋ねます。
「誰と話しているの?」
「地の文」
黒服の少女マナは驚いた顔で男に言いました。
「キリギリスさん。あなた──」
「そうさ。僕は成功者さ。マナちゃんみたいに地味にコツコツ編み物するなんて馬鹿らしくて止めたんだ。イマドキ編み物なんて、チッチッチ、無駄な努力」
ジャーンと。
キリギリスの男は言葉に合わせてギターを鳴らしました。
そのままギターを鳴らしながらキリギリスの男は歌い始めました。
「そうさ、今は商品化された物を買う時代だよ、ベイビー。時間の無駄無駄、努力の無駄無駄。楽して暮らすなんてサイコーじゃん、ベイビー。ひぃーうぃごー」
黒服の少女マナは言いました。
「そんなことありません! 時には努力することだって大切なんです! 今は物が溢れていて豊かな時代かもしれません! でも、ずっと永遠に続くわけじゃないんです! ちゃんとコツコツとやっていかなければ大変なことになるんです! 将来苦労するのはあなたなんですよ、キリギリスさん!」
それを聞いていたセレアがシンデレラにぽそりと言います。
「編み物ってそんなに重要なものなの?」
シンデレラが答えます。
「少なくとも編み物を知っていたら冬の寒さには困らないわね。ちなみに私はアヤトリ遊びが得意よ」
「アヤトリ遊びが得意なんてイマドキ貴重な存在ね」
「何よ、その返し。だったらあなたは何が得意だって言うの?」
「私は……」
そんな時でした。
窓の外から楽しそうな笑い声や会話が聞こえてきました。
なんだかワイワイとみんなで楽しそうに盛り上がっているようです。
たくさんの女性の声が聞こえてきます。
「誰かしら?」
「なんだか楽しそうね」
その中の一つに、セレアの聞き覚えある声が聞こえてきました。
男の声です。
セレアの脳裏に忘れかけていた男の顔がよみがえってきました。
「……」
「どうしたの? セレア」
心配するシンデレラをよそに、セレアの顔つきがみるみる鬼の形相へと変わっていきます。
「あッッンンの野郎ぉぉぉぉ!」
セレアは吠えるとすぐに窓辺を向かって駆け出しました。
そしてそこから見える風景の中に、見知った男の姿を捉えます。
たくさんの女性たちに囲まれて楽しそうに話している黒狼の少年でした。
セレアは手持ちのバズーカを勇みよく構えると、黒狼の少年に向けて暴言とともに勢いよくぶっ放しました。
「覚悟しな、ベイビー!!!」
黒狼の少年がそれに気付いて慌てふためきます。
「ま、待ってくれ、セレア! これには深いわけが──