赤ずきん少女と不思議の国のアリス【15】
頭の上の大きな水色リボン、そして金色の長い髪を振り乱し、かわいらしいエプロンドレスを着た少女──アリスは、パンを口にくわえて廊下を走っていました。
「きゃーどうしよう! 主人公なのに入学の日から遅刻なんて!」
アリスはとても焦っていました。
今までの人生の中で一番焦っていました。
本当に焦っていました。
なぜなら遅刻をしたからです。
そして、アリスが廊下の角を曲がろうとした時でした。
どんっ!
「きゃ!」
「おっと」
アリスは廊下の向こう側から歩いていた男とぶつかってしまいました。
男はアリスの体を受け止めて、転ばないようにしてあげました。
アリスは無事でした。
しかし口にくわえていたパンが落ちてしまいました。
アリスはむなしく廊下に横たわるパンを見つめて悲しみました。
とてもとても悲しみました。
アリスは涙を流して言いました。
「私のパンが……」
「大丈夫?」
男がアリスに声をかけました。
声をかけられたことで、アリスは男を見つめました。
その男は裸でした。
いえ、赤いフンドシだけはきちんと履いていました。
大きな“まさかり”がとても印象的でした。
顔がとてもイケメンでした。
アリスはドキドキしました。
そして顔を真っ赤にしてアリスは照れながら男に言いました。
「とても素敵な顔ですね」
「顔かよッ!」
男の後ろに居たセレアはバズーカを床に叩きつけてツッコミました。
「何なの、この前振り! すごく長いんですけど! どーでもいいんですけど! ってか、主人公は私なんですけど!」
「あ。私のパンが……」
アリスはかわいらしく拳をきゅっと握り締めると、その手を乙女っぽく口元に当てました。
そして廊下に落としたパンを残念そうに見つめました。
すると、男がパンを拾ってアリスに手渡しました。
「パン、落としたよ」
「ありがとうございます」
アリスは気恥ずかしそうにパンを受け取りました。
そしてパンを再び口にくわえました。
それを見ていたセレアは思いっきりツッコミました。
「なんで普通に受け取ってんの!? ってか、なんで普通に食べてんの!? 何なの、これ!」
アリスは口にくわえていたパンをもぐもぐ食べました。
なんだかちょっとざらざらと砂のような食感がありましたが、アリスは特に気にしませんでした。
すると、男がアリスに謝ります。
「ごめん、なんか。俺のせいで。俺がちゃんと前を見てなかったから君のパンを──」
「大丈夫です」
アリスはそう答えました。
そして何事なくエプロンドレスの裾をめくり上げると、下着の中から新たに、五枚入りの食パン袋を取り出しました。
アリスはその食パンの入った袋を男に見せ、ニコリと笑って言いました。
「パンはまだいっぱい持っていますから」
それを見ていたセレアはたまらずツッコミました。
「何なのその設定! アリスどんだけ食いしん坊なの!?」
男はアリスに言いました。
「良かったら俺が学校を案内してあげようか? 君、主人公だよね? たしか名前は──」
「アリスです。私、不思議の国から来たアリスです」
「そうか。アリスちゃんか。かわいらしい名前だね。俺は金太郎。金ちゃんって呼んでいいから」
「いいえ、王子様と呼ばせてください。あなたは私の王子様です」
「ちょっとぉーッ!!」
セレアは二人の間に割って入ると、二人を引き離しました。
「何なのいったい! 前振り長いんですけど! 主人公は私なんですけど!」
セレアの後ろからシンデレラがクスリと笑って、ボソっと言いました。
「主人公なのにエンディングに王子様が不在っていうのも、ね」
カチンときたセレアは怒ってシンデレラに言い返しました。
「分かったわよ! 見つけてやるわよ、王子様を! 王子様を見つけて、それをオプションに決めれば文句ないでしょ!」
その言葉にシンデレラとアリスと男はぷっと吹き出して笑いました。
「何なのいったい、あんた達!」
セレアは怒ってバズーカを構えました。
→ 次話につづく。