赤ずきん少女と、シンデレラと、赤いフンドシ男【14】
セレアとシンデレラはフンドシ男に案内を受けて、一緒に廊下を歩いていました。
前方を歩くフンドシ男のキュっと引き締まった尻、鍛え抜かれた抜群のボディ、そして優雅になびく一枚の赤いフンドシ。
肩に担いだ一本の大きな“まさかり”が男としての象徴を極めるかのごとく、陽光にきらめいていた。
セレアは──
「あなた、さっきからあの男の尻ばかり見つめるでしょ?」
「はぁ!?」
セレアの隣に居たシンデレラにぼそりと言われ、セレアは不快に顔を歪めて言い返しました。
「見てないし!」
「見てたわよ、ずっと。あの男の尻ばかりを見つめていたわ」
「だから見てないって言っているでしょ! そっちこそ、さっきからずっと一点ばかり見つめてるじゃない! あの男の尻をね!」
フン、と。
シンデレラは鼻で笑って言い返しました。
「失礼ね。あなたのような変態と一緒にしないで。私は同じ戦士として、あの男の力量を調べているのよ。
あのバランスのとれた肉付き、筋肉の締まり方、骨格、そして──尻!」
「見てるじゃない! しっかり眼光開いてあの男の尻を見てるじゃない、それ!」
「……あの尻、悪くないわね」
「力量を見るのに重要なのは武器とか何か、そういうのじゃないの!?」
ふと。
まさかりを担いだフンドシ男が振り返ってきました。
セレアとシンデレラは会話を止めて、怯えるように抱き合い、かわいらしい悲鳴をあげます。
「……」
フンドシ男は何も言いません。
セレアとシンデレラはドキドキと心臓を高鳴らせながら、男の言葉を待ちました。
「……」
「……」
「……」
ずっと、ずっと、待ちました。
「……」
ずっと、ずっと、待ちました。
「……」
まだまだフンドシ男は何も言いません。
いいかげんイライラしてきたセレアは、フンドシ男に言いました。
「あの、すみません! 私たちをどこへ案内しようとしているんですか?」
フンドシ男は言いました。
「時の流れとは早いもので、季節はもうすぐ秋になる。そろそろ生徒会長を選抜する時期ではないだろうか?」
セレアは挙手をして言いました。
「あの、すみません! 言っている意味が全くよく分からないんですけど!」
フンドシ男は真顔で言葉を続けました。
「君たちは大勢の童話主人公の中から選ばれし戦士たちだ。しかし、この物語で選ばれる主人公はたった一人。
この物語にもっとも相応しい主人公とはいったい誰なのか? それを改めて決めたいと思っている」
「ってか、私なんですけど! 決めるも何も、この物語の主人公は私なんですけど!」
隣でシンデレラがくすっと笑います。
膨らみある胸を二の腕で寄せて谷間を強調させながら言いました。
「それはどうかしら? ヒロインとしてはお色気も萌えもない、お胸ぺったんこでガサツなあなたが、そういつまでも主役ってのは地味に笑えるわ」
セレアは膨らみ少ない胸を隠して言い返しました。
「誰が見渡す限りの大雪原よ! スノーボードで決め技できるくらいの高さは充分あるわよ!」
「残念だけど、今のあなたは主役として失格よ。あなたには物語として重要なお色気もなければ萌えもない。それどころか物語に必要な王道もなければ王子様も居ない」
「重要でも何でもないから、そこ。そもそもこれはそういう物語じゃないし」
「大事なことなのよ、セレア。主役はこの私に任せて。王道も王子様も色気も全部そろっているわ。主役の座に相応しいのはこの私──シンデレラと決まっているのよ!」
「言ってくれるじゃない! 私だってね、私だって、この物語に最も適した主役なんだから! “主役の意地”ってものを今ここで見せ付けてやるわ!」
挑発を受けて、シンデレラが腰から剣を抜きます。
「いいわよ。ならば勝負をしましょう」
「望むところよ!」
セレアも赤ずきんに隠していたバズーカーを取り出しました。
二人が武器を取り出してきたもんだから、さぁ大変。
一触即発のこの勝負。
主役はいったい誰の手に──
「はい、ストップ」
飛び散る火花を切り裂いて、二人の間にフンドシ男が割って入ります。
「俺の為に争うのはやめてくれ」
「「誰もあんたの為に争ってなんかいないわよ!!」」
セレアとシンデレラは一緒になってツッコミました。
→ 次話へ続く。