怪奇!イルミネーションの恐怖!!!!
時はクリスマスの夕方。達志と菜穂子は二人で公園のベンチに座っていた。菜穂子は言った。
「ねえねえ、達志に、クリスマスプレゼントあるんだぁ。」
「なんだい?」
「見たい?」
「そりゃ見たいさ。」
「ひみつ~」
「なんだよひみつってぇ」
「怒んないの達志。だから、見せてあげる。はい、これ。」
「…なんだいこれ?」
それはネックレスであった。大きめのちょっと鋭利なハートの飾りが付いている。
「幸運のネックレスだって。これをつけとけば安心だとか。」
「洒落てるねえ。」
「着けて。」
「うん。」
達志はハートのネックレスを着けた。
「わああ似合う!」
「そう?ありがとう!じゃあ僕からもプレゼント。」
「なになに?」
達志は目の前の枯れた大木を指差して言った。
「あの木、実はイルミネーションがかなり飾られてるんだ。もうすぐ夜になると、すっごい綺麗に光るんだって。」
「そーなのー!!?!?すっごいたのしみー!」
二人は木をじっと見つめていた。
「6時頃かな。つくの。」
「あと1分だね。」
「うん。」
しばらく二人は待っていた。
やがてわっ、と大木が煌めきだした。
「わああああっ!」
「綺麗だね。」
枝という枝にイルミネーションがびっしりとついており、鮮やかに周りを照らし出していた。
「ほんと、綺麗だね。」
「うん。」
ふたりはしみじみとそのイルミネーションを眺めていた。なんと幸福なひと時。
だが・・・・・
「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
すぐ近くで悲鳴が起きた。大木の裏だ。
「何?」
「何だろう…見てみる?」
達志がベンチから立ち上がり、菜穂子も仕方なくついていき、悲鳴の元、大木の裏に向かった。
それは異様な光景であった。人がイルミネーションに絡まれて悲鳴を上げていたのだ。
「助けて助けて助けてくれえ!」
菜穂子も叫んだ。
「どういう事!!?」
「わからん!」
達志は訳がわからなかったが、とりあえずイルミネーションに絡まれた人の手をつかんで強く引いた。妙に絡まれただけにしては、ほどきにくいなと違和感を抱きつつ、なんとかその人を助け出した。
「あ、ありがとう…イテテテ…」
その人は腕を押さえて呻きだした。達志は彼の腕を見た。何か黒いものが刺さっている。達志は引き抜いてみた。それは割れていたが明らかにイルミネーションの電球だ…達志は言った。
「これは…?」
その時に、人に異変が起きた。「ぐう、ぐうぅ」と呻きもがきだした。菜穂子は言った。
「大丈夫なの…救急車呼ばなきゃ。」
「わからない…ん?わあああ!」
達志は悲鳴を上げた。その人の身体から黒い長い触手が生えてきた。そして触手の節々が煌めきだした。
「イ…イルミネーションだ!!」
イルミネーションは横たわったその人の全身に絡み付き人型に光り続けていた。
「どういう事なの…」
「…こやつは生き物なのか…。」
その時、どざざざざと何かが崩れる音がした。振り返ると大木がなんと砂のように崩れ始めたのだ。後は巨大なイルミネーションの塊がそこにあるだけだ。
「きゃあ!」
気がつけばイルミネーションに絡まれた人は白骨化していた。
「なにこれ!」
「わかった…こいつはイルミネーションに化けた寄生生物だ…ヤドリギみたいだな…宿主が養分を吸いとられたんだな…あの光る電球は、おそらく卵なんだ…やばい、逃げろ!」
大木にあった大量のイルミネーションが蠢き暴れだし、それを見て二人は逃げ出した。極彩色の発光体は彼らを嗅ぎ付け、鮮やかに照らしながら追いかけてくる。その非現実的な、ともすれば神秘的な恍惚すら感じてしまう状況に二人は悲鳴を上げながら走り続けていた。ごごごごごとイルミネーションは周りの木をいとも簡単になぎ倒しながら追いかける。
「どうすんのよー」
「分からない!とりあえず逃げろ!」
「そんな…あ、タクシーがあるわ!」
「どこだ!!?」
「あそこ!」
「ほんとだ!」
二人が急いでタクシーに入ったので運転手は驚いて、
「どうしたんだい?」
と言った直後にタクシーの窓という窓が、イルミネーションのついた黒い触手に覆われた。運転手は喚いた。
「わあああなんだこれは!眩しい!くわああ!」
「いいからぶっぱなせ!運転手!」
「ふぁいぃぃ…」
泣きながら運転手はアクセルを踏み、イルミネーションからすり抜けて逃れた。
イルミネーションは地面でのた打ち回っていた。
「なんだあれは?」
「イルミネーションに見えるが…」
と見物人が来た。突如、イルミネーションは触手を伸ばし、見物人達の頭頂部に次々と差し込んだ。
夜の街をタクシーは行く。街はクリスマスで沸いてるが今やどの電飾も二人には恐怖でたまらなかった。どこまで走れば良いのだろう…もう良いのだろうか…
運転手は言った。
「お若いの、お金は半額でいいからもう降りてくだせえ…ぼかぁもう疲れました。」
「なるべく遠く離れたいのだ。」
「そんなあ…」
その時、突然タクシーの真横に人が走ってきた。全身がイルミネーションに侵されている。菜穂子は叫んだ。
「なにこれ!?」
「分からん!だが絶対…」彼らの目は焦点が定まってないが明らかに達志と菜穂子を狙っている。それにしてもタクシーと並んで走るとか随分な運動能力だ。達志は運転手に叫んだ。
「飛ばせ!」
だが運転手は突然ブレーキを踏んだ。車は減速した。
「何をしてる!」
「もう限界だ!わしゃ逃げる!」
運転手はタクシーから逃げ出した。だが…
「わああああ何をするやめろおごげげぐげ」
運転手は、発光人間に取り囲まれ、次々と種を植え付けられてしまった。彼らが去ると哀れ運転手はイルミネーションと化してしまった。
達志はタクシーから出た。周りにはイルミネーションに取りつかれた人々、イルミネーターがたくさんいる。達志は関節をぽきぽきと鳴らした。ふふふ、ついにこれを発揮する機会があったか。達志がいつも家でやっていた妄想格闘技訓練、今こそ、人に使うべし!
イルミネーターが次々と襲い掛かってきたが、達志は巧みなカンフーでなぎ倒した。だが、いくら倒れてもまた起き上がって襲いかかる。いったいどういうことだ。
背後から、イルミネーターがやってくる。達志は脳天にチョップをした。イルミネーターは突然意識を失って、起き上がらなくなった。あれ・・・・
その後も脳天を攻撃すると皆次々と倒れた。どういうことだろうと、達志は思ったが、しばらく戦って判明した。どの人も脳天にイルミネーションの電球があったのだ。それを割ったらどうやら効果がなくなるらしい。どういうことだ・・・・・。
全員が倒れたとき、達志は分かった。これは旧式のイルミネーションなのだ。バイメタルの入った、イルミネーションの点灯を制御する電球。これが切れると全ての電球が点かなくなる。そうだ。あの電球の中にもバイメタルに相当する、いわば「心臓部」があるのだ。それがあの怪物の弱点だ。
騒音が聞こえた。見れば、道路を横断して、イルミネーションの大群が襲ってくる。タクシー内の菜穂子は悲鳴を上げた。UFOのごとく、色とりどりの光を発しながら乱雑に迫ってくる。だが、達志は慌てない。そうだ。心臓部に向けて・・・・。黒い触手はもう寸前まで迫っていた。達志はジャンプした。殺気。達志はイルミネーションの視線を感じた。
そこだ!
達志はある電球にとび蹴りした。
「ギエエエエエエエエ!!!!!!!!!」
イルミネーションは声を上げ、そして力を失った。輝きも失せ、へなへなとただの黒い回線と成り果てた。
その後、二人は、達志のマンションの部屋で共にいた。周りを見ればなるほど、妄想格闘技の練習用にマネキンが置いてある。天井になにやら黒い配線が絡まってるのを不思議に思いながら、菜穂子は言った。
「はああああ、怖かった。」
「やっぱり、クリスマスは家で祝うのが一番だね。」
「うん。」
「そういえばキャンドル買ってきたよ。」
「え!じゃあ火点けて!」
達志はジッポーライターで蝋燭に火を灯した。
「電気消そう。」
「そうだね。」
菜穂子は部屋の電気を消した。
突然、部屋が極彩色に照らされた。なぜ。二人は目を見開いて見つめ合った。そして、天井を見上げた。
「イルミネーション!」
「わああ!」
どたん、ばたん、しゅっ、「ぎえええええ!!!!」どた・・・ばた・・・・。
電気は点いた。
「危なかったね。」
「うん。」
二人は無事であった。床の上にはイルミネーションの屍が広がっていた。
「これのおかげで助かったよ。」
達志は屍に埋もれていたハートのネックレスを出した。ネックレスは確実に、イルミネーションの心臓部を射抜いていた。それは・・・
「私のクリスマスプレゼント・・・・。」
「・・・・」
「ほんとに、幸運を呼んだのね。」
「うん。」