第一話 死にかけのドラ猫、拾われる。
はじめましてや。
この物語の語り手――マオマオやで。
ワイは元・百戦無敗のドラ猫やったんやが、
気づいたら、なんや知らんうちに三姉妹に拾われとった。
しかもや。
飯はうまいし、寝床はふわふわやし、縁側はぬくい。
……ここ、天国か?
まあそんな感じで、ワイのヒモ生活が始まるわけやが――
どうも、そう簡単な話でもなさそうなんや。
ちょっとだけ、のぞいていってくれや。
――もうじき、ワイは死ぬ。
さっきまでズキズキと暴れ回っていた痛みが、いつの間にか消えていた。
その代わり、骨の芯まで凍るような寒気と、どうしようもない脱力感が体を支配している。
ああ……これ、あれやな。
血ぃ、流しすぎたんやろ。
もうすぐ、ワイの命の灯も消える。
ハハ……思い返せば、クソみたいな一生やった。
親の記憶はない。
気がついた頃には、薄汚れた街の片隅で、ただ一匹さまよっていた。
腹が減ればゴミを漁る。
縄張りを奪い合って、他の猫と喧嘩する。
気に入らんかったら牙を剥く。
欲しいもんは、力づくで奪う。
暴力上等。
百戦無敗。
でかい犬ですら、一撃で追い払ってきた。
気がつけば、この辺りじゃそこそこ名の知れたドラ猫や。
食欲。
睡眠欲。
性欲。
欲しいと思ったもんは、全部奪って生きてきた。
自由奔放と言えば聞こえはええが……
まあ、ただのクズや。
そんなワイにも、とうとう天罰が下ったらしい。
この辺りを取り仕切るボス猫に目ぇつけられてな。
最後まで噛みついてやった。
耳を裂き、喉元に牙も立ててやった。
――けど、数が多すぎた。
縄張り争いの果てに、このザマや。
体中ズタボロ。
血まみれで、路地裏に転がっとる。
因果応報ってやつやな。
ふぅ……
ふぅう……
ひぅ……
自分の息が、やけに遠く聞こえる。
見上げた空は、排気ガスで濁っていた。
コンクリートのビル。
ドブみたいな臭いのするアスファルト。
まぁ……こんな薄汚れた世界の片隅で、血まみれのドラ猫が一匹くたばるだけや。
ワイなんかに声をかけるやつなんて――
「――どうしたの?」
ふいに、声がした。
視界の上に、誰か立っている。
眩しい。
……なんやこれ。
やけに白くて、細い。
人間の……脚?
「……っ、この子……すごい怪我……!」
女の声やった。
震えとる。
「大丈夫……?ねえ、大丈夫?」
おい、触るな。
ワイは人間が嫌いなんや。
おまえらは、この世界の中心が自分らやって思っとる。
気まぐれに優しくして、気に入らなければ石でも蹴り飛ばす。
そんな傲慢な生き物や。
――なのに。
「まだ息してる……!」
女はそう言うと、ワイをそっと抱き上げた。
……なんやこれ。
あったかい。
柔らかい。
ふわふわして、甘い匂いがする。
「大丈夫だよ。すぐお医者さん行こうね。……ぜったい、助けるから」
なんや、この女。
なんでそんな顔しとるんや。
ワイなんか……放っときゃええのに。
視界がぼやける。
もう……あかんかもしれんな。
けどまあ――
最後に触れたのが、こんな温もりなら。
悪く……ないかも……しれん。
それがワイと、
陽葵との――出逢いやったんや。
ここまで読んでくれて、ほんまありがとうな。
どうや?
ワイ、なかなかええ猫やろ?
……まあ、自分で言うのもなんやけどな。
この先な、あの三姉妹――
ちょっとずつ“いろいろ”見えてくるで。
笑えることもあるし、
ちょっとだけ、しんどい話もあるかもしれん。
せやけど安心しとき。
ワイがおる限り、ちゃんと守ったるからな。
もし「続き、気になるやんけ」って思ったら、
次の話も読んでいってくれたら嬉しいで。
ほな、またな。




