春一番が連れてきたトキメキ
春一番が、春の訪れを告げている。
花粉症に悩まされながら出勤した、瑞穂は、
「春一番かぁ〜。」
春一番といえば、昔懐かしいキャンディーズの歌を思い出す。「流行ってたなぁ。」
雪が溶けて川になって流れて行きます
つくしの子がはずかしげに顔を出します
もうすぐ春ですね
あの頃、私は高校3年。
一緒に受験勉強した剛と付き合い始めたんだっけ。
そして、卒業を期に別れたんだった。
泣いてばかりいたって幸福は来ないから
重いコートぬいで出かけませんか
もうすぐ春ですね
恋をしてみませんか
瑞穂は今、夫と二人暮らしで円満だが、贅沢をいえば、少々物足りない。優しい夫だがお互いに趣味がまったく違う。好きな音楽も趣味も合わない。夫は読書家で溢れる知識を時々賜るが、話が長くてじれったくて要点を絞ってほしいといつも不満に思っている。
唯一話が合うのは食べ物のことくらいだ。
キャンディーズの歌を口ずさみながら、駅から職場までの道を歩いていると、風に温もりを感じ、来たるべき春の訪れに胸が躍るようだった。
そんな時にふと、後ろから呼び止められた。
「あれ、瑞穂?瑞穂じゃないか?」
反射的に後ろを振り返る。
「?」
「どなた、…でしたっけ?」
「やっぱり瑞穂だ。俺だよ。剛。お前、変わってないなー。いや、太ったかな。お互い歳取ったな。」
「へ?」
目が点になる。。
「剛って、、あの剛?え〜、どうして。剛なの?
あの頃の面影がまったく、無い。」
瑞穂は、やっと答えた。
「剛なの?信じられない!?どうして、こんな所で再会したのかしら。奇遇よね。
それにしても、剛、久しぶりに再会して、いきなり、太ったはないでしょう?失礼ね。」
「ごめん、ごめん、瑞穂。失礼したよ。昔のよしみで思わず出ちゃったよ。少しふっくらしたかな。いや、でも、まだまだ若いよ、瑞穂。」
こんな場面で、人は普通、胸ときめかせるものなのかもしれない。
だが、再会した元彼の剛は、あの頃とはまったく違う人になっていた。あんなに目がキラキラとして生き生きと夢を語っていた好青年の剛はもういない。
目の前の剛は、ヨレヨレのおじさんと化していた。




