【番外編】エレノアとリオネルの場合 ①
エレノアとリオネルに女の子が生まれています。
肌寒い日が続くある日の午後、私は暖炉の傍のソファに座って編み物をしていた。
外は晴れていて日差しが暖かいが、吹く風が冷たいので夫のリオネル様から外へ出るのは控えるよう言われていた。
膨らんだお腹に気を使いながら、クマの耳付きの毛糸帽子を作っていく。
「お母さま!何をやっているの?」
4歳になったばかりの娘のリネアが、無邪気に駆け寄ってきた。
「もうすぐ生まれるこの子にプレゼントを作っていたのよ。ほら、クマさんの耳のお帽子なの。可愛いでしょう?」
私がリネアの頭を撫でてやりながら言うと、リネアはプクっと可愛らしく頬を膨らませた。
「あら、どうしたの?」と聞くと、リネアは「ずるい」と小さい声で言う。
その様子があまりに愛らしくて相好を崩してしまう。
リネアはもうすぐ生まれてくる弟か妹にずっとヤキモチを焼いているのだ。
無理もない、まだ4歳なのだから親にずっと甘えていたいだろう。
「ほら、そんな顔をしないで。リネアの分もあるのよ。見て、可愛い手袋でしょう?」
ピンク色の毛糸で作った小さな手袋をリネアに渡すと、いじけた顔から明るい笑顔に変わり、喜んで飛び跳ねる。
その様子をリオネル様が部屋の扉を開けて苦笑しながら見ていた。
「おやおや、お転婆姫がいるぞ」
後ろにはティーワゴンを運ぶ希愛もいる。
「お父さま!」
リネアはリオネル様に飛んで抱き着いた。
「こらこら。そんなにはしゃいだら危ないだろう?おや、何か素敵なものを持っているね」
リオネル様に抱き上げられたリネアは、誇らしげに私からもらった手袋を見せる。
「お母さまにもらったの!かわいいでしょう?」
「可愛いよ、リネアにとても似合っている」
リオネル様はリネアを抱っこしたままソファに座り、希愛が紅茶の準備をしてくれる。
妊娠中はカフェインの入った紅茶は控えた方が良いと言われ、希愛がカフェインの入っていない紅茶を用意してくれた。
温かな湯気の立ち上る紅茶と一緒に、焼き立てのパウンドケーキが置かれる。
リネアはさっそく目を輝かせてケーキを口いっぱいに頬張った。
「おいしい!」
リネアは手を頬に当てて嬉しそうに笑う。
私もケーキをひと口食べる。
ふんわりとした生地が甘く溶けて、濃厚な生クリームとの相性が抜群だ。
「エレノア、体調の方はどうだい?」
私に寒くはないか聞くリオネル様は心配そうな表情だった。
「大丈夫です。希愛が先ほど膝掛けを持ってきてくれましたし、暖炉のお陰で暖かいです」
良かったとリオネル様は微笑んだ。
リネアを妊娠していたときも寒い季節だったが、そのときに少し体調を崩してしまったことがあった。
幸いなことに大した症状ではなく、数日休めば回復したが、リオネル様は顔を真っ青にして心配していた。
そのせいでリオネル様は過保護になってしまったのだ。
リオネル様の過保護っぷりには希愛も苦笑していて、妹のルルリア様も呆れていたほどだ。
「お兄様ったら、そんなにエレノア様を拘束しては妊婦の体に逆に毒ですわ!」と怒られている場面を先日見たばかりだった。
そのことをリオネル様も思い出したのか、バツが悪そうに頬を掻く。
「すまない。またルルリアに過保護だと叱られてしまうな。心配しすぎなのは分かっているけれど、どうも落ち着かなくてね」
「良いんですよ。そんなに落ち込まないで下さい。リオネル様がそれだけ心配して下さって、私も安心して過ごせておりますわ」
パウンドケーキを平らげたリネアは、希愛にお化粧品を見せてとせがむ。
希愛は快く頷くと、黒いカバンから色とりどりの美しい化粧品を並べていく。
「きれい!これは何に使うの?」
「これはチークですね、頬に塗るものです。肌の色や気分に合わせて、淡いピンクから濃い朱色、オレンジ色もありますよ。練ってあるタイプのものや、粉をブラシで塗るタイプもあります」
リネアは説明を聞きながら、キラキラと目を輝かせて希愛の持つチークを見つめる。
まだリネアは4歳なのでお化粧はさせていないが、女の子だから興味を持つのは早かった。
リネアもあと5、6年経ったら社交界デビューに向けて礼儀作法などを学び始める。
そのときには希愛にお化粧について教えてもらうつもりだ。
リネアは次々と、これ何かと質問していく。
希愛は淀みなくスラスラと答えながら、リネアとお互いに楽しそうに笑い合っていた。
「そういえば、ルルリアがまたエレノアとユリル様とお茶会を開きたいと言っていたな」
リオネル様の妹君のルルリア様と、私の義妹のユリルは私と同じく妊娠中で、出産予定日も近いことが判明している。
今はお互い手紙でやり取りをして、悪阻が酷くて食事が辛かったことや、寝るときにお腹や腰が痛くて寝づらいなど愚痴を書いたり、胎動を確認して嬉しかったことなど、喜びも共有していた。
「私も早く二人に会いたいです。リネアのヴァイオリンも聴かせてあげたいわ」
「昨日の練習ではすっかり上達していて僕も驚いたよ。将来は天才ヴァイオリストかな」
リオネル様と二人でリネアの横顔を見つめる。
リオネル様に似た深い青の瞳に白い肌、癖のない青みがかったグレーの髪を毛先だけ巻いて、ぷっくり頬っぺは桃色だ。
リネアが生まれたとき、祖父になったクロフォード公爵も私の父もとても喜んでいた。
「リネア様、そろそろ絵本を読むお時間ですよ」
リネアのお世話係と家庭教師を兼任しているボーナがリネアを呼びに現れた。
「きょうは、まほうつかいのおはなし?」
「そうですよ、昨日の続きです。今日は魔法使いがお花を咲かせるお話ですよ」
リネアは少しずつ文字を読む勉強をしている最中で、ボーナが読み聞かせながら教えている。
リネアは絵本が大好きで、ボーナの読み聞かせを楽しみにしていた。
「それでは国王陛下、王妃陛下、リネア様をお連れいたします」
「あぁ、よろしく頼むよ」
「リネア、良い子にするのよ」
元気良く返事をしてボーナについて行くリネアを、私とリオネル様は手を振って見送った。
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