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【番外編】希愛の場合 ③


「うわぁ…」



見えてきたクロフォード公爵家の邸宅の大きさに思わず声が漏れた。


テレビでしか見たことないが、外国にある宮殿ってこんな感じではと思うくらい大きく荘厳なお屋敷だ。


大きい噴水に大きい門構え、左右に別れた階段はつるりとした石材で出来ており、まるで鏡のように綺麗に磨かれている。


転ばないようにゆっくり上って屋敷内に入れば、豪奢なシャンデリアの光に目を焼かれる。



お金持ちってすごいという感想しか出てこない。



ルルリア様はすぐさまお風呂に入るために部屋へ行き、私も侍女に案内されて同じ部屋へ付いて行く。


しばらくして湯上りのルルリア様が新しいドレスに着替えてソファに座った。


私はルルリア様の隣のドレッサーの上にある、小さな化粧品の容器が目に入った。


小さく『トクシー』と表記された容器だ。


私の目線を追ってルルリア様が「それが気になるの?」と聞いてきた。



「それは今流行りのトクシー社の白粉(おしろい)よ。肌が白く美しくなるの」



私は何となく嫌な予感がして、触ってもいいか確認を取り、許可を貰って白粉の容器の蓋を開ける。


専門学校でメイクの歴史を学んだとき、実物として保存してあるものを見たことがあった。


それと今手にしている白粉は同じものに見える。


ルルリア様にこれを付けたことはあるか聞くと、ついさっきも付けていたと言われ、サッと血の気が引いた。



「今すぐに使うのを止めて下さい。これは人体に有害なものです!」



私は悲鳴に近い声で叫んだ。


ルルリア様は呆気に取られた顔で私を見た。



「それはそんなに危ないものなの?つい最近、トクシー社から販売されたものよ」



私はこの白粉には『鉛白』という人体に有害な成分が含まれることを必死に説明した。


聞けば、ルルリア様はここ最近、夜の喘息が酷くなってしまったらしい。


私は白粉が原因だと確信した。


ルルリア様はすぐさま侍女に命じて、兄のリオネル様という方に知らせるよう言った。


リオネル様はクロフォード公爵家の嫡子らしい。


今、ルルリア様の父親のクロフォード公爵は北方の領土へ行っていて留守らしく、兄のリオネル様が責任者という立場だそうだ。


ちょうど用事から帰ってきたリオネル様に簡単に自己紹介をして、白粉についてすぐにトクシー社へ連絡するようお願いした。



「分かった。この白粉について調べるよう国にも連絡をするよ。希愛(のあ)と言ったね?ありがとう、教えてくれて」



リオネル様は優しく微笑むと、家令のエルトンに何やら指示をして、側近と一緒に馬車に乗り込むと出発した。


それからは早かった。


リオネル様のお陰でトクシー社の白粉は製造販売禁止になった。


やはり鉛白成分が白粉から検出され、それによって体調不良を訴えている人がいることも分かった。


だが、まだ販売して月日が経っていなかったことこら、重症化している人の数は少なかった。


重症化していると言っても、鉛白成分を排出するような生活をしていれば徐々に回復していく程度で留まったのが不幸中の幸いだ。




このことはリオネル様にもルルリア様にも感謝され、ルルリア様が私の持つメイク用品に興味を持ったこともあり、ぜひクロフォード公爵家の使用人になって欲しいと打診があった。


いきなりこの世界にやって来て、右も左も分からなかったので、この申し出は渡りに船だった。



「希愛のお化粧のお陰で、雀斑(そばかす)が浮いて嫌だった肌が綺麗になって嬉しいのよ。こうして見れば、雀斑も可愛らしく見えるわね」



ルルリア様は鏡を見て嬉しそうに笑う。


ルルリア様は小さい頃から雀斑の浮いた肌がコンプレックスで、周りから白い目で見られ、ヒソヒソ陰口を言われることもあったという。


心無い言葉を投げられることもあったが、そのときは兄のリオネル様が庇ってくれたそうだ。



「お優しい方なんですね、リオネル様は」



「そうなのよ。お兄様はいつだってわたくしのことを褒めて下さるの、お父様だってそうよ。だからわたくしは卑屈にならずに前を向いていられるの」



ここは私のいた世界なんかより、ずっと暖かい場所なんだと心から嬉しくなった。


それからはルルリア様付きの侍女になり、この世界について色々と教わった。


この国の歴史や常識、マナーや礼儀作法もルルリア様やリオネル様、家令のエルトンも教師になって教えてくれる。


すっかりこの世界や暮らしにも慣れた頃、リオネル様から明後日に王宮で開催されるパーティーに、ルルリア様の侍女として付いて来て欲しいと頼まれた。


パーティーなんて元のいた世界でも経験したことがない。


緊張よりもルルリア様に美しくメイクが出来ることに私は浮き足立った。


パーティーとなったらルルリア様は豪華に着飾るだろう。


それに似合うメイクは何にしようと、ウキウキでメイクカバンを漁る。


ルルリア様は豊かな金の髪をくるくると巻いているから、愛らしい印象になるよう淡いピンク色やコーラルカラーをメインにしようか。


アイライナーは筆よりペンシルタイプの方が柔らかい雰囲気になるし、肌が白いからベージュで引くのが合うだろうな。






迎えたパーティー当日、ルルリア様は濃いピンクの可愛らしいドレスを身に纏い、くるりと回転してみせる。


ふわりとスカートが広がり、毛先を巻いた金の絹髪も風に揺れた。



「希愛、とびきりのお化粧をお願いね」



ルルリア様にウィンクでお願いされ、私は気合を入れてメイクを施した。


金髪と青い瞳を際立たせる淡いピンク色のアイシャドウ、アイライナーはベージュで柔らかく引き、コーラルピンクのチークを頬骨に沿って薄く引く。


仕上がりを見てルルリア様は歓声を上げた。



「やっぱり希愛のお化粧はいつだって素敵!心が明るくなるわ」



「お気に召して頂けて嬉しいです」



仕上がりに私も大満足だ。


それから私はルルリア様と同じ馬車に乗り、パーティー会場である王宮へ向かった。


読んで頂き、ありがとうございます!

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