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【番外編】アデルの場合 ①

アデルのストーリーです。


――どうしてこうなった?



絞首台に続く階段をゆっくり上りながら、アデルは心の中で独りごつ。


どんよりとした曇り空の下、元王太子の処刑とあって見物客の数は膨大だった。


侮蔑の言葉と石を投げ付けられ、冷たい視線が突き刺さる。


両手を縛られたまま猿轡を噛まされ、静かに一段一段上っていく。



――僕は、どこで間違った?



そう問うてみても、誰も答えてはくれない。


心の中で孤独と後悔が渦巻いていた。


アデルの首に冷たい縄が通され、処刑人が静かに後退る。



――僕は、僕は……



足元の床が開いて、首が圧迫される。


視界が霞み、意識が遠のいていく。



鉛色の空からは雨が降り始め、アデルの涙跡を消していく。



アデルは最期に感じた感情の正体を知らぬまま、その生涯に幕を下ろした。





***





アデルと従兄弟のリオネルは一歳差で、幼い頃は毎日のように王宮で遊んでいた。


剣術の真似事や乗馬、おやつにはケーキを食べたり、食後はクッションを投げ合ったりと子供らしくやんちゃに遊び、ときには使用人に叱られたり。


今日も遊びにやって来たリオネルが、アデルの部屋で書物を読んでいた。



「ねぇ、アデル知ってた?この国には、1000年近く前に『癒しの力を持つ聖女様』がいたんだって!」



リオネルが聖女伝説について記された書物を手にアデルの元へ走ってきた。


エタルルーシェ王国に伝わる御伽噺で、豊穣や治癒の力を持つ聖女が国を導くという内容が記されている。


その書物はアデルも読んだことがあるが、聖女なんて作り話だと鼻で笑っていた。



「そんなもの出鱈目だよ。聖女様なんていないさ、馬鹿馬鹿しい」



「そんなことないよ!だって、戦で怪我をした人や病で苦しむ人を、聖女様が癒しの力で治したって書いてあるよ。そのお陰で、混乱していた国は復興していったんだって」



リオネルはムキになって頬を膨らませながら言った。


アデルは再度、馬鹿馬鹿しいと首を横に振った。


聖女様なんている訳がない。


もし聖女様がいるなら、もし癒しの力があるなら何故、病で苦しんで亡くなった母を助けてくれなかったのかと、八つ当たり気味に思っていた。


しかし、リオネルの母親も妹のルルリアを産んですぐに亡くなってしまったと聞いたから、そんなことは口に出さなかったが。



「ねぇ、そんなことよりリオネルのヴァイオリンが聴きたいな。また中庭で弾いてよ」



アデルは話を変えてリオネルにリクエストをした。


リオネルは音楽家の家系に生まれた母親の影響で、ずっと音楽や楽器に慣れ親しんできた。


ヴァイオリンの腕前もプロ並みで、まだ10歳にも関わらずコンサートを開催するほどだった。


アデルはリオネルが弾くヴァイオリンが大好きで、毎日のようにリクエストしていたのだ。


ときには一緒に弾くこともあり、アデルにとってリオネルはヴァイオリンの師匠でもあった。



リオネルが「いいよ!」と満面の笑みで頷く。



「よし、早く中庭に行こう!」



アデルとリオネルは笑い合いながら競争するように部屋を出て行く。


そのあとを使用人たちが慌てたように追い掛けて行った。




アデルとリオネルが仲睦まじく走り回る様子を、忌々しそうな表情で見送る人物が一人。



アデルの父親で国王のジェルドだ。



国王のジェルドと弟のクロフォード公爵は、幼い頃から不仲で、今も碌に顔を合わせず、何年経っても溝は埋まらないままだ。


艶福家として有名なジェルドのふしだらな女遊びと、不真面目な性格が原因だった。



王太子時代から勉強を放ったらかし、美しい令嬢を片っ端から口説き落として遊び耽るジェルドに、成績優秀で武芸にも秀でた公爵はいつも頭を悩ませ、ことあるごとに注意をしていた。


ときには大喧嘩になるほど言い争い、近習たちも奔放なジェルドには頭を抱えていた。



ジェルドは口煩い弟を疎ましく思っていた。


そんなジェルドにとって、息子のアデルがクロフォード公爵家の長男と遊んでいるのは面白くなかった。


とうとう我慢が出来なくなったジェルドはアデルを叱りつけ、もう二度とリオネルと遊ぶことを禁ずると言った。



「リオネルとは縁を切りなさい。あいつは卑しい公爵家の者だ。いつ裏切って王座を奪われるか分かったものじゃない。良いな?アデル」



暗い部屋で厳しい表情の父親に迫られて、アデルは口答えなど出来るはずが無かった。


そうして突然、遊び相手を奪われたアデルは、ジェルドによって部屋に押し込まれ、王太子教育を受けることになった。


厳しい家庭教師に毎日怒られ、父親には冷たく当たられ、次第にアデルは癇癪を起こすようになった。


少しでも気に入らないことがあれば物に当たり、花瓶やカップはいくつ割ったか分からないほど。


近習たちに諌められるが、それでもアデルの癇癪は治る兆しが見られなかった。



アデルが毎夜、ベッドで静かに声を殺して泣いていることを、父親も使用人も誰も知らなかった。


読んで頂き、ありがとうございます!

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