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【20】断罪劇

遂にアデルへの断罪劇が幕を開ける。


「エレノア様のお陰でリオネル様のお命は守られ、兵たちも誰も死なずに済みました。本当にエレノア様は素晴らしい方です」



希愛(のあ)は私に着せるドレスやお化粧品を選びながらそう言った。


湯船に浸かって綺麗に泥を落としたあと、私は湯上りの花茶を飲みながらソファに腰掛けていた。


もう少し、私たちの来るタイミングが遅かったら、リオネル様の首があそこに転がっていたかもしれないと思い、血の気が引く思いがした。



「本当に危なかったわ。希愛が傍にいてくれたことと、ユリルが逃がしてくれたお陰ね。何としても、アデル殿下にはこのことを突き付けなければならないわ」



私はカップを持つ手に無意識に力を込めてしまった。



「ルルリア様が不在で良かったですね。今さっき連絡が来ましたが、ルルリア様は叔母様と予定通りにお会いしていて、ご無事だということです。リオネル様もご安心しておられました」



「それは良かったわ」



私は心からホッと息をついた。


誰にも傷付いて欲しくない。


クラウスたちも大した怪我はなく、全員が意気消沈したように黙り込んでいるという。



「さぁ、今回は青色のドレスなので、顔色をグッと華やかにするために、ピンク系のメタリックな色を入れてモダンな雰囲気にしていこうと思います。小鼻の横からこめかみにかけてシャープにチークを入れて、上品な血色を入れていきます。グロスは青みピンクで透明感のあるピュアな口元に!」



こんなときでも希愛は楽しそうだ。


見ているこちらも明るい気分にさせてくれる。


希愛が用意してくれたドレスに着替え、美しくお化粧をしてもらい、私はリオネル様にエスコートされながら馬車に乗り込んだ。





***





「おい!クラウスはまだなのか!?一体いつまで待たせるつもりだ!」



アデルは苛立たしげに足を揺すって叫んだ。


手にした空のグラスを床に叩き付けたとき、扉が大きく開き、慌てた様子の兵が走り込んで来た。



「アデル殿下!ご報告致します!」



「やっと来たか。リオネルの首は持ってきたのだろうな!?」



「は、はい!こちらに」



跪く兵の後ろから、もう1人の屈強な兵が何やら布の被せられた大きなものを抱えて現れた。


それを床にゴロンと転がして、同じように跪くと「こちらが謀反人でございます」と答えた。


アデルは口元を歪めると高笑いして玉座から立ち上がった。



「ハハハ!馬鹿な男だ!さぞ無様な姿をしているのだろうな。早く布を取れ!!!」



アデルが命じると屈強な兵は、転がしたものに被せられていた白い布を勢い良く取り払った。


それを見て周りの国王派の貴族やアデルの傍で待機していた兵たちが、ハッと息を飲む音が大広間に響いた。


そこに転がっていたのは、大量の汗をかいて目をキョロキョロさせたクラウスだった。


口には猿轡を噛まされ、手足は縛られている。



「…ど、どういうことだ?どうして、クラウスが……、リオネルはどうしたんだ!?」



「私ならここにいます、殿下」



大広間の扉から1人の美しい顔立ちの男性が現れる。



「リ、リオネル……」



アデルは大広間の中央まで優雅に歩いてくるリオネルを見て、呆気に取られたように呟いた。


その後ろにはエレノアが侍女を伴って付いてくる。


2人は静かな瞳でアデルを見つめていた。



「アデル王太子殿下、あなた様にはこれから、あなた様自身が犯した罪を償って頂かなければなりません」



リオネルは冷たく告げる。



これから始まるのは、断罪だ――。







「アデル王太子殿下、あなたはクロフォード公爵家に関する根も葉もない怪情報を吹聴し、エタルルーシェ王国の国民を戦渦に晒そうとしましたね」



リオネル様は床に転がるクラウスをチラリと見やって静かに言った。


アデル殿下はリオネル様を暗殺したあと、クロフォード公爵家派の貴族たちも何かしらの理由を付けて粛清しようとしていた。


そのための、国王である父親に頼んで、他国から兵を借りようとしていたことが分かった。



「それだけではなく、あなたには違法薬物密輸剤、傷害罪に脅迫罪、そしてネヴィル伯爵家令嬢への殺人未遂罪の容疑が掛かっています。それらの証拠は全てここに揃っている。…アデル殿下、何か仰りたいことはございますか?」



ユリルに飲ませて殺害しようと密輸した『煙草の葉』に、私付きの侍女フルールへの脅迫、そしてアデル殿下は『辰砂』入りの口紅を容認していたこと。



「アデル殿下、私はあなたを許すことは出来ません。どうか、罪をお認め下さい」



私は青白い顔をして俯くアデル殿下に向けて、ハッキリと大きな声で言い放った。


証拠は全てリオネル様や家令のエルトン、『隠密の者』と呼ばれる情報収集などを得意とする者たちが集めてくれて、大広間に用意された机の上に並べられていく。



「そ、そんなものは知らない!その薬が煙草の葉だなんて知らなかった!辰砂入りの口紅だってそうだ!ぼ、僕は商人に騙されたんだ!そもそも、口紅はユリルが勝手に買ったものだろう!?自業自得じゃないか!」



顔を歪ませ、唾を吐くように捲し立てるアデル殿下に、周りの貴族たちも冷ややかな視線を向け始めた。


いつの間にか、クロフォード公爵家派の貴族たちも集まり始めていた。


その中には、王国騎士団騎士団長のグレーズ侯爵の姿もあった。



「僕のせいじゃない!ユリルに口紅を売った商人を罰すれば良いだろう!」



「クロフォード公爵家のお力を借りて、商人は既に捕らえておりますわ」



アデル殿下の後ろから現れたのは、義妹のユリルだった。



「ユ、ユリル…」



何故、生きているのかと無意識に漏れたであろう言葉に、アデル殿下はしまったという表情をしたが、もう遅い。



「リオネル様がお教え下さいましたわ。殿下は白粉(おしろい)が有害だと知ったとき、水銀を含む辰砂が使われた口紅が、国内に持ち込まれそうになっているのを調べて知っていたそうですわね。本来ならそこで輸入禁止にすべきだったのに、国にとって利益に繋がるからと容認した」



アデル殿下は悪い顔色をさらに悪くしてよろめいた。


その拍子に玉座の隣にあった、机の上のワイン瓶が落ちて割れる。


まるで血のように濡れ広がった赤い染みを踏みながら、アデル殿下は聞き分けのない子供のように頭を振った。



「アデル殿下、あなたは私の力を不正に利用して、リオネル様やユリルを殺害しようとしていたのです。あなたがそんなことをしなければ、クラウス様や他の兵たちも苦しむことは無かったのに」



クラウスは恐らく薬物の影響で、青白い顔のままガクガクと震えている。


口からは涎が溢れ、目も虚ろで焦点が合っていない。


私はクラウスに近付くと、額に手を翳して魔力を込めた。



桜色の淡い光がクラウスを包み込み、しゃりしゃりと音を立てて消える頃、クラウスはぐったりとしているが、先ほどより血色の良い顔で眠っていた。


どこか別の部屋で寝かせるようリオネル様にお願いしようと顔を上げたとき、グレーズ侯爵が「私が運びましょう」と歩み出てきた。


金の髪に緑の目、騎士団長らしく屈強な体付きの大男であるグレーズ侯爵は、クラウスを抱き上げるとリオネル様と私に頭を下げて出て行った。



「クラウスには後ほど事情聴取をします。ここに護送する際クラウスは、アデル殿下に私を殺害するよう命令されたと、ハッキリと証言しました。他の兵たちも同様の証言をしています。その上、ユリル様への殺人未遂とも取れる違法薬物の送り付けや、口紅への輸入容認は動かしようのない事実です。アデル殿下、あなたはこれらの罪を認めますか?」



これが最後通告ですとリオネル様が言えば、息をするのも憚られるほどの重い沈黙が大広間を支配した。



アデル殿下は、うううと唸り始めたかと思うと、腰に差した剣を抜き、叫びながらリオネル様に向かって走り出した。



「貴様のせいで!貴様さえいなければ、僕はっ!僕はァアアア!!!」



血走った目でリオネル様を睨み付け、剣を振り翳すアデル殿下の足をリオネル様は蹴り払った。


床に顔から転んだアデル殿下は、そのまま衛兵に取り押さえられる。


私はリオネル様の腕に抱かれ、その様子を黙って見ることしか出来なかった。



アデル殿下はそのまま牢屋へと連れて行かれる。



もはや抵抗する気も無くし、操り人形のように連行されるアデル殿下の後ろ姿を見ながら、私は複雑な気持ちのまま静かに息をついた。



何故、アデル殿下はあんなにもリオネル様に憎悪を向けていたのだろうか。



『貴様のせいで、僕は!』



あの言葉の意味は何だったのだろう。



しかし問おうにも、彼はもう去ったあとだった。



読んで頂き、ありがとうございます!

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