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【18】暗雲

アデルの想定より早い行動に焦るエレノア。果たして、リオネルは無事なのかーー。


私が王宮に来てから一晩が経った。


王宮内は不気味なほど静かだったが、私はアデル殿下に部屋の外へ出ることを禁じられてしまったので、窓から外を見守るしか出来なかった。



「やけに外が静かですね。クラウス様もあれから姿を見せません。ドアの前の衛兵は相変わらずいるんですけど」



希愛(のあ)が紅茶を入れながらドアの方へ忌々しげに視線を向ける。


私はここに来たときからずっと窓の外へ向けて祈りを捧げていた。


どうか大きな争いが起きませんようにと手を組み祈ると、体が桜色の柔らかな光の魔力に包み込まれた。



希愛の入れてくれた温かい紅茶を飲んで少し休憩しながら、私もドアの方を見た。


すると突然、ドンッと床を突き上げるような大きな音と振動が響いた。


机の上のカップから紅茶が零れる。



「何ごとかしら?」



「私が見てきます」



希愛がドアの外へ確認しに行くが、ほどなくして戻ってきた。



「衛兵がいません。それに廊下に人の気配がほとんどしなくて、使用人すら見かけませんでした…」



不気味な空気が流れているのが目に見えているようだった。


それぐらい嫌な予感がハッキリしてきたのだ。



アデル殿下に会いに行った方が良いと判断して、私は希愛と共に部屋を出て大広間の方へ向かった。





「皆の者、聞け!クロフォード公爵家は、伝説の聖女の力を不当に独占し、我が王家と国民を脅かした!奴らはこの国に戦争を起こそうとしているのだ!穢れた謀反人どもに玉座を奪わせはしない!クロフォード公爵家を処刑せよ!!!」



王宮の大広間にアデルの大声が響き渡る。


集まった兵たちは皆、真剣な面持ちでその言葉を聞いていた。


しかし、ここに集まった兵たちの数は少なく、村から金で雇ったような者もいて、戦力としては弱すぎる者たちの集まりだった。


アデルが兵の招集をかけても、国王派の家臣たち以外は集まりを拒否し、王国騎士団の騎士団長ですら欠席していた。



アデルの隣には副騎士団長のクラウスが、相変わらず冷や汗をかきながら立っている。


それでもアデルは焦ることなく、不敵に笑いながら剣を高々と掲げた。



「クラウス、何をそんな暗い顔をしているんだ。こちらには『聖女の癒しの力』があるのだぞ?少ない兵だろうが、いくらでも戦い続けることが出来る。これならクロフォード公爵家の集めた、取るに足らん兵など脅威にもならん」



「ええ、ええ!アデル様の仰る通りにございますな。エレノア様もすっかりアデル様に忠誠を誓っておられますし、我らの戦力は万全にございます」



クラウスは手を拱き、頭をペコペコさせながら言った。



アデルはこれからクロフォード公爵家を潰すため、兵を率いて奇襲をかけるつもりだった。


しかし、アデルが直接率いる訳ではなく、自身は玉座にふんぞり返り、クラウスにリオネルの首を取ってくるよう命令していた。



「クラウス、さっさとリオネルの首を取ってこい。父親の方もすぐに消せ。妹のルルリアは、そうだな。何かしらの政略結婚に使えるかもしれないから、生かして捕らえろ」



「…御意」



クラウスは兵たちを率いて大広間を出て行く。


アデルはグラスに注がれたワインを飲みながら、満足そうにその後ろ姿を眺めていた。




***



「なんてこと…」



私は扉に近い柱に隠れながら、先ほどの一部始終を聞いていた。


アデル殿下はこれから戦争を起こそうとしているのだ。


何も知らないリオネル様を奇襲して、殺すつもりだと。


あまりに事を起こすのが早すぎる。


想定外の自体に私は焦りの表情を浮かべ、唇を噛んだ。



このままでは、リオネル様とルルリア様のお命が危ない。


しかし、ここからどうやってリオネル様たちの元へ行けば良いのか。


ここまでは人目につかず来ることが出来たが、周りには衛兵や貴族たちが続々と集まってきていた。


隣にいる希愛もどうしたものかと思案している。



そのとき、不意に後ろから「お姉様」と声を掛けられ、2人揃って飛び上がってしまった。



「ユリル!?」



エレノアの義妹のユリルが後ろに立っていたのだ。



「どうしてここに?もう体調は大丈夫なの?」



私は思わずユリルに駆け寄って聞いた。


お見舞いに行ったときとは別人のように顔には血色が戻り、痩せ細っていた体は健康的になり、よろけることなくしっかりと立っていた。



「ええ、もう大丈夫ですわ。お姉様がお見舞いに来て下さってから、劇的に回復しましたの。…本当に、ありがとう。今まで私は、お姉様にひどいことしか言ってこなかったし、ひどいことをした。それでも、お姉様は私を見捨てなかった。許されないことをしたと分かっているけれど、ごめんなさい。ごめんなさい、お姉様」



泣きながら謝るユリルを私は優しく抱き締めた。


鬱病を発症して気落ちしてから、ユリルは毎日毎日自分を責め続けたのだろう。


きっと、ずっと辛かったはずだ。



「もういいの。謝らなくていいのよ、ユリル。私はもう大丈夫だから」



ユリルはもう十分罰を受けた。


これ以上、ユリルを責める理由などどこにも無かった。




再びどうしてここにいるのか聞けば、アデル殿下がリオネル様に戦を仕掛けるつもりなのを知って止めに来たという。



「アデル様は私に違法薬物を飲ませて殺そうとした。しかも、あの辰砂が使われた口紅の存在もアデル様は()()()()()()()()のよ。その上で、私が買うのを容認していたの」



「何ですって?」



詳しく聞こうとしたが、衛兵たちがこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。



「お姉様、こっちよ。ここから先へ行けば、外に出られるわ」



ユリルは私と希愛を通路の奥にある扉まで案内した。



「ユリルはこれからどうするの?」



「私はどこかに身を潜めて、機を見てアデル様に会いに行くわ」



「待って」



私はこれからリオネル様と合流して再び王宮に戻るから、それまでどこかで待つようにユリルに言った。


今のアデル殿下にユリルが単身で乗り込んでも、彼はどうせ聞く耳を持たないだろう。


ユリルは「分かったわ」と納得すると、私たちを扉から逃がしてくれた。



「エレノア様、急ぎましょう!」



外に出て希愛に先導されながら走ると、王宮の敷地の外れに私の護衛騎士たちが、停めてある馬車の前で待ってくれていた。



「お2人とも、こちらです!」



護衛騎士たちは帰らずに、馬車を移動させて待機してくれていたらしい。



「先ほどクラウスが率いる兵たちが、クロフォード公爵家へ向けて出立しました。今行けば、間に合うはずです」



私と希愛が馬車に乗り込むと、すぐに出発した。


読んで頂き、ありがとうございます!

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