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【17】計画

突然の使者の訪問。アデルが体調不良と言うが…?


それからしばらく経ったある日、クロフォード公爵家の屋敷に突然、王宮から私に用があると使者がやって来た。


リオネル様は北部の領地にいるクロフォード公爵に会うため、一時的に屋敷を離れていて不在だった。


ルルリア様は、他国に嫁いだクロフォード公爵の末の妹君、ルルリア様にとって叔母に当たる方と会う約束があるそうで、先ほど出掛けて行った。


つまり屋敷には私と、私の侍女として付いてくれている希愛(のあ)、家令のエルトンしか対応出来る者がいなかった。



「困りましたね。リオネル様もルルリア様もいらっしゃいません。一旦、出直すよう申しますか?」



エルトンが提案してくれたが、王宮の使者が何用で私に会いに来たのか知りたかった。



「お話を聞くだけなら問題ないでしょう。どうぞ、こちらへお通し下さいな」



エルトンは「かしこまりました」と言って引き下がり、少しして見覚えのある顔がおずおずと部屋に入って来た。


あれは、アデル殿下の近習の1人である、王国騎士団の副団長クラウスだ。


いつもアデル殿下の後ろで、ご機嫌を取りながら腰巾着のように付き従っている様子をよく目にした。



「お久しぶりです、クラウス様。今日は何の御用でこちらに来られましたの?」



私は柔らかな笑みを浮かべて聞いた。


こちらが警戒していると悟られてはいけないと、注意しながら慎重に。



「お、お久しぶりでございます、エレノア様。ええと、ですね、本日はアデル王太子殿下より、エレノア様へ至急お伝えして欲しいとのことで、ええと、参りました所存でございます」



実は…とクラウスはしどろもどろになりながら、何とも歯切れ悪く話し始めた。



「アデル殿下はここ数日、その、ご体調を崩されておりまして。ベッドから起き上がることさえ、ままならない状態なのです。何でも、ユリル様がお付けになられている化粧品のせいで、殿下も頭痛や吐き気の症状が出た、と。それで、聖女様の癒しのお力をお持ちのエレノア様にぜひ、治療して頂きたいと仰せになられまして…」



額から吹き出す汗をしきりにハンカチで拭いながら、クラウスは話し続ける。



ユリルの付けていたお化粧品のせいで、アデル殿下も体調を崩している?



その言葉に引っかかった。


ユリルの付けていたお化粧品とは、もしかして旅の商人から購入した口紅のことだろうか。


何故、アデル殿下はユリルの口紅のことを知っているのだろう。



「アデル殿下は以前より、ユリル様と定期的にお会いになられておりましたので、そのときにユリル様がお付けになられていた口紅を御覧になられたものかと」



私の疑問に、クラウスは目をキョロキョロさせながら答えた。



「そう…」



どうにも腑に落ちないところがあったが、アデル殿下も体調不良というのは気掛かりだ。


しばしの逡巡の末、私は顔を上げた。



「わかりました。アデル様のご体調を癒すため、王宮へ向かいます」



「エレノア様!?」



思わず声を上げた希愛に目配せする。


勘の良い希愛ならきっと理解してくれるはずと、心の中で祈りながら見れば、希愛もすぐに口を噤んで僅かに頷いた。



「それはそれは!アデル殿下もさぞお喜びになられるでしょう!殿下は常日頃から、エレノア様のことを何より気に掛けておられましたから」



揉み手で喜ぶクラウスに連れられて、王宮へ向かう馬車に乗り込む。



「大丈夫でしょうか。リオネル様がお戻りになるまで待っていた方が…」



馬車に揺られる中、希愛に小声でそう言われたが、変に待たせて警戒心を持たれたら、アデル殿下は何をしでかすか分からない。


こちらは従順な『振り』をして、王宮へ入ることが出来れば、そのあと多少順番が前後しても『計画通り』に行くはずだ。


そのためには私が下手な手を打つ訳にはいかなかった。



「大丈夫よ、希愛。あなたも注意深く周りを見ていてちょうだい。リオネル様はきっと来て下さるはずだから」



それからしばらくして、数ヶ月ぶりの王宮が見えてきた。


馬車から降りてクラウスにアデル殿下の私室まで案内される。


一応、護衛騎士の帯同を許されて一緒に付いてきたが、アデル殿下の私室に入る扉の前で待機するよう言われてしまった。


てっきり希愛も一緒に部屋へ入れると思っていたが、なんと希愛も部屋の外で待つよう指示される。



「何故です?私はエレノア様の侍女なのですが」



「アデル殿下は久しぶりに、エレノア様と2人きりでお話をされたいと仰せです。そんなに長時間拘束するつもりはありませんので、どうかご安心下さい。私どももお傍におりますゆえ…」



クラウスは身振り手振りで慌てたように言った。


希愛と再び目配せし合って、私は「分かりました」とため息混じりに呟いた。



部屋へ入ると、シャンデリアの照明は最小限に絞られ、カーテンも何故か閉まっている。


豪奢な天蓋付きのベッドには、アデル殿下と思しき影が上半身を起こす姿勢で座っていた。



私が部屋の中央へ進むと、クラウスは扉をやや乱暴に閉めて、その前に仁王立ちした。


アデル殿下のベッドへ近付き、「アデル様、ご体調は如何でしょうか」と声を掛けると、ベットの周りに複数の騎士が囲むように立ちはだかる。


その表情は冷たく、まるで歓迎されているようには見えない。


やはりこうなったかと、私は小さくため息をついた。



「アデル様、これは一体どういうことでしょうか」



「すまない、エレノア。こうしないと君はここに来てくれなかっただろう?エレノアの美しさは今日も素晴らしいな。まさしく僕の婚約者として相応しい!」



アデル殿下の声はベッドの上からではなく、私の後方から聞こえてきた。


ゆっくり振り返ると、照明が明るく付けられ、あまりの眩しさに目を細めた。


その狭い視界の中、アデル殿下はにこやかな笑顔を貼り付けて、私に近付いて来る。


やはりベッドの上の人物はアデル殿下ではなく、私を騙すための替え玉だった。



「アデル様、これはあまりにも横暴です。こんなことをされては、リオネル様もお怒りになられますよ」



私がリオネル様の名前を出すと、アデル殿下は愉快そうに笑った。



「エレノア、まだあんな奴に惚れているのか?あいつは卑しい謀反人だぞ。君の力を独占して利用し尽くそうとしていたのだ。そのために、ずっと前からネヴィル伯爵家に目を付けていたのさ。本当に小賢しい奴だ」



アデル殿下は忌々しそうに吐き捨てる。


全てが出鱈目でしかない話だが、今そう言ってもアデル殿下は聞く耳を持たないだろう。


これからどうするつもりだと聞くと、アデル殿下は私の肩を優しく抱いて囁くように言った。



「君は我が王家が手厚く保護するよ。聖女の力は特別だからな。僕はこれからリオネルと大事な話をするために、色々と準備をしなくてはならない」



ここで良い子で待っていてくれるね?と言われ、嫌悪感で鳥肌が立ったが、何とか微笑みの表情を作った。


アデル殿下の前では面の皮の厚さが試される。



「希愛や護衛騎士の方たちには手荒くしないで頂けますか?彼らは何も知りませんから。それから、リオネル様やルルリア様、クロフォード公爵家の方々にはどうかお優しくして下さいませ」



そう願うと、「無論だとも」と何とも物分りの良い風にアデル殿下は頷いた。



「君を乱暴に扱うつもりはないから安心してくれ。何かあったらクラウスに言えばいいからな」



アデル殿下はそう言うと、スキップしそうなほどご機嫌な様子で部屋を出て行く。


少しして、クラウスに連れられて希愛が部屋に入ってきた。



「アデル殿下より、エレノア様の身の回りのお世話をするよう仰せつかりました。護衛騎士の方々は、クロフォード公爵家に帰されてしまって…」



希愛もアデル殿下の満足気な顔を見たらしく、ひどくげんなりした様子だった。



「ごめんなさい、希愛。あなたまで巻き込むつもりではなかったの。リオネル様はもうお屋敷に帰っておはれるはずだから、エルトンから事情を聞いていると思うわ。そうすれば、リオネル様は『然るべき準備』を済ませてから、すぐにここへ駆け付けて下さるわ」



外にいる衛兵に聞かれないよう小声で話しながら、私は希愛の目を見る。


希愛は心得たように頷いた。



「私は大丈夫です。むしろ、エレノア様とご一緒にいられて良かったです。もし何かあったら、私が全力でお守り致します」



希愛は力こぶを作る真似をして胸を張った。


いつだって明るい希愛のお陰で私は元気でいられる、そんな気がした。





窓の外は相変わらず雲がどんよりと重たく空を覆っていた。



読んで頂き、ありがとうございます!


アデルの企みは一体どこへ向かうのか。

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