【16】罪の告発
希愛の過去と、アデルの罪。
そのまま眠りについたユリルをそっと寝かせ、起こさないように静かに部屋を出た。
すぐさまお医者様と看護師を呼び、ユリルを始め、お父様や使用人たち全員に診察を受けるよう指示した。
クロフォード公爵家からも人員を派遣出来るように、リオネル様へすぐ伝達してもらった。
「ユリル様の容態は、エレノア様の聖女様の癒しのお力で回復に向かわれるでしょう。他の方たちもおそらく水銀中毒の被害を受けていると思われますが、これ以上水銀を摂取しないで体から排出していけば大丈夫かと」
希愛の報告にホッとしながらも、希愛が煙草を指摘したときの、あまりの的確な様子に驚いていた。
「ねぇ、日本でも同じような煙草の事件があったの?随分と詳しかったから頼りになったわ」
私が質問すると、希愛の顔から一瞬表情が消えたのを私は見逃さなかった。
何かまずいことを聞いたということは分かったが、一度言ってしまった言葉は消えない。
「……煙草では無いんですけど、私の父親が、違法薬物を理由に警察に捕まったことがあって。それが原因で両親は離婚したんです」
あまりに壮絶な理由に息を呑んだ。
「ごめんなさい、そんな理由があったなんて…」
「いえ、いいんですよ!もう過去のことですし、父親とはそれきり縁を切ったので、私とは関係の無いことですし」
希愛の父親は真面目で優しく子供思いな人だったという。
何故、国で禁止されている違法薬物を持っていたのか不明だが、それを自身で使用していたのは明らかで、日に日に目が虚ろになり、暴力的になっていったと希愛は語った。
「真面目な仕事人だったから、毎日のストレスでおかしくなっちゃったのかもしれません。多分、そんな状態のところに『楽になれるよ』とか誘惑されて、使っちゃったんだと思います。警察が早朝に家に来て、父親が連れて行かれるのを見て、泣き叫んだ記憶だけが鮮明に残っています」
希愛の母親はそんな父親を見捨て、さっさと離婚して引っ越したため、現在の父親がどうしているのか知らないという。
「希愛は、大好きなお父様を狂わせた薬物が憎くて仕方ないのね…」
私は堪らず希愛を抱き締めた。
希愛はこの国に来て煙草の葉が違法と知っていたから、すぐに気が付いた。
父親を奈落の底に突き落とした薬物が、殺人の目的で送られたことを知って、私以上に怒りに支配されただろう。
「アデル殿下のしたことは卑劣極まりないです。私は許せません」
「私もよ。大切な妹が危機に晒された上に、違法な薬物をこの国に入れてしまった。ユリル以外にも大きな被害が出るかもしれないわ」
すぐにリオネル様にお知らせしましょうと、私と希愛はネヴィル伯爵家を出た。
クロフォード公爵家に帰ると、リオネル様にユリルの様子と煙草の葉について報告に向かう。
「先ほど護衛の者から伝達があり、すぐにネヴィル伯爵家へ使用人を数人と、滋養のある食材などを送りました。エレノア様も希愛も、2人ともありがとうございます。あなた方のお陰でユリル様のお命が救え、違法薬物についてすぐに知ることが出来た」
希愛はユリルの側仕えの侍女から受け取った、煙草の葉の入った袋をリオネル様へ渡した。
あのときはすぐに捨てろと希愛は叫んだが、アデル殿下へ証拠として突き付ける材料なので、慎重に持ってきたのだ。
ユリルの侍女は、アデル殿下から「ユリルが薬を必ず飲んだか報告しろとうるさかった」と言うので、煙草の葉によく似た見た目の生薬を用意して、それを飲ませて誤魔化した。
リオネル様は袋を開けて、顔から離して匂いと中身を確かめたり
「確かに煙草の葉が乾燥したものですね。実物を見るのは初めてですが、ここまで香りが独特だとは。匂いの強い生薬と混ぜればバレないと思ったのでしょうか。…まぁ、殿下はユリル様がいなくなれば、どうにでもなると踏んだのでしょうね」
頭が痛そうに、リオネル様は僅かに顔を顰めてため息をついた。
「リオネル様、これは立派な殺人未遂です。アデル殿下には他にも、フルールを脅迫した罪や、エタルルーシェ王国で違法とされる薬物を密輸した罪があります。すぐさま国王陛下へご報告されるべきです!」
私はほとんど懇願するように言った。
アデル殿下のこれまでの暴挙は罰せられるべきだと、必死に訴えた。
希愛も私に同意するように頷いたが、リオネル様は顎に細い指を添えて黙り込む。
何か考えがあるような仕草だった。
「…そうですね。しかし、今すぐに訴えたところでシラを切られる可能性があります。国王陛下はアデル殿下に甘いですから、証拠を隠されるかもしれません。その前に、殿下が違法薬物を密輸したという証拠を掴み、この煙草の葉と共に直接突き付けましょう」
今はまだ悟られないよう動くべきだと言われ、私は納得して頷いた。
リオネル様は万が一のために兵を集めておきますと言って、部屋を出て行く。
「エレノア様、お部屋へ戻りましょう。ルルリア様もご心配されておられるでしょうし」
「そうね…」
私は何だかそわそわするような、嫌な予感が心を支配していた。
外は雲行きが怪しくなり、重たい灰色の雲が空を覆っていた。
風も強く、夜には嵐になるかもしれない。
どうか、誰も傷付くことがありませんようにと祈りながら、部屋へ戻る廊下を歩いた。
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