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【14】エレノアの秘密

親善パーティーの最中、アデルにエレノアの秘密が知られてしまい…?


「殿下、彼女は私の婚約者です。いくら殿下とて、これは容認出来ません。お引き取り下さい」



先ほどよりも怒りを滲ませた声音でリオネル様は言い放った。


表情も視線も冷たくアデル殿下を見据える。


私は思わずリオネル様の服の袖を掴んだ。


アデル殿下は嫌そうにリオネル様を睨み付けると、リオネル様の胸ぐらを掴みドンと押した。



「貴様!この僕に逆らうというのか!?僕はこの国の王太子だぞ!貴様の首なぞ、すぐに刎ねることが出来るんだ」



それでもリオネル様は決して引かず、表情も崩さない。


周りの家臣たちや令嬢はオロオロと慌てふためいている。


不意にアデル殿下はニヤリと口元を歪めると、大きな声で笑い出した。



「やはり、貴様は卑しい謀反人だな!聞いたぞ、ネヴィル伯爵家に無断で使用人を送り込み、内情を秘密裏に探らせていたらしいな!そこで、聖女の力を持つエレノアを見つけ出し、僕に気付かれる前に奪ったのだろう!?」



周りの貴族たちが一斉に息を呑む音が聞こえた。


何故、ネヴィル伯爵家にクロフォード公爵家の使用人が潜入していることを知っている?


そして、私が聖女様の力を持つと、何故情報が漏れているのか。


リオネル様も何も言えず黙ったままだ。



「ふん、僕が気付いていないとでも思ったのか?ネヴィル伯爵家の使用人が、屋敷に不審な動きを見せる者がいると、僕に言ってきたのだ。そして、エレノアが聖女の力を持つという情報を、クロフォード公爵家の下女から()()()()聞いたのだ」



私が聖女様の力を持つということは、リオネル様とルルリア様、希愛(のあ)と家令のエルトン、そして私付きの侍女フルールしか知らないはずだ。


希愛もルルリア様も、エルトンも口が堅く、脅された程度で情報を漏らすとは考えられない。


まさか、と思って後ろに控えるフルールの方を振り向くと、彼女は青褪めた顔で震えながら泣いていた。



「どうして…」



私が喘ぐように聞くと、フルールはひたすら「申し訳ございません…申し訳ございません…」とすすり泣いて謝っていた。


罪の意識を感じて謝罪しているのではなく、何かに怯えているような様子に不審を覚えた。



「皆の者、聞け!クロフォード公爵家は謀反人だ!聖女の力を独占し、王国を、王家を脅かそうとしている!国王陛下から王座を簒奪(さんだつ)しようとしているんだ!クロフォード公爵家を許すな!!!」



アデル殿下の声に、周りの貴族たちは戸惑いを隠せない表情で互いを見合っている。



「殿下、どうか落ち着いて下さい。確かに、ユリル様のご体調を知るために、ネヴィル伯爵家に無断で使用人を送ったことは認めます。しかし、聖女様の力を独占など、決してそのような事実はございません」



リオネル様は冷静に場を収めようと、落ち着いた態度で言った。


酒に酔って興奮状態のアデル殿下は、それでも何とか言い返そうとしたが、近習に諌められて半ば連れて行かれるように会場を出て行った。



会場がザワザワと騒がしい中、私はリオネル様に命じられて別室へ行ったフルールのことが気に掛かっていた。


あんなに怯えるなんて、何か事情があったに違いない。



「エレノア様、申し訳ございません。このような自体になってしまって。アデル殿下には今一度、ご納得して頂けるまでご説明を致します。エレノア様のことは必ずお守り致しますので、ご安心下さい」



「リオネル様がお謝りになることではありません。フルールの方も、きっとアデル殿下に脅されたのでしょう。どうか、彼女を責めないであげて下さい」



私は必死になって言った。


このあと、フルールに話を聞いても良いとリオネル様から許可を貰い、部屋に行くことになった。



パーティーはその後、リオネル様やエルトン、クロフォード公爵家と懇意にしている貴族の方々が場を収めてくれ、私とリオネル様は広間の中央でダンスを披露した。


さすがに大勢の前でダンスを披露するのはとても緊張したが、リオネル様の上手なリードのお陰で足が縺れることもなく、完璧に踊り終わることが出来た。



「さすがは絵になるお二人のだな」



「エレノア様は以前は随分控えめな方だと聞いたが、見ろ。あんなに堂々とされて、ご立派な淑女になられている」



「アデル殿下が癇癪を起こすのも納得の美しさですな」




何とか親善パーティーを終え、私は急いでフルールの待つ部屋へと向かった。


部屋の前には衛兵が立っていて、私とリオネル様の来訪が告げられると、すぐにドアを開けてくれた。


フルールは薄暗い部屋の中、ソファに座って項垂れ、手で顔を覆ってすすり泣いていた。



「フルール、大丈夫?一体、何があったの?」



私はフルールの隣に座って背中を撫でる。



「フルール、君を罰するつもりは無いから安心して話してくれ」



リオネル様も優しく声を掛けると、フルールはようやく顔を上げて、「申し訳ございません…」とまた謝罪した。



「パーティーが始まる前、エレノア様のお傍を少し離れたときに、アデル殿下に呼び止められました。周りに護衛騎士の方が4人ほどいて、その方々に囲まれながら脅されたんです…」



体調を崩したユリルの見舞いに訪れた際に、ネヴィルに不審な動きをする使用人がいると密告されたアデル殿下はすぐさま調べ、それがクロフォード公爵家の者だと知った。


それと同時に、私がクロフォード公爵家に滞在していると知ったアデル殿下は、私に何か秘密があるのではないかと、怪しい匂いを感じたらしい。


そこで親善パーティーの日に、私付きの侍女を捕まえて、私の秘密について教えろと脅迫したのだ。


フルールは必死に何も無いと言い張ったが、教えなければフルールの家族を殺すとまで言われ、どうしても逆らえなかったと言った。



「アデル殿下は、クロフォード公爵家がエレノア様を招待したのではなく、聖女様の力を自分たちのものにしたいから監禁して洗脳したのだと言い出して。そうではないと、何度もお伝えしたのですが、もう何も聞こえていらっしゃらないご様子でした…」



「そうだったの。傍にいなくてごめんなさい、怖かったわね…」



申し訳ございませんと何度も泣くフルールを宥めて、私はリオネル様を見上げる。



「アデル殿下はこういうことに関しては恐ろしいくらい勘が鋭いですから、情報を聞き出すために強引な手を取ったのでしょうね。屈強な男性を引き連れ、女性を囲んで脅すとは、とても王太子の取る振る舞いではない」



リオネル様は重いため息をついた。


確かにアデル殿下のやり方は、人としてあまりに酷く、到底許せない。



このところのアデル殿下は、言動も行動も過激で、何かに取り憑かれているかのようだ。


先ほどのアデル殿下は、酒に酔っていてもしっかりとリオネル様を睨み付け、今にも殴り掛からんとしているほど、憎悪に支配されていた。


聖女様の力を私が持っていると知られた今、アデル殿下がこれから何を仕掛けてくるか、想像するだに恐ろしかった。



「エレノア様、今夜のところはもうお休みしましょう。アデル殿下のことは私にお任せ下さい。フルール、あまり自分を追い詰めないでくれ。大丈夫だからね」



リオネル様は私たちを安心させるように微笑んだ。



「リオネル様、私、明日ネヴィル伯爵家へ行って、ユリルの様子を見て来ます。私の力なら、ユリルの病も癒すことが出来るかもしれません」



リオネル様は私の提案に僅かに驚いた表情をしたが、すぐに「分かりました」と頷いてくれた。



「フルールはしばらく心を休めた方が良いから、側付きの侍女として希愛を連れて行って下さい。念の為に護衛も付けましょう」



「ありがとうございます、リオネル様」



その後、リオネル様は家令のエルトンと相談するために執務室へ戻り、私はフルールの背中を撫でながら彼女の部屋まで送り、自室へ戻った。


読んで頂き、ありがとうございます!


果たして、ユリルは無事なのか。

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