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【13】親善パーティー

淑女に生まれ変わったエレノアに、アデルは驚愕の表情で振り返る。


いよいよ、クロフォード公爵家主催の親善パーティー当日。


ルルリア様から頂いたドレスを身に纏い、希愛(のあ)が気合を入れてお化粧をして整えてくれた。



「目元はピーチピンクの繊細なパールアイシャドウでシャンデリアの下でも華やかに、筆タイプのアイライナーで目尻にアイラインを入れて印象的な顔立ちにします。クリスタルコーラルのグロスは濡れツヤ感が出て、ピンクのドレスとも引き立て合うので最強です」



それから、リオネル様に頂いたピンクサファイアのブレスレットと、このパーティーのためだけに特別に作って下さったダイヤモンドの首飾りを付けた。


背筋をスッと伸ばし、目線を真っ直ぐに前に向けて立つ私の姿を見て、ルルリア様も希愛も、リオネル様も絶賛してくれた。



「本当にお美しい。エレノア様はまさしく淑女の鑑だ。ドレスも宝飾品も、とてもお似合いです」



リオネル様に褒められて、緊張していた心が軽くなり、私は思わず微笑んだ。



「ありがとうございます。不束者ですが、頑張りますのでよろしくお願い致します」



そのまま、リオネル様と共に会場へ向かう。


クロフォード公爵家の広間は、既に多くの貴族たちで賑わっていた。


今回、ネヴィル伯爵家はパーティーに参加していないとのことだった。


ユリルが体調を崩していて、お父様もあまり具合が良くないと聞いた。



それについても、アデル殿下から事情を聞く予定だとリオネル様は言っていた。


アデル殿下に会うのは正直言ってあまり気乗りしない。


今まで散々言われた侮蔑の言葉が思い出され、自然と俯きそうになるのをグッと堪える。


今の私はリオネル様の婚約者という立場だ。


その名に恥じぬ振る舞いをしなければならない。



クロフォード公爵家に来て学んだ礼儀作法を思い出し、私は静かに深呼吸した。



「皆様、今宵はクロフォード公爵家の親善パーティーに良くぞお越し下さいました。挨拶前にお配りしたシャンパンは、200年の歴史を誇る薔薇の香りが豊かなロゼです。アプリコットとブラッドオレンジの爽やかな果実の風味をお楽しみ下さいませ」



リオネル様の乾杯の挨拶が終わると、私はリオネル様にエスコートされて、貴族の方々に婚約のご挨拶をして回った。


クロフォード公爵家が懇意にしている家柄の人たちは、私がネヴィル伯爵家の令嬢エレノアだと知っても驚いた態度を微塵も出さず、慎ましく挨拶を返してくれたが、その他の貴族たちは目を丸くしてまじまじと私を見た。


いっそ清々しいくらいジロジロと見回して、驚愕の表情を顕にしたまま、「おめでとうございます」と困惑したように呟いた。


そんな態度を出されても、私は一切揺らぐことなく挨拶をして回った。



「エレノア様、少し休憩なされますか?」



リオネル様は常に私の体調を気遣うようにゆっくり歩いてくれる。



「大丈夫です。少し緊張していましたが、慣れてきました。リオネル様がお隣にいらっしゃるから安心です」



リオネル様が安心したように、嬉しそうに笑った。


さて、いよいよアデル殿下へのご挨拶の番が回ってきた。


本来なら目上の者には最初に挨拶して回るのが礼儀なのだが、アデル殿下は堂々とパーティーに遅刻して来たのだ。


申し訳なさそうにするでもなく、反省の色もなく、用意された椅子にドカッと座り、今もふんぞり返っている。


周りには美しい相貌の令嬢を侍らせて、満足そうにシャンパンを味わっていた。



「アデル王太子殿下、お久しぶりでございます。ネヴィル伯爵家の長女、エレノアでございます」



リオネル様の隣に立ち、片足を一歩後ろに引き、膝を軽く曲げ、美しい所作を意識して挨拶をする。


アデル殿下はリオネル様が来ても興味無さそうにそっぽを向いていたが、私がエレノアだと名乗ると、驚愕の表情で勢い良く振り向いた。



「は?エレノア、だと?じょ、冗談だろう!?」



「いいえ、正真正銘ネヴィル伯爵家のご令嬢、エレノア・ネヴィル様ですよ。この度、私との婚約が正式に決まりました」



リオネル様の紹介にアデル殿下は素っ頓狂な声で「ありえない!」と言い放った。



「あの不細工で陰気なエレノアがこんなに美しくなっているなんて、ありえないだろう!どんな魔術を使ったんだ!?」



相変わらずの口汚さに私は表情に出さずに冷静でいられたが、リオネル様は僅かに眉間に皺を寄せた。


周りの家臣たちは冷や汗をかいている。



「アデル殿下、貴婦人の前でそのような言葉遣いはお控え下さい。王太子殿下として節度ある態度をお願い致します」



「ふん、相も変わらず説教臭い奴だ。たかだか公爵家の分際で、王太子である僕に向かって無礼な口をきくとは恥知らずめ。さすがは卑しい田舎者の血筋だな」



アデル殿下の言葉に空気がピリッと凍り付いた。


エタルルーシェ王国の北領を治めるクロフォード公爵家を侮辱した、王太子殿下としてあるまじき言葉である。



「アデル殿下、今のお言葉は…!」



私は堪らず声を上げようとしたが、リオネル様がそれを静かに制した。



「リオネル様…!」



リオネル様は優しく微笑んで「大丈夫ですよ」と言うと、アデル殿下に向き直り頭を下げる。



「アデル殿下、大変申し訳ございませんでした。お詫びに、殿下のためにご用意致しました、シャンパンの最高峰プレステージキュヴェでございます。爽やかな酸味と甘くフルーティーなフレーバーが特徴の甘口シャンパンです。美食家の殿下にお気に召して頂けるかと」



リオネル様は後ろに控える使用人に目配せすると、黒いボトルを手にした使用人が新しいグラスにシャンパンを注ぐ。


グラスに注がれた鮮やかな淡い黄金色の液体に、キメ細やかな泡が立ち上る。



「貴様、これでご機嫌取りのつもりか?」



アデル殿下は鼻で笑いつつも、高級シャンパンに目を奪われている様子だった。


さっそくシャンパンを味わい始め、機嫌が治ったアデル殿下に、リオネル様は質問をしていく。


こういうときのために、リオネル様はアデル殿下好みの甘口の酒を用意していたのかと、私は感心してしまった。



「殿下、今宵はユリル様がお越しになられておりませんが、何かご事情をお知りですか?噂ではご体調を崩されているとか」



「あぁ。何だか最近具合が悪いと言って、何日もベッドに臥せたままらしいな。僕も一度見舞いに行ったが、顔色が悪くてほとんど会話も出来なかった」



どうでもいい話とでも言うように、アデル殿下はシャンパンを飲みながら足を揺らす。


ユリルが体調を崩して寝込んでいるというのは本当らしい。


一体、ユリルに何があったのだろうと、不安と心配が胸に広がった。



ユリルの体調不良の原因はアデル殿下にも分からないという。


しかし、ユリルはアデル殿下の婚約者だと言うのに、アデル殿下の淡白な対応はどういうことだろう。


感染の疑いもあるから直接見舞いに行けないのは分かるが、見舞いの品も送ってないというのを聞いて開いた口が塞がらなかった。



「せっかく美しい娘を婚約者に出来たと思ったのに、こうなってしまってはまた探し直しだ。全く手間のかかる……そうだ!」



アデル殿下は突然私の方を向くと、私の手を取って口付けを落とす。



「エレノア、また僕と婚約しよう!今の君はこんなにも輝かしく美しい。まさに僕の婚約者にピッタリだ。どうだ、僕の隣で未来の王妃にならないか?」



背筋がゾワッと凍る心地がした。


嫌悪感としか言い表せない感情が胸を占めていく。



この人は何を言っているのだろうか?



まさか、ユリルが病で美しくなくなったから捨てて、代わりに私を婚約者に戻そうとしているの?


怒りを通り越してもはや感心してしまうほど、アデル殿下は下劣な人間に成り下がっていた。


私は怒りと恐怖が表情に出そうになったが、それより先にリオネル様が私とアデル殿下の間に入った。




読んで頂き、ありがとうございます!


シャンパンについて調べまくって書きました。

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