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【1】不細工令嬢と花貌の姫

不細工と罵られたエレノアの生まれ変わりストーリーです。


「アデル王太子殿下、あなたはクロフォード公爵家に関する根も葉もない怪情報を流し、エタルルーシェ王国の国民を戦渦に晒そうとした。それだけではなく、あなたには違法薬物密輸罪、傷害罪に脅迫罪、そしてネヴィル伯爵家令嬢への殺人未遂罪の容疑がかかっています。それらの証拠は全てここに揃っている」



王宮の謁見の間に置かれた玉座の前、この国の王太子であるアデル殿下が真っ青な顔で立ち尽くしている。


殿下に向けて冷えた声で罪状を伝えるのは、クロフォード公爵家のご子息であるリオネル様だ。



「アデル殿下、何か仰りたいことはありますか?」



私はリオネル様の隣に立ち、冷や汗を零し続けるアデル殿下を見つめた。



「アデル様、私はあなたを許すことは出来ません。どうか罪をお認め下さい」



――私はもう、誰にも惑わされない。




***






長い歴史と広大で肥沃な大地を有するエタルルーシェ王国。


春めかしい陽光がステンドグラスに降り注ぎ、白と金を基調とした王宮の空間を煌めかせているが、そこに冷たい嘲笑の声が響いた。



「エレノア・ネヴィル!貴様との婚約をこの場をもって破棄させてもらう!貴様のような不細工で愛想のない者ではなく、ユリルのように美しく気品に溢れた女性こそが未来の王妃に相応しい!」



エタルルーシェ王国の王太子、アデル殿下はまるで汚物でも見るような目で私を見る。



「そして、このことは我が父君である国王陛下もお認めになられた。……ふん、いくら最上級の白粉(おしろい)で繕ったところで、醜悪な顔は隠せぬものだな」



周りの貴族たちもアデル殿下の笑い声に合わせてクスクスと口端を上げ、アデル殿下と同じく侮蔑の視線を私に向けた。


婚約破棄を言い渡された私、エレノア・ネヴィルは、初代王の傍系に連なる由緒ある伯爵家の娘、とは名ばかりの『お飾り令嬢』だ。


国王陛下のご子息で王太子のアデル殿下とは、婚約者の関係だった。



私が生まれる前から親同士が決めた婚約だったが、子供の頃から『不細工令嬢』と噂される私より、『花貌(かぼう)の姫』として社交界で名を馳せる義妹のユリルとの婚約を、アデル殿下はずっと望んでいた。


アデル殿下から、私の父のネヴィル伯爵からも婚約者変更の許可をもらっていると追い打ちをかけられ、目眩(めまい)で視界が暗くなる。


足はガクガクと震え、呼吸は荒く、顔はきっと白粉以上に青白くなっていることだろう。



質素なドレスとオモチャのような宝飾品を身に付けた私の顔は、過剰なほど白粉が塗りたくられ、ボサボサの眉毛は整えておらず、一重まぶたにはオレンジ色のアイシャドウが塗られている。


そのせいでまぶたが重たい印象になってしまい、厚ぼったく細い目になってしまっていた。



「…っ!……っ!!!」



私は必死に口を開けて言葉を話そうとするが、口から零れるのは惨めで苦しげな息遣いだけだった。



「ふん、碌に言い訳のひとつも出来ないのか。まぁ、貴様の耳障りな声など聞きたくもないがな!」



明らかに他の令嬢たちより浮いた化粧に彩られている私は、ドレスのスカート部分を握り締め、情けなく震えながら顔を少し上げる。


アデル殿下の腕に抱かれたユリルが蔑むように私に微笑み、しばし見つめ合った。



「お可哀想なお姉様ね。ご自身の醜悪さを弁えないからこういうことになるのですわ。私が何度もお化粧をお教えして差し上げると言っても、お姉様は私の手を激しく叩いて振りほどき、挙句の果てに『お前ごときに私を美しくすることなど出来ない!』と、ものすごい剣幕でお怒りになられたのですわ…」



そのまま悲しげに目を伏せ、ホロホロと涙を流し始めたユリルに、会場にいた皆が同情の目を向け、アデル殿下はたまらずユリルを抱き締めた。



「ユリル、お前はなんと思いやりのある優しい娘なんだ。それなのに、こんなにも清らかな天使のようなユリルの好意を分不相応にも無下にし、厚顔にも今日のパーティーに出席するお前のような卑しい品性の女など、到底許し難い!今すぐにでも処刑してしまいたいくらいだ!」



アデル殿下は手を振り上げて私に会場から出て行くよう示した。



「さっさとこの場から立ち去れ!」



大勢の前で怒鳴られ、私は今度こそ我慢出来ずにボロボロと涙を零した。



(違う…違うの……私にこの化粧をしたのは、ユリルなのに…本当はパーティーに参加するつもりなんて、なかったのに……)



言いたいことは山ほどあるのに、震えて口が上手く開かない。


開いたところで私は『まともに話せない』のに。


そのまま涙を流しながらパーティー会場を飛び出した私は、帰りの馬車が来るまでどこかに身を隠そうと、ひたすら王城の敷地を歩き回り、中庭に辿り着いた。


息を整えながら中庭に置いてあるベンチに力なく座る。


涙でぐしょぐしょな顔はきっと鏡を見なくても、アデル殿下に言われた醜面をさらにひどくしているだろうと、自嘲気味に笑った。


笑うしかない。




私は幼少の頃から実の父親に「可愛げのない顔だ」と吐き捨てられ、使用人には陰口を言われ、腹違いの妹には毎日のように「不細工な顔で生きていて恥ずかしくないのか」と面罵(めんば)された。


そんな日々に心はすり減り、いつの間に声が出なくなっていた。


頑張って声を出そうとするが、掠れた音がする吐息が出るだけだった。


もとより屋敷にいるときは、周りから罵られるばかりで、それに反抗したことはなく、黙って受け入れていたので誰にも気付かれないだろう。



心配してくれる人も、もういない。



母は私が生まれてから間もなく亡くなり、唯一の味方だった乳母は、私が10歳になったときに父に無理やり辞めさせられ、屋敷から追い出された。


乳母は屋敷から去るとき、私に淑女のお化粧について記された書物を渡してくれた。



私の顔は一重まぶたの細い目に、ボサボサの太い眉毛と低い鼻、そして血色の悪い青白い肌をしている。


まずは、眉毛を頑張って整えてみようと、カミソリを片手に剃ってみたが、翌日にまぶたが赤く腫れてしまったのだ。


慌てて書物で調べたらどうやら『カミソリ負け』で皮膚が炎症を起こしてしまったらしい。


その件以来、私は自分で眉毛を整えることが不安になってしまい、今のようなボサボサの状態に放置してしまっていた。



次は、少しでも目を大きく見せようと、乳母の残してくれたアイシャドウを塗ってみたが、塗り方が下手すぎるのか、余計に目の細さが目立ってしまった。



そんなこんなでお化粧は自分には無理だと、簡単に諦めてしまったのが良くなかった。



私は今朝の『恐ろしい出来事』を思い出し、呼吸が荒くなるのを必死に抑えた。



読んで頂き、ありがとうございます!


エレノアのシンデレラストーリーを

どうか最後までお楽しみ下さいませ!

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