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風のささやき、永遠の約束

第13話

季節は巡り、また桜が静かに咲き誇った。


千寿は、花びらがひらりと舞い落ちる庭の一角で、ゆっくりと目を閉じた。

やわらかな春風が頬を撫で、ひとひらの桜の花びらが静かに彼女の掌に舞い降りる。

その小さな花びらは、まるで遠く離れた重衡さまからの優しい合図のように感じられた。


風のざわめきのなかに、かすかに聞こえるような彼の声。


「千寿、わたしはここにいる」


千寿は深く息を吸い込み、目を開けて夕暮れの茜色に染まる空を見上げた。

風は髪を柔らかく揺らし、静かな時間がゆっくりと流れていた。

胸の奥に温かなものが広がっていく。

悲しみが薄れるわけではないけれど、確かに希望がその隙間に灯る。


「あの人の愛は、ずっと私の中で生きている」


そう心の中でつぶやき、何度も何度も繰り返した。

彼がいた日々の温もり。

交わした言葉のひとつひとつ。

ささやかな仕草の数々。

それらは今も、確かなかたちで彼女の心に根を下ろしている。


暮れゆく空の色が少しずつ深みを増すなか、千寿は小さな湯飲みを両手で包んだ。

湯気が立ちのぼり、その温かさが冷えた指先にじんわりと染み込んでいく。


日常の些細な一瞬に、ふと彼の面影がよみがえる。


縁側の軒先でそよぐ暖簾の揺れ。


庭先で舞う小鳥のさえずり。


そうした穏やかな音に耳を傾けると、彼がそっとそばにいるように感じる。


そして、思わず顔がほころぶこともある。


「あの時、重衡さまはこんなふうに笑っていたな」


「あなたの好きだった花が今年も咲いたよ」


その言葉は、時折こぼれる涙とともに、千寿の心を支え続けた。


「ずっと、あなたが好きでした」


その想いは時を越えて深まり、心の底から静かに湧き上がる。

未来がどうなるかはわからない。

けれど、あなたと過ごした日々の記憶がある限り、私はきっと大丈夫。

悲しみを抱えながらも、少しずつ前を向いて歩いていける。


桜の花びらは、ふたたび風に舞い上がり、空高く飛び立っていく。

それは消えることのない、ふたりの絆の証だった。


千寿は微笑み、そっと目を閉じた。


心に灯るその温かな光を抱きしめながら、これからも生きていく。


「あなたに出会えて、本当に良かった。ありがとう、ずっと好きです」


その言葉が風に溶けてゆき、静かな春の空気に溶けていった。



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