5 おしごと調査
「あれ、市役所から?」
仁が郵便受けをみると、チラシに紛れて封筒がはいっていた。「三津喜市役所市民課」と印字されている。開けて三つ折りの紙を開けば、もう一枚の紙が落ちてきた。
「市にお住まいの精霊に関する就労アンケートのお知らせ……?」
精霊? と思ったが、つまりは普通の動植物ではない生き物の総称らしい。人狼や吸血鬼のこと? 無記名でかまわないので、ついている職業とか学業の調査にご協力くださいとのことだ。国勢調査みたいなものだろうか。
とりあえず一〇二号室に行き、牙狼に聞いてみることにした。牙狼は寝癖のついた頭をなでて、仁をなかに通す。
「あー、今年も来たのねえ。いいよう、あがってくださいな」
仕事かあ……いいかげん、俺も仕事しなきゃいけないんだろうけど。そう思う一方で、なんだか仕事するのが怖かった。知らない人のなかに入っていって、誰かに自分のやることを決められるのが怖いと思った。だって、絶対うまくいかない。怒られるに決まってる。やっぱり大学行けばよかったかな……。でも、それだって。
いつかは仕事をして、必死でがんばらなきゃいけないってわかっている。だけど、自分がなんにもできない人間だとつきつけられるのが怖かった。そんなことを考えながら、牙狼の部屋にあがらせてもらう。
「就労のアンケートでしょ? 知ってるー」
「牙狼さんも精霊……でいいんだよね?」
仁がそう言うと、牙狼は「んー……」と首をかしげた。なんだろう。今の会話からすると牙狼たちは精霊だということになるんだろうけど。牙狼は不思議そうな仁を見て、ああと気づき、大きな口を開けてみせた。
「それは人間の分類だからねえ。人間や他の生き物をみんな一緒にくくるようなものだけど、間違ってないよ」
「ええと……?」
「まあ、オレたちはあんまり気にしてないというか、使わないけど」
「そんなんでいいんですか?」
「人狼とか吸血鬼とかゾンビとか雪女とか、種族でいうことが多いし……でもそれって別物でしょー?」
そうか。人と犬や猫、馬や牛のように別の種類の生物だと考えているのか。でも、それをまとめる動物や哺乳類という言葉がないと。それに、たとえば人の言葉を話せる犬や猫がいたとして、彼らをどこで区分すべきなのだろうという話にもなる。
「オレは人狼だけど、人狼とか吸血鬼とかゾンビとかをまとめる言葉って『モンスター』なんだよね。でもそうすると雪女とかは入らない。この国の人間のイメージとしては。だから『街で人に近い生活をしている精霊』っていうしかないのかも」
「ああ……」
なるほど。たしかに雪女をモンスターとは表現しないかもしれないな。それなら普通の動植物じゃないよくわからないものを、全部ひっくるめて精霊と言ってしまうのはアリなのかもしれない。
「前、サキュバスが精気とる話したでしょ? 精気が人の形をもったのが『妖精』、動植物にとりついたのが『妖怪』って人間は分類してる。でも、オレやウガリみたく混血しているのもいるし、混同されているのも多いからよくわかんない。人間が勝手にそう呼んでるだけ。人のように暮らせるやつとそうじゃないやつってわけたほうがいいんじゃないかなあって思うけど」
生物学的にはともかく、人のように暮らせるやつとそうじゃないやつという分けかたは、人間のがわからすると便利かもしれないな。ただ、本当にそれでいいんだろうかという気持ちが仁のなかにある。人間が勝手に決めちゃっていいんだろうか?
「じゃあ牙狼さんは、その、人狼さんたちは自分たちのことどう考えてるの?」
「うん? 特には。人狼も人間からの呼びかただしね。人狼の言葉もあるけど……ううん、オレ、吸血鬼の言葉とかわかんないし。ウガリやヴィック、ロムといるなら人間の言葉が共通語になるし、そのほうがわかりやすいんだよなあ……」
じゃあ牙狼は人狼の言葉と人間の言葉を話せるってことか。すごいな。
「オレ、もう人狼の言葉忘れちゃったよー」
そんなことを話していたが、牙狼が首を伸ばして手元の紙をのぞきこんできた。指で空白の表を指して言う。
「とりあえず、このアパートのやつの職業書いて出せばいいよ。なんでも屋とか翻訳家とか、そんな感じで」
「そうなんですか。牙狼さんのお仕事って? 発掘してたって言ってたけど……」
「うん、それ。発掘とか浮気調査とか迷子の追跡とか。『なんでも屋』なんだ。頼まれればだいたいのことはなんでもするよー」
なるほど、だから一〇二号室の前に「なんでも屋」の看板があったのか。
「大変じゃない?」
「たーいへん! お金のことよくわかんないから、ぜーんぶウガリに任せてる」
それは仕事の大変さじゃないのではと思ったが、自営業ならお金の管理も仕事かと思い直す。
「ウガリさんに?」
「ウガリは税理士? っていうのかな。たぶん。資格とったって言ってたから。お金を数えることが好きなんだって」
「いや、仕事だからって好きってわけでは……」
「そう? ウガリ楽しそうだよ。いちまーん、にまーんって数えるの。でも、一枚足りないときは大変そうかな?」
「ガル夫ー、そこに仁さんいるかしら?」
ドアのむこうからした声はゴルゴーンのゲーアのものだった。蛇髪の女だ。
「いるよー!」
「あ、はい。ここにいます。すみません」
仁は慌ててドアを開ける。そうだ、彼女に頼んでいたことがあったんだ。
「どうしたの?」
「窓直すついでに直さなきゃならないとこ探しとけって、父が……」
こないだのバーベキューのあと、そんなことをもらしたら、ゲーアが「じゃあ、見てみるわ」と言ってくれたのだ。
「人の目よりあたしの蛇のほうが見えることもあるからね。水漏れとか。まあ、だいたい大丈夫だったわよ」
「それはよかった。ありがとうございます」
仁が頭をさげると、ゲーアがふふんと胸をはってみせた。管理人といいながら、自分のアパートのこともわからず申し訳ない。自分はなんにもできないなあという気持ちになってくる。仕事か。こんな俺でもできる仕事があるんだろうか。
「あ、そうだ。市からアンケートがきたんですけど、ゲーアさんがなんのお仕事をしてらっしゃるか聞いてもいいですか?」
「職業? 美容師やってるのよ」
そう言ってそっと自分の肩に手をやり、フケのような欠片を払った。
「……やあね、そろそろかしら」
「そういや、ハルピュイアがずっと飛んでてさー」
牙狼が窓の外を見ながらぼやく。
「あの肉をとろうとした鳥みたいなの?」
バーベキューのあとに来た、人の顔をもつ鳥のようなものだ。人の言葉らしきものを話していた。普通の鳥ではなさそうだし、あれも精霊なんだろうか? 人の姿をしている牙狼たちとはイメージが違う気がするが。
「うん、あいつ、どこからきたんだろうね?」
「どこから?」
「この国にはもともといないはずなんだけど……」
そう言った牙狼の横で、ゲーアがだらだらと汗を流している。
「どうしたの?」
「いや〜、実は、あたしの実家からの荷物に紛れこんでたらしくて……」
「ええー……」
「あんなカラスより大きいのがどうやって⁉」
「こんにちは、ええと……」
近くにハルピュイアがいるか見てみようとアパートを出たところに、黒髪おかっぱの女の人と赤髪ポニーテールの女の人がいた。たしか彼女たちもアパートの住人だったはず。ええと、ヴィックさんの話にも出てきた……。
すると、二人も気づいて声をかけてきた。
「こんにちは、都会から来た新しい管理人さんよね? 私は一〇四号室の御神雪子」
「わたしは小野由羅。やっと会えましたね、よろしくお願いします」
親しげに声をかけてきたほうが雪子、丁寧に頭をさげたのが由羅だ。仁はまず由羅を見あげ、雪子を見て、二人に挨拶をする。
「御神さんと小野さんですね、よろしくお願いします」
「名前でいいよ、雪子と由羅姫って」
「雪子さん、姫はやめてくださいよ〜」
「いいじゃんねえー」
仁をよそに、雪子と由羅はじゃれるように押しあっている。
「あ、あの……」
「あ! ごめんね。仁さん、ですよね?」
雪子と由羅が慌てて仁のほうをむいた。息がそろってる。仲がいい二人だなあ。
「そ、そうです。安和井仁です。雪子さんと由羅さんですね。その。俺、目つき悪いけど、怒ってるわけじゃないので……あの……」
「知ってるー。大丈夫! ガル夫が言って回ってたから。『いい人だから、驚かないでね』って」
「あ……」
そうだったのか。仁はなんだか胸が痛くなる。また余計なことをさせてしまったという申し訳ない気持ちのような、そうでない、なんともいえない嬉しい気持ちだ。自分でもこの気持ちがわからなくなる。
「大丈夫ですよ。そのとおりだって思いました。だから、そんなおどおどしないでくださいな」
「すみません……」
「ほら、もっとしゃっきりすればいいのに」
「すみません、すみません!」
「謝んないでもおー、堂々としてればいいのよ!」
そんなこと言われても、このクセは抜けない。
「大丈夫です。わたしたちは銀朧さんで慣れてますので」
「銀朧さん?」
「そう。ガル夫……牙狼の大叔父なんだけどね。まあ、目つき悪いの!」
「そうですね。悪人顔ですが、悪い人ではないので」
牙狼の大叔父か。やっぱり人狼なんだろうか。牙狼はウガリと親戚だって言ってたけど、ほかにも家族が……。そこまで考えて、自分が立ち入ることじゃないと仁は思った。自分が会うこともないだろうし、深く知らなくていいことだ。
「そうそう。仁さん、忙しそうですがなんのご用事ですか?」
由羅の言葉に、手にした紙を思いだした。彼女たちにも聞いておこう。
「市から就労アンケートがきたので、ご職業を聞いて回っているのですが」
「ああ、いつもの。私はスーパーの従業員って書けばいいよ。冷凍食品とかアイスとか鮮魚とかやってる」
「わたしは、まあ工事とか建設っていうのかしら? 土建業です」
そう言って由羅は腕を曲げてちからこぶを作ってみせた。力強い……。
「わたしは鬼、雪子さんは半雪女ですね。どっちもこの国の精霊なんですよ」
鬼と雪女か。昔話に出てくるのは知っていたけど、本当にいるとは。
「そういえば、どうしてここには……その、人でないかたが多いんですか?」
「どうして? 都会にもいるでしょ?」
「そうなんですか⁉」
二十年以上住んでいたが会ったことがないと思う。街中で見かけたことも――ああ、でも普段の牙狼やウガリのような姿だったら、すれ違っただけじゃわからないかもしれない。実際、言われるまで知らなかったわけだし。
「都会のものは人に紛れていますからね。気づかないのはしかたないと思います」
「ここは中途半端なところだからさ。けっこう、本性のままでいやすいのかも。精霊もさまざまなんだよ。人のように暮らせるやつ、そうできないやつ、そうしたくないやつ。人の姿をしていないもの、人の言葉がわからないものも多い。そういうのはあまり目立つところには出てこないけど……」
「はあ……」
そういやウガリも言っていたな。ここは中途半端な都市だからいやすいと。
「都会でもなく田舎でもない。人ではなく、かといって人など関係ないと言えるものではない私たちにとっては都合がいい」
「楽なんですよ、ここは。もちろん都会に暮らすものも多いし、田舎にもたくさんいるでしょう。でも、どちらにもなじめないわたしたちにはこのくらいがいいんです」
どちらにもなじめないもの。仁は都会にはいられなかったが、ここより田舎にも住めなさそうだと思った。じゃあ、ここはどうなんだろう?
「……なるほど。ご協力ありがとうございます」
ピンポーン。あわい荘の二〇二号室。
「はいよー」
「あ、こんにちは、ロムさん。ちょっとお話聞いてもいいですか?」
「おー、いいとも!」
顔を出したロムは愛想よく答えるとなかに戻っていく。
「そういえば、こないだ切られてましたけど……もう大丈夫なんですか?」
「おう。ちょうど形成外科の医者がいて、だいぶキレイに縫ってもらっちまった」
ロムが頭を手で押してみせた。なるほど、もうぐらつくことはなさそうだ。ひったくりに切られてぐらりとかたむいた首を見たとき、仁は思わず悲鳴をあげた。「そんなに驚いてくれるなよ」と言われてもビビるだろう、そんなの。痛くはないのだというが、見ているこっちがなんだか落ち着かない。
「それはよかった。ええと、ネヘブ……さんは?」
「あいつは今の時間は小学校行ってるよ」
「小学生だったんですか」
「そうだな。あいつが生きてた時代とは違うことが多いから、学びは必要だ。遊びもな。そうだろう?」
そうか、さすがに四千年前の常識では生活するのが大変なのかもしれない。四千前というのがどの程度昔なのかわからないが、たぶん、王様がいて……みたいな時代だろう。仁はミイラが小学校に行っているのを想像しようとしたが、どうもうまくいかない。給食とか水泳の授業とかどうしてるんだろうか。
「あんま心配してくれるな。四千年前ってもバカにするようなもんでもない。それに、人間にもいろんなやつがいる。ミイラがひとり入ったくらい、なんてことないのさ」
「はあ、なるほど……」
「おれたちは人間の暮らしをじゃましたり壊したりしたいわけじゃないんだ。言ってしまえばただ乗りしてるわけだからな」
「そう、ですか……」
「だから税金くらいはちゃんと払ってるんだよ、これでもな」
そこで仁は来た理由を思いだした。
「税金と言えば、市からのアンケートがありまして。その、なんの仕事をしているのかっていう……」
「ああ、あれか。おれ? Vチューバ―だよ」
「は?」
Vチューバ―というと、ヨーチューブという動画サイトでキャラクターを使って配信する人のことだよね? え、ロムが?
「ゾンビダンスしたり、歌ったり、ゲームしたりしてるんだ。見るか?」
ロムはノートパソコンを出してくる。ヨーチューブの画面に出てきたのは緑色の髪に紫のポイントカラーの女の子だ。オレンジの目に、黒のフリルとレースがたくさんついた服を着ている。ロリータファッションっていうんだっけ……? その一方で肌は青く、傷があったり継ぎ目があったりして死人のような姿でもある。
「え、これの中の人なの?」
「そうそう」
【こーんばんぞー! あははははは! 人肉ども、ありがと〜! 園木田ゾン美でございますー。今日はこの『エンジェルスレイヤー』やってくわ! 薄汚いエンジェルどもは、みんなまとめて返品ですわよ〜】
女の子が手を振ると、ゲーム画面が出てきた。こういうのって、なりたい美少女になるもんじゃないんだろうか。ゾンビはバーチャル化してもかわいいゾンビになりたいんだろうか……?
「ゾン美……ちゃん……?」
「そ。最初は人間が食べると毒なもんの食リポしてたんだが、BANされてなあ……【カエンタケ食べてみた】とかけっこう稼げたんだけど」
「そりゃそうだよ⁉」
「ガワがゾンビだと炎上しにくいんだよ。人間がやったらダメなことでもな」
ゲーム画面では異形を大剣で撃ち落としている。大剣を振り回すたび、赤いエフェクトが散った。その横でゾン美がしゃべっている。【ここでジャストパリィ! 間にあわないという人肉どもも、ボタン連打はNGですわー。実は予備動作を待ってからでも遅くないのでしてよ〜】……内容はよくわからない。仁はRPGはするが、アクションゲームは苦手だ。
「これ、全部自分でやってるんですか? この字幕とか編集も?」
「全部ではねェが、だいたいのことはやってるな」
「すっごいことやってますね……」
「ま、得意は人それぞれだな。オレはこういうのが得意だ。現実ではできないことができる。それで稼げるなら言うこたねェよ」
「それも仕事、ですか……」
俺の得意ってなんだろ。
「ここの管理人だって、仕事だろ?」
仁は困ってしまって、表現しがたい表情になる。
「そんなドン引くなよ。まあ、大変なのも今だけだ。じきに慣れるさ」
「慣れる……んですか」
「慣れたころが危ないんだ。ガル夫に頭からガブッといかれるかもしんねえぞ」
ギョッとして身をのけぞらせた仁に、ロムはけらけらと笑った。
「冗談だよ。優子さんはビビってくれなかったからなァ」
「できたー?」
ロムと別れて、部屋に帰ろうとするところに、ちょうど牙狼と行きあった。
「うん……大変だね、こういうの。毎年でしょ?」
「まあ、人間は『どこでなにをしてるか知ってると思ってる』とあんまり怖がらないみたいだし。それはこっちにとってもいいことだよ」
ああ……「どこの誰かもわからない人がなにをしてるかわからないけどなんかしてると怖い」の逆か。実際はともかく、理屈がつくと怖くなくなる。
「みんな真面目に働いてるんですね」
「うん? あんまり真面目ではないかな。それなりにってとこ。んー? でも、それは真面目っていうのかも?」
それなりに……。働くって「それなり」でいいんだろうか。
「優子さんもたまに地方情報誌のライターやってた」
「へえ……。それって大変そう……」
「『仕事はつらくなければいけない』なんてことはないんだってさ。もちろん大変なことはあるだろうけど。だからオレは好きなことやってる。そりゃ依頼は好きなことだけじゃないけど、つらくなければ仕事じゃないなんてことはないよ。あんまり真面目じゃないっていうと怒られるかな? うん、でもすっごく嫌だけど無理してやってたわけじゃない」
大学にもいかず、仕事をしなければと思いながらもできずにいた。仕事というのはつらくなければならないことで、がんばるべきことだ。それが大人になることだって思ってきた。勉強をがんばってきたのも、スポーツが苦手なのと遊べる誰かがいなかったのもあるが、学生は勉強をするものだって思っていたからだ。
「俺、よくわかんないよ」
「わかんない? うん、それなら仁さんはそれを考えてる最中ってことだね。それでいいんじゃないかな!」
「牙狼さん……」
仁がつぶやくと、牙狼は励ますように仁の背を軽くたたきながら言った。
「ガル夫でいいよー。優子さんもそう呼んでたしさ」
「う、うん。……そういえばなんで『ガル夫』さんなの?」
仁以外のアパートの人は、だいたい牙狼のことをガル夫と呼んでいる。あだ名なのかと思ったが、新参者の仁は使えないような気がしていた。
「昔ね、優子さんが話してくれたんだ。小さな甥っ子さんに『牙狼っていう友達がいて……』って話をしたら、たどたどしく『ガルお?』って聞きかえされたんだって。それ以来、オレたちは気にいってガル夫って呼んでる」
それは。その甥っ子というのは。
「うん、仁さんのことじゃないかなー」
「ガル夫、さん。俺も、ジンでいいですよ。親しか呼ばないけど……」
牙狼がぴたっと動きを止める。あれ、なんか悪いこと言っちゃったかな。そう思って声をかけようとしたとき、牙狼がにこおっと笑った。
「ジンさん! いいね。かっこいい! ジンさん! ジンさん! いいね!」
かっこいいと思ってくれている。そうならいいなと思った。
そのころ、ゲーアは部屋でファッション雑誌を読んでいた。ずるりとフケ……というには大きな皮がずるずると落ちてくる。蛇の皮だ。
「あ、やっと脱皮した。もー」