稚知謀大 陸 その1
病室の個室。
ドアを開けると、窓から少し離れた位置にベッドがある。
ゆっくり、近づく。
横たわる少年が居た。
寝たきりでベタ付いてる髪を撫でようとして、手を伸ばした。
寸前で止めた。
躊躇われた。
少年がベッドに寝ているのは、自分の所為だ。
躊躇ったのは、自分に非があると感じてしまったから。
少年が意識を戻さないのも、自分の所為だ。
伸ばした手を止めたのは、自分が巻き込んでしまったと解っているから。
だからまゆらは、、、触れられなかった。
ベッドに横たわる少年を見る。
高輪流。
独りきりだった自分に、普通に声を掛けてくれた同級生。
別に頼んでも無いのに、楽しそうに話し掛けてきてくれる同級生。
まゆらにとって、初めてだった。
保育園の頃から“同級生”には、距離を置かれていた。
小学生になると顕著になって、中学生ともなると“距離”どころか“空気”になってた。
それでもまゆらは、普通を求めた。
普通とは何か?
そんな哲学みたいなことは考えたくも無いが、とにかく“普通”が良い。
普通になりたい。
普通の人に、なりたい。
そんなまゆらに、普通に話し掛けてきてくれた少年。
それが、高輪流――。
朝、『おはよう』と言ってくれた。
終業のチャイムが鳴ると、『また明日』と言ってくれた。
普通に挨拶してくれた。
まゆらに、毎日、、、普通に、、、。
そんな単純な事で、こんなにも気になって仕方がなくなっちゃうものなんだなと、自嘲気味に笑ってしまう。
それまでまゆらは、自分は“オジ専”だと思っていた。
なんたって同年代の異性に、ほぼ興味が湧かなかったから。
ま、相手にされなかったとも言えるが、本人的にはソコは触れて欲しくない。
それより自分が“オジ專”と思えたのは、知り合った中年のおじさんが『カワイイ』と思えてしまう自分が居たから。
この感情には自分で驚いた。
ハゲたオジサンが、カワイイ。
ウソだろ!?
そう思って改めて見ても、カワイイ。
ハゲた頭をペシペシしたくなる。
出てるお腹をツンツンしたくなる。
オジサンを、無性に触りたい。
なのに、、、。
まゆらは横たわる男子生徒を見下ろした。
そんな自分が、どうしてこの高輪流というひとが気になるのだろと考え始めていた。




