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カ・ル・マ! ~天王寺の変~(改訂版)  作者: 后 陸
天王寺の変 二の章
7/98

蝶舞山揺 弐 その1

 クリーム色の車体。

 黒い布のサンルーフ。

 どうやら長い間ワックスされていないであろうフィアット500チンクェチェントが、一般道とは思えない速度で突っ走っている。


 大阪駅から近い曾根崎(そねざき)警察署を飛び出し、梅新東(うめしんひがし)の交差点から京橋方面へメイン道路をかっ飛ばす。

 JR大阪環状線の内側、『結界内』と呼ばれる区域は、季節によるが日が暮れるこの時間、極端に車や人の数が減る。

 他の車が(まばら)らとは言え、それでもスピード出し過ぎだ。


 チンクェチェントのハンドルを握っているのは、ゴスロリ。

 どっからどう見てもゴスロリ。

 無表情でハンドルを(さば)く顔が、浮世離れしていて驚く。

 この時代にわざわざミッションに乗ってるって事に、何か変なこだわりを持ってんじゃないかと性格を勘繰(かんぐ)ったりしてしまう。


 無表情な顔がキレイ過ぎて、ちょっと怖い。

 陶器(とうき)のように無機質な乳白色(ミルクホワイト)の肌は、着ている服が服だけにパッと見、高級で精工な欧州(ヨーロッパ)製の愛玩人形が運転しているようだった。


 桜宮橋が前方に見えた時、無表情のドライバーが付けているヘッドフォンに、落ち着いてはいるが、妙に軽い調子の声が聞こえた。


 「片町線の方やで~。ウチの(カン)では寝屋川添いの道で結界に入るとみた! ルネ、間に合う?」


 ルネと呼ばれた無表情のゴスロリが微笑(わら)う。

 それが、病的に美しい。


 「よゆー♡」


 言った時にはもう橋を越え、東野田の交差点をタイヤを(きし)ませて曲がるところだった。


 「楓~~」

 逆ハンを戻しながら、ルネはヘッドフォンに付いたマイクに話しかける。


 「情報ちょ~だ~ぃ」

 マイクの向こう、楓の口調は相変わらず軽い。


 「はいは~い。関目一丁目の信用金庫で閉店後、(かね)パクって日が暮れる時間まで中で隠れとった犯人(アホ)、報告では六人組」

 「大所帯の強盗ねぇ」

 「現場の警官が保護した行員の話やと、少のうてもEG(イージー)使いが二人は()るらしいで」


 ハンドルを握りながら、ニヤリと笑う。


 「ルネ~、あんた今、絶対笑ってるやろ」

 「いやだわ」

 「なに澄ましとんねん。EG使いが二人って聞いて、“撃てる”って思ってるやろ!」

 「はて?」

 「はて? ちゃうわ! なんでもかんでもスグ撃ったらアカンねんで!」


 バタン!

 フィアットのドアを閉める音は、マイクを通して楓にも聞こえた。



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