稚知謀大 伍 その5
引っ込めた左手は、肘から先の肉をざっくり数か所切られていた。
――ひ~~~~~!!
ぼたぼた落ちる自分の血を見て、ホントに血の気が引いていく。
「何をしてるんだ!」
駱嘉が李楠を怒鳴っていた。
それもそのはず、駱嘉は“蘭陵王”を呼び出す前段階、赤い風=紅迅を纏っているところだ。
この紅迅は単なる現象に過ぎなかったが、駱嘉の才能がこれを自在に操る事に成功した。
風を物質化して、攻撃する。
宿として蘭陵王を操る宿主は何人か居るが、その前の紅迅現象を使って攻撃できる者はこの駱嘉と、李楠が知る限りあと2人しかいない。
類稀な才能だ。
紅迅は攻撃出来るだけあって、触れると切れる。
それだけじゃ無く、意識的に柔らかくして管理者にやったように首に巻き付けるなども可能だ。
が、駱嘉の周囲で渦巻いてる時は刃物と同じ。
それを知らない李楠では無いはずだ。
なのに、何故?
この場の中心を、自分に持って来たかった。
あのままではきっと、駱嘉と管理者がぶつかる。
つまりこの場の中心が、あの男になってしまう。
それは避けたかった。
管理者を、舞台の上から引き摺り降ろしたかった。
李楠の目論見通り、駱嘉の意識が半分以上こちらに向いて管理者との戦闘モードは薄れた。
そうなると、管理者も半分シラケて口を尖んがらせた。
血が流れる腕を、范蘇円が持っていたハンカチで覆ってくれる。
ハンカチではとても足りない。
ボタボタ落ちる血は、止まる気配が無い。
――マジで気を失いそう、、、
李楠、フラフラ。
心配して、皆の意識が李楠に集まる。
大丈夫だと声とジェスチャーで応えながら、チラッと管理者を見る。
笑けた。
管理者の心情が、その表情から手に取るように解った。
アイツは今、きっとこう思ってる。
誰も、こっちを見ない。
李楠の予想通り、管理者は肚の内で叫んでいた。
子供のように、ダダを捏ねていた。
――全然面白く無い!
頭の中でその言葉を10回くらい吐き捨てて、やっと大きな溜息をついた。
「ちぇっ! 、、、ちょっと待ってて」
奥へ消えた。
少しして戻ってくると、右手に小さな木箱を持っていた。
持ち手の付いた、救急箱だ。
「これ、この中に包帯とか、薬とか入ってるから、使ってください」
そう言うと、面倒臭そうに差し出した。
へたり込んだ李楠が見上げる格好でお礼を言うと、管理者は頭を掻いてポケットからスマホとUSBメモリを出した。
「これも、約束ですから。なんかもう、ダリぃ感じになったんで、、、帰ります」
と去ろうとした管理者に、李楠は言葉を掛けた。
「また、情報が欲しい時は、どうすれば、、、」
立ち止まる。
頭を掻く。
「やり取りしたアドレス残します。普段は一回使うと消すんですけど、、、それ置いときますんで、何かあったらまた連絡してください」
そう言うと、管理者は奥の闇に消えて行った。




