稚知謀大 伍 その4
何か言おうとした駱嘉を制し、李楠が代わりに答えた。
「日本の漢字で“やどぬし”と書いて、“シュクジュ”です」
「へ~~、初めて聞いた。宿主って言うんですね」
「はい」
李楠はあまり反応せず、質問されたら淡々と答えることに徹した。
このタイプの人間を、思い出したからだ。
普通に暮らしてると、ごく稀に違和感を覚えるタイプの人間。
こんなタイプの人間を、李楠は知っている。
この男の、この違和感、、、。
――コイツは、人を殺す時も笑うタイプの人間だ
蟻の行列を、笑いながら踏みつけるヤツ。
蜻蛉の翅を二枚千切って、飛べなくするヤツ。
蝶々の口を無理矢理伸ばして、毟るヤツ。
、、、そんなヤツ。
反応を見せると嬉しそうに、どんどんちょっかいを掛けてくる。
だから冷静に、淡々と物事を進めて行く。
感情の起伏を無くして話していく。
――私は出来る
同時に李楠は願った。
駱嘉、范蘇円、反応してくれるな、、、と。
この男に対して、無関心を装え。
そうすれば、何も起こらない。
自分に関心が無いと思ったら、このテの男はすぐ飽きる。
現状に飽きる。
そうなれば、事無きを得る。
「!」
青白い光り。
猿の手が、また瞬間的に現れた。
今度は、その本体も半分ほど観えた。
完全に、猿だ。
シルエットは人に近いが、身長150センチくらいの猿だ。
部屋の影で半身しか観えないが、目視するには充分だ。
どうみても猿。
その猿が、キレイに直立している。
そのポーズで、右腕の拳が床に付いている。
右腕の拳だけ、、、。
しかも猿自身のウェストほど太い腕。
暗闇でも、時折青白く光って茶色の毛深い猿と判断できる。
――これは、、、式だ!!
EG使いの中でも、高等な呪を操れる能力者が持つという、式。
駱嘉の周囲を渦巻く風が、早くなった。
そして、赤く濃く色を付けていく。
管理者は、、、ニヤ付いている。
――駱嘉、乗せられるな!
心の中で怒鳴った。
無理か、今は目の前の敵に相当する人物に集中している。
駱嘉の意識をこっちに向かせなければ、、、!
――くそ!
覚悟を決め、李楠はその手を渦巻く紅迅に伸ばした。
「ぃやあああぁっ!!」
想像してた以上に痛くて、伸ばした手を引っ込めた。




