仮初夜祭 その2
さすがと言うべきは、二人揃って慌てず、動作を早めず、女の娘をゆったりと落ち着かせるよう、交番の中に招き入れようとした事だ。
若い方の警官が、先に口を開いた。
「どうしました?」
敢えてゆっくりと、一拍空けて声を掛けた。
ひとめ見て異常なのは分かっているが、それを口に出したら女の娘が平常心を保てなくなりそうに思えたから。
先輩の警官はそれに輪を描いて、大きく手を差し出しながら女の娘に言葉を掛ける。
「もう大丈夫やで。落ち着き」
言うと、よりいっそうの作り笑顔で女の娘を迎える。
二人揃って一歩、二歩と女の娘に近づいて手を差し伸べた。
まるで逃げ出した子猫を捕まえる時のように。
やさしく。
怖がらないように。
気を使って。
やさしく、やさしく、、、
だが次の瞬間、そのポーズのまま二人揃って固まることになる。
女の娘が、今、世間で一番聞きたくない単語を発したからだ。
「助けてください。あたしのカレ、“EG使い”なんです!」
逆にその言葉を吐き出せた女の娘は、これで自分を呪縛しているモノから解放されるだろうと思い、思ったら全身の力が抜けてその場にへたり込んだ。
コンクリートの、床が冷たい。
下着を通して、冷たさがお尻に伝わる。
安心感からか、その冷たさが気持ちいい。
交番に居る、二人の警官。
頼れる相手を、見上げた。
女の娘が二人の警官を見て、落胆。
すぐに走っていた時と同じく、表情が不安に満ちてしまった。
頼れるハズの二人の警官が、自分が言った“EG使い”という言葉を聞いた途端に固まって動けなくなっていたからだ。
――あぁ、、、
四つの眼球が動いた。
自分の後方へ。
――あぁ、たぶん、、、
振り返った。
思った通り視線の先に、アウターの持ち主が居た。
相変わらず引き攣った笑顔で、やさしく話しかけてきた。
「佳耶、どこ行くんや?」
気持ち悪い顔。
その顔が、引き攣って笑う。
女の娘の予想通り、頼れるはずの二人の警官は、その後すぐ死体になった。