策略謀略 肆 その7
普通のオッサン。
モブ系のオッサン。
3秒後には、どんな顔だったか忘れてしまいそうなオッサンだった。
だが、ヨレヨレの赤いトレーナーと赤いスニーカーは、楓の印象に残るだろう。
「ここは行き。行って」
「ホンマに?」
「見逃すわ。ウチらあの娘を保護せなアカンから、そこにアンタおったらルネはおっ始めるやろな。しゃーからルネが店から出て来る前にどっか行き」
楓の言葉に納得する流れだったが、先っちょは違うらしい。
戦闘モードを解かない。
「、、、まだ何かあんのか?」
楓、睨む。
「あの佳穂ちゃんは、妹取り戻すまで結界から出えへんで。保護言うても、、、」
そういう事かと、楓は先っちょの気持ちを汲んだ。
「わ~ってる。そんなん解ってるわ。そこはウチらもただの警察ちゃうねんから。ご心配には及びません」
最後のひとことは、下唇を出して少しお道化てみせた。
それでやっと、先っちょの口角が上がる。
――あれ? こいつ良えヤツやん
先っちょの表情を見て、何か感覚的にそう思った。
本来この先っちょも、手配中のEG使い。
しかもモノアイの関係者なので、警察としては確保して事情聴取すべき人物。
なのに楓の中で危険人物では無く、『良えヤツやん』ってレッテルに貼り替えられた。
こうなると“コミュ力お化け”の楓が黙ってるハズが無い。
「あんた、スマホ持ってる? ってかiPhone?」
「え? 何で? アイフォン違うけど、、、」
「ほんなら“クイック”で」
「何を?」
「何をって、交換するに決まってるやろ」
先っちょ、ちょとビビる。
デンタイの金髪くるくるパーマに、連絡先の交換を求められてる。
――これは、断れないヤツなのか、、、?
迷ってる間にも『ほらほら早よ早よ』って自分のiPhoneを持ちながら迫って来る。
――やっぱ断れない、、、
ってか、変に断ったりして怒らせて戦闘になったら、どう考えてもデンタイの2人を同時に相手にするのは無理に等しい。
だったら楓の提案を受け入れるのは、こちらとしても願ったり叶ったり、、、なのか?
――び、、、美人さんやし、、、
「よし! あ、でも連絡先交換したんは内緒やで。その方がお互い良えやろ?」
「ま、、、まあ、、、」
意識し出すと、テレて楓をマトモに見れない。
「あの娘をここまで守ってくれたことには感謝するわ。ありがと」
「、、、!!」
先っちょ、さらにテレる。
「ほなな」
そう言われ、楓と眼を合わせられないのに楓の方を向いたまま、後ろ歩きでそのまま10メートルほど退る先っちょ。
そこまで退って、やっと楓の眼を見れた。
眼が、合う。
一拍置いて、先っちょが夜の結界に消えていった。
姿が消えた方を見ていた楓の傍へ、コンビニから出て来たルネがのほほんと歩いて来た。
「ナイスタイミング」
「なに?」
「いや別に。宮崎佳穂が日本橋に向かったから、追いかけるで」
「今から? 日本橋?」
心なしか、ルネがちょっとアガった。
日本橋と言えば、モノアイのテリトリー。
「楓から誘ってくれるなんて、今日は良き日!」
「ちゃう! 仕事! 対象の保護!」
「結果、同じw」
「ちゃうわ!」
ルネの背を押して、日本橋方面へ歩き出す。
諌めるのにエネルギーを使うな~、、、と気が滅入る楓と上機嫌のルネが佳穂の後を追い始めたのを見る者が、2人、居た。
1人は、モノアイ。
もちろん、カメラ越し。
モニターの前で、画面を食い入るように見つめる。
邪魔な来訪者もやっとこさ出て行ってくれたので、これで集中できると冷蔵庫から飲み物も配置済み。
、、、そして、もう1人。
彼はコンビニでの、デンタイ2人と先っちょのやり取りを見ていた。
対面する歩道から見ていたが、誰も彼には気付いていない。
別に隠れていた訳でもない。
白のロンTに、ダメージジーンズ。
羽織るのは、カーキ色のフード付きコート。
なのに、裸足に雪駄。
季節感が無い。
伸ばした髪は背中に掛かる長さ、センターで分けられた前髪は顔の面積の半分以上を両サイドから隠していた。
薄めの無精髭。
クリアな丸眼鏡は、伝説のミュージシャンを彷彿とさせていた。
その出で立ちで、対面の歩道に立つ。
佳穂が日本橋の方へ移動し始めた時、その男もゆるりと歩き出し、後を追い始めた。
道路を挟んで、散歩するように後を追う。
この時間、結界の中を堂々と歩けるのは、、、彼もまた、EG使いだ。




